自分の居場所ってどこにある? - 少年メイドの感想

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少年メイド

4.504.50
画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
4.50
演出
3.50
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自分の居場所ってどこにある?

4.54.5
画力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
3.5

目次

小学生、メイドになる(!?)

母ひとり子ひとり、貧乏な育った主人公・小宮千尋は、炊事も洗濯も完璧な万能小学生。

しかし母の死を境に天涯孤独の身となります。

そんな千尋を迎えに来たのは、叔父の鷹取円。

絶縁状態だった母の実家は、超大金持ちの大豪邸だった!

「働かざるもの食うべからず」という母の遺言(?)をもとに、

生活力0の叔父の家で、メイドとして住み込みで働くことになったのです。

自分の役割、自分の居場所

明るくゆる~い雰囲気が特徴の「少年メイド」。

基本的には一話完結のお話で構成されており、可愛いキャラクターたちの掛け合いが楽しい日常系漫画です。

メイド服、少年の足(作者曰く「ヒザ」!?)、猫耳など、作者の萌えが詰まった楽しい作品となっています。

しかし物語のはじまりが「天涯孤独」というだけに、小学生の千尋には重過ぎる現実も描かれています。

突然現れた血縁者の円に対し、心を開ききれない千尋は、「家事」という”仕事”をこなすことで「家にいてもいい」という”理由”を見出します。

自らできることを見つけて居場所を見出す千尋と、

千尋の気持ちを理解して家主として仕事をあげる円。

血は繋がっているけれどほとんど「赤の他人」である二人は、お互いに役割を明確にすることで同居を開始します。

一見よそよそしく思われる二人のスタート。

しかし、どんな家族も無意識のうちに「役割」を持っているものです。

炊事、洗濯、掃除、仕事、学業・・・

お互いに役割を得ることで家族の一員になる、家族としての"理由”を得ているのかもしれません。

絆から生まれる役割もあれば、役割から生まれる絆もある。

千尋と円の最初の選択は、家族になるための一歩だったのでしょう。

許して、支えあって、生きていく「家族」

『少年メイド』の大きなテーマは、前述にもあるように「家族」です。

円と千尋が家族になるまでの過程だけではなく、円と千代(千尋の母)、円と円の母、千代と円の母の関係も深く描かれています。

お金持ち故に、世間体が邪魔をして空中分解している鷹取家は、家族のありかたを再考させる存在となっています。

とくにこの作品でキーワードとなるのが、「許す」「支えあう」の2つです。

物語のはじまりである「千代の死」は、千尋が鷹取家に対し「母を過労死するまで助けてくれなかった」という恨みを生むきっかけとなります。

このわだかまりが血縁だけを理由に家族となることを躊躇わせ、メイドとして住み込むこととなるのですが、千尋が真の意味で円や円の母と家族になるための課題として、物語の中で常に提示されつづけるテーマとなります。

家族だからうやむやに誤魔化してやり過ごすのではなく、家族だからこそひとつひとつ許しあわなければいけない。許した先にお互いを信じあえる関係がある。そのことは千尋と円の関係によく現れています。

円に好きな食べ物を聞けなかったり、捨てイヌを拾ってきたことを言い出せない千尋。

円と千尋の間に距離があることを感じさせるエピソードがあるたびに、千尋は母のことを思い出します。

円に感じる母の面影や、母には言えたのに円には言えない弱音が、千尋が抱えるわだかまりを強く実感させ、向かい合うきっかけにさせているのです。

円のことを許し、支えてもらうこと。

何度も何度も繰り返し少しずつ解決していくことで、二人は少しずつ家族になっていくのです。

「千代の死」をきっかけに生まれたわだかまりは、千尋と円、円の母の間だけの問題ではありません。

千尋にとって許すべき対象である円自身も、「千代の死」をきっかけに母を恨むこととなります。

円と円の母の関係は幼い頃からの気持ちのすれ違いが原因でもあります。

幼い頃に熱を出した円に冷たく当たった母の思い出をはじめ、円は母に対し、常に許せないという感情を抱きつづけていました。

そのことを踏まえると、円は「千代の死」だけが母を恨むきっかけになったのではなく、「家族」として許せないボーダーを超えてしまったのが、「千代の死」であったと言えます。

つまり「千代の死」は円と円の母が家族に戻るために必要なエピソードでもあるのです。

千尋と円、円と円の母の関係を見るだけでも、お互いに許し許される関係にあることがわかります。

「千代の死」のすべての先にいる円の母ですが、果たして彼女はただ許してもらうだけの立場の人間なのでしょうか?彼女だけが家族を崩壊させた恨むべき相手なのでしょうか?

円の母自身が円たちに対してつらく当たっていたばかりではないことは、円が幼少期に熱を出したときのエピソードで、後々補完されています。

子供たちが憎くて厳しくしていたのではなく、鷹取家という名門の名を守るための厳しさであったわけです。

鷹取を出て行った千代と、家を継がずに好きな道に進んだ円は、円の母を裏切る行為であったと思われます。

円、千代、円の母は、相互に許し許される関係にあるのです。

天涯孤独な少年・千尋と生活力0の叔父・円が家族として成長していく姿を描いた『少年メイド』。

ほのぼのとした雰囲気で展開される漫画ではありますが、横たわる「家族」というテーマはかなり骨太です。

複雑に絡み合ったお互いのわだかまりが、支えあう家族としての意味を訴えかけます。

鷹取家以外の日野家や鳳家にも注目して読んでみると、また新しい「家族」の形が見えてくるかもしれません。

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