コンプレックスを脱ぎ捨てるまで - 箱入り息子の恋の感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

箱入り息子の恋

3.633.63
映像
3.50
脚本
4.00
キャスト
4.50
音楽
3.50
演出
3.50
感想数
4
観た人
5

コンプレックスを脱ぎ捨てるまで

3.03.0
映像
3.0
脚本
3.0
キャスト
4.5
音楽
2.5
演出
3.0

目次

コンプレックスに腰掛ける主人公

主人公の天野雫健太郎はさえない公務員。決まったルーティンにロボットのように従う。そこから脱却したいとは思っていないよう。例えば女性と付き合ったことがないとか、女性と話すのが苦手とか、仕事でも現状維持のまま、といったコンプレックスに気づいているのにどこかその状況を仕方ない、と思い甘えているようにさえ見える。まさにコンプレックスに腰掛けているような主人公。コンプレックスの中にいることが当たり前になっていて、むしろ他の世界なんてあるんですか?あっても面倒くさそうなんで結構です、というふてぶてしささえ感じる。そしてそれを見て勝手にヤキモキする両親と共に、見ているこっちもヤキモキイライラする。友達は爬虫類だけの35歳なんて…箱入り息子と言うよりは箱に自ら入ってます息子という感じ。年齢の数ほどコンプレックスと一緒に生きているわけなので、それを無くそうなんてよっぽどのきっかけがないとなかなか努力できない。主人公もきっとこれまでの人生の中でコンプレックスを捨てようと思えるような劇的な何かも無く、周りも腫れ物に触るかのように遠くから見守り、遂に35歳まで箱の中に。一体この冴えない、やる気のない男がどうやって変わっていくのだろう?!イライラするのにきっと誰もが共感する主人公。

不器用でひたむきなおとこ

いつものルーティンを終え仕事から帰る途中、雨に濡れながら母親の迎えを待つ美女に出会う主人公。一度は通り過ぎようとするが足が止まる。何かに引っ張られるかのように彼女の元へ戻る。目一杯の勇気で傘を渡す。この雨のシーンは主人公のとヒロインの出会いのシーンでなんとも美しい。はっきりとは描かれていないがその一瞬の、その一言で二人は恋に落ちたんじゃないか?と思わせる二人の何とも言えない表情は必見。とにかくコンプレックスに腰掛けていた、箱の中で体育すわりしていたかのような主人公がそこから一歩、いや半歩飛び出した瞬間で、がんばれ!と思わず応援したくなる。その後、ヤキモキしていた親が参加した息子の為の婚活パーティで約束を取り付けたお見合いの相手が雨のなかで出会ったあの美女、ヒロインで、奇跡の再会。お見合いの席でヒロインの父親から罵倒された時に毅然と立ち向かう主人公。そこでさらに一歩進んでコンプレックスから抜け出そうとする彼がすでにかっこよく見え始める。ついでにこれまで当たり障りなく主人公に接してきた家族も主人公が成長したいともがくペースと共に成長しているように見える。コンプレックスを持つ息子を持つ両親の成長、という視点でもなかなか興味深い。またヒロインの父親は、娘の目が見えないという現実に、コンプレックスを抱いているように見える。かたやコンプレックスをもつ息子をもち、そこから解放したい親。もう一方は娘の障害がコンプレックスになり娘をがんじがらめにする親。人生は自分だけのものじゃなく、意図せずして家族や周りを巻き込むのだと、なぜか妙に冷静に感じてしまう。そんなこんなで始まる35歳恋愛未経験者と盲目の少女の恋。中学生のような甘酸っぱい恋愛が始まる。お互いのコンプレックスを優しく包み合う主人公とヒロインに心が温かくなる。時にキュンキュン時にムズムズ痒くなるけど一場面からも目が反らせない。

最後は人生そんなに甘くないよね、、

順調に中学生恋愛〜大人の恋愛へと発展していっていた二人だが人生はそんなに甘くない。ヒロインの父親の反対があって何度か引き裂かれる二人。そのシーンがいちいち衝撃的でちょっと心臓に悪い。心臓の弱い方は要注意。目隠し推奨。そんな風に、思ったよりヒロインの父親の「娘の障害コンプレックス」がこじれていることを知ることができるシーン満載だ。何度引き裂かれても、文字通りにボロボロになってももう諦めない主人公はコンプレックスなんて過去のもの。彼女の元にダッシュするシーンがその全てを物語っている。人生で一番ダッシュしているんじゃないか‥‥というその必死な走り姿はなぜか微笑みと涙が同時に出る。そのシーンではポロポロと35年分のコンプレックスが剥がれ落ちていくかのよう。いや、主人公が振り切っていくかのような男らしさも見える。その成長具合たるや小学生から大学生までの成長を見たかのよう。人生そんなにうまくはいかないけど、何か大切なものを見つけたらダッシュして守る!暖かい気持ちとモヤモヤと清々しさ、全部経験できる。人間は多かれ少なかれ誰もがコンプレックスを持っているはず。それに気づいている人もいれば気づいていない人もいる。それを乗り越えた人もいればずっと持ちながら生きている人もいる。実は主人公とヒロインは対照的だ。主人公はコンプレックスから脱却できず生きてきた。ヒロインはコンプレックスになってあたりまえな障害があるがさほど気にしていない。むしろ親が気にしすぎている。そんな二人は自分にない痛みや喜びを相手から感じ取ったのかもしれない。誰かのために生きたくなる映画だ。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

障害がある恋は燃える

きゅんとくる恋愛邦画でここまできゅんとさせられる映画も珍しいと思いました。ヒロインの奈穂子が目に障害を持っているということもあり、恋愛の仕方もすごくロマンチック。無愛想とかそんな風に周囲に思われていた主人公の健太郎だってじつは本当はすごく誠実で優しい人だってことがわかりましたしね。最初の出会いから自分の傘を見ず知らずの彼女に貸すっていう。内気だっていうわりには自分からちゃんと声をかけてるし、彼女の父親にも自分の思ったことをちゃんと伝えてて男らしいとさえ思ってしまいました。目の見えない彼女を誘導するために手を繋ぐことを彼女の母親にきちんと承諾をもらいにいったり、吉野家に牛丼を食べにいったとき彼女が左利きだとわかりそっと腕があたらないように席を移動したり。こんなマメな気遣いができる人がなぜ今まで彼女ができなかったの!って思ってしまうほど優しかったです。普段私ベッドシーンってあまり好きじゃな...この感想を読む

3.53.5
  • ころなころな
  • 128view
  • 1034文字
PICKUP

地味なのにすごくいい映画

星野源の出演作を遡って今期話題だった連続ドラマのブームに流されて、すっかり星野源の魅力にハマってしまったので、彼の過去の出演作を調べて片っ端から見ています。そのうちのひとつがこの映画でした。「逃げ恥」と同様に、星野源さんはここでも恋愛未経験の男性を演じているわけですが、3,4年前に撮影されたものだから今より若いはずなのにも関わらず、映画前半部分での彼は本当に気持ちが悪くて笑えました。その辺にごまんといるであろう、地味でやばそうなやつという役どころを見事に演じています。実際の星野源さんはとても明るくて社交的で太陽みたいな人なのに、役のハマり方はあっぱれです。本当の姿はもしかしたらこっちの地味男の方で、ラジオやバラエティでは無理してるのかも?とも思ってしまいました。それくらいハマってました。もちろんスタッフによる演出の効果も絶大だと思います。映画内で着用しているメガネの形が本当に前時代的でダ...この感想を読む

4.54.5
  • nojinoji
  • 215view
  • 1026文字

星野源さんから

わたしは、星野源さんのファンでこの映画を観ました。彼は本当に健太郎のような役が似合うなあと改めて思った作品です。この作品は、ラストが曖昧でこれからも健太郎と奈穂子の恋は続くんだろうなあと、その後を想像できる終わり方でした。「迷惑はかけていないだろ」と言ってずっと実家暮らしの健太郎や、娘の気持ちは二の次で自分の価値観などで娘のことをすべて決めてしまう父親、そしてその父親に逆らえない母親と娘。どこにでもいる家庭の問題を結婚という視点から映画にしたものかなと思います。個人的に、健太郎が眼鏡からコンタクトレンズにするシーンがお気に入りです。奈穂子は目が見えないわけですから、健太郎がどんな容姿であっても関係ないのに眼鏡をはずした健太郎。ちゃんと奈穂子に恋をして、奈穂子と会うときは少しでもかっこいい自分でいたいという気持ちの変化が表現されているように思いました。また、ラストの健太郎が病室から点字の...この感想を読む

3.53.5
  • すずなすずな
  • 102view
  • 570文字

感想をもっと見る(4件)

関連するタグ

箱入り息子の恋が好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ