星の王子さまを読んで
大人と子供
「大人と子供はいっしょにはならない」とよく大人は言います。
子供のころ、私の親も同じようなことを何度か口にしました。当時私はその言葉を聞くたびに、「何が違うのか」と心の中で思っていました。
しかし、この物語に出てくる星の王子さまは、きっとその言葉に同意するかのように、「大人なんかと子供がいっしょにされたら困る、大迷惑だ」と答えるだろうと思いました。
王子さまはとても純粋な子どもです。だからいろんな人の言葉を素直に受け入れます。
反抗期の子どもは受け入れないじゃないか、というのは例外として考えるとして、子どもはまだ見ている世界が狭いから、見るもの聞くものすべてが新鮮です。星の王子さまも同じでした。
大人になって『星の王子さま』を読み返すと、もう忘れてしまった子どもだけが持つ大切な真っ新な心を少し思い出したような気になりました。
『ものは心で見る。肝心なことは目では見えない』
この本で一番印象に残った言葉です。
目で見るものと心でみるものとは何がどう違うのでしょうか。目で見るものといえば、誰しも様々なものを思い浮かべることができることでしょう。机、椅子、スマートフォン、テレビ、友達、先生、家族・・・。
それでは心でみるものとは一体何なのでしょうか。どうやって心で見るのでしょうか。
友達と会話する時、相手の表情を見た上で次の言葉を発する人が沢山いると思います。このとき、相手の表情を何で見ているのでしょうか。
目で見ている人は、おそらく表面上に映っている表情しか見えていないと思います。表情を見て、笑顔である場合、悲しい顔をしている場合、と自分の中で相手の心を判断しているのではないでしょうか。そうやって次に発する言葉を決めるのではないでしょうか。
一方、心で見ている人は、表面上には映らない「本心」や「内心」を見ようとしているのではないでしょうか。それから相手のことを考えて自分が次どうするのか心に聞いているのではないでしょうか。
目で見えるものを見ているのか、それとも目には見えないものを心で見ているのか、それをはっきり判断する方法はありません。相手に尋ねたところで、きっと無意識でしょうから期待する返事は返ってこないでしょう。
判断する方法があるとしたらただ一つ。それは反応を受けた人がどのように感じるかです。人と人との関係では、自分がした行動も相手に伝わるかは相手にしか分からないのです。
だからこそ余計に目には見えないものを大切にしなければならないのです。
心の目で見た時に初めて、物事を正しく見つめることができ、一番大切なことに気付けるのです。
「思いやりのある人になりなさい」と子どもの頃に大人から何度も言われました。「思いやりのある人」とは「目ではなく心で物事を見つめ、心で人と接する人」なのだと『星の王子さま』から教えられました。
思いやりのある行動、それは沢山あります。しかしながら、現代では思いやりがマナーの一種になっていると思うのです。それは『星の王子さま』が伝えたいこととは違うと思います。
思いやりのある行動はマナーではないのです。心で見つめた時、初めて自然と体が動いてしまう行動なのです。
一つの絵からわかること
『星の王子さま』を読み終えた後、私は、ボアがゾウを飲み込んだ外側の絵を何人かの人に見せました。もちろん、『星の王子さま』を読んだことがないという人にです。
見た反応は、本の中の人と似ていました。
大人はその絵を帽子にしか見えないと答えます。時々違う答えが出ても、その回答は一通りです。
しかし、小さな子供はいくつかの答えをあげます。無論、ボアがゾウを飲み込んだ外側の絵と答える子供は一人もいませんが。
大人になると、一つの見方しかできなくなるのか、答えはだいたい決まっています。
大人は様々な経験をしてきているから、子供より物事を多方面から捉えられるのではないかと考えていましたが、この本を読んでから変わりました。
大人になると、どうでもいいと感じるものに対して深く考えなくなるのでしょうか。考えるのが面倒なのでしょうか。それが原因で、一つの絵に対しても広い見方ができなくなるのだと思います。
だから小さな子どもが大人に何か伝えようとする時、いつも細かく一つ一つ説明しなければならないのです。子供同士であれば伝わる内容が、大人には伝わりません。原因は子どもが説明下手だということにだけあるのではないのです。
子どもは大人より、純粋に物事を見ています。変に勘ぐったりしません。大人になるにつれて、だんだん純粋に物事を見る目を失っていきます。悲しいけれど、これは現実なのです。けれどその心を取り戻すことはできるのではないでしょうか。少なくとも私は、『星の王子さま』のおかげで、忘れていたものを取り戻せたような気がしています。
大人と子供が違うのは当たり前です。いっしょにはなりません。そもそもものの見方、考え方自体が違うのですから。自然なことではありますが、だからと言って今のままで良いというわけではないと思います。
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