黄金のネズミと体を焼かれた少女の話
世界観について
舞台は未来のここではない世界になります。科学技術が発達し、ビルとビルの間を透明な道路が行きかい、人間ではない存在が多数登場します。美しい舞台背景と超上的な撃戦、そして登場人物が非人間的な身体能力であるにも関わらず、人間的なやりとりがこのアニメの見どころです。
物語は主人公のルーン・バロット(CV.林原めぐみ)とショーギャンブラーのシェル・セプティノス(CV.中井和哉)が、摩天楼の間を走る車の中で会話するシーンから始まります。この時、バロットは長髪のどこか蠱惑的なまだ大人になり切れていない少女であり、シェルも危うい空気を漂わせていています。この後、バロットはシェルに体を焼かれてしまい、バロットはドクター・イースター(CV.東地宏樹)に命を救われるかわりに、自分の体を焼いたシェルを追い詰めていくことになります。
前半はバロットが命を救われてから、黄金に輝くネズミ、ウフコック・ペンティーノ(CV.八嶋智人)と出会い、ウフコックとの絆を深めていき、後半はシェルに雇われたディムズデイル・ボイルド(CV.磯部勉)がバロットのところを急襲し銃撃戦となります。
魅力的な登場人物
このアニメに出てくる登場人物は皆非常に魅力的であり、人間味にあふれています。バロットと対峙し殺そうとしたボイルドですら、非常に悲しい過去を背負っており、嫌悪感はまったくわきません。
まずは主人公の一人であるバロットからお話しします。彼女は体を焼かれたのち、スナーク能力という能力を手に入れた超存在になります。自分の感覚や機械をスナークすることにより、銃弾を知覚し、機械を操り、超人的な動きをすることをできます。
未来の技術によりほぼ五体満足、それ以上の姿で蘇るのですが、一つだけ再生できない箇所がありました。それは声です。声が出せなくなってしまったバロットは、体が再生されたばかりのころは声がまったく出せず、その後も機械音のようなものになってしまいます。バロットはこのことに関して、あまり悲観している様子がありませんでしたが、私はこのことは非常に興味深い点と考えます。
この点に関して、私は物理的な声が出せないということの他に、心の声つまり『自分の想い』を周囲の人間に表現できないということを暗に言い当てているのではないかと感じたからです。バロットは父親より性的虐待を受けており、そのことを知った兄が逆上し父親に銃を向けて、現在父親は病院での生活を余儀なくされています。母親も麻薬中毒者であり、今までバロットの心の声を聞いてくれる人は誰もいませんでした。バロットは体を焼かれる前から『声』を失っていたのです。
次にそんなバロットの『声』を聞いてくれる存在、ウフコックについてお話しします。ウフコックは、万能兵器として生み出された人語を解すネズミです。様々なものにターン、変身できて物語の後半、ボイルドと戦闘になる際には、バロットの全身を覆うスーツと銃に変身します。
非常に愛らしい姿をしていますが、その発言は非常に知的であり、バロットのことを常に気にかけています。印象的だった台詞が、バロットが薄手の服に着替えるときに、寒くないかと声をかけたことです。一見すると何でもないシーンですが、この一言にウフコックの優しさと、バロットの失ってしまった『声』を引き出す想いがうかがえます。
そして、私自身もう一人の主人公と考えているディムズデイル・ボイルド(CV.磯部勉)についてです。彼は屈強な体を持ち、重力を操る人物です。科学技術により、眠ることを忘れさせられた存在として登場します。向かうところ敵なしで、ウフコックと以前組んでいましたが、ボイルドが暴走してウフコックを強制的に支配し殺戮を繰り返したのち、二人は袂を分かちます。ボイルドがバロットを追い詰める際に使っていた銃は、以前ウフコックがターンしたもののレプリカです。
鬼人のようなボイルドですが、どこか寂しげで常に泣いているような印象を受けます。ボイルドにも非常に印象的な台詞があり、殺した相手の体の一部を集める誘拐犯集団との会話で、ボイルドは命が消えたあとの『虚無』が欲しいと言ったのです。この『虚無』というのが、ボイルドという人物を紐解くキーワードになっているのではないかと思います。
ボイルドには戦争激化のために覚醒を乱用し、味方を誤爆してしまった過去があります。この時点ですでにボイルドは疲れ切っており、もう戦いたくないと思っていたのでしょうが、その凄まじい戦闘能力を買われて、眠ることのない体に作り替えられてしまいます。そうして、『虚無』だけを求める鬼人となってしまいました。いわば、彼もバロットと同じ、第三者に傷つけられた存在だったのです。もう彼の中には、自分を止める『虚無』を求める心しか残っていなかったのでしょう。
何かを求めてあがく物語
人は皆、何かを求めて、それに向かって生きていると思います。この物語に出てくる人々は皆それを手に入れたくて、でもなかなかそれができなくて、必死にあがいて、傷ついていく。そんな物語です。でも、そんな物語だからこそ、私はこの物語を何度も何度も見てしまうのだと思います。
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