金持ち6人の激しい化学反応
一条ゆかりの代表作
一条ゆかりは、古くは「デザイナー」、最近では「プライド」、他にも「女ともだち」や「夢のあとさき」「それすらも日々の果て」など数々の名作を生み出しているが、その中でも本作品が代表作だと思う。
裕福な主人公達がいろいろな事件を解決していくというのは「こいきなやつら」にも通じるのだが、もっと大規模であるし、女同士の深い心の動きからミステリー、SFまで幅広く手がける一条ゆかりのすべてが有閑倶楽部には惜し気もなくつめこまれている。
何度かおこる誘拐事件(時には猫や鯉までも誘拐される。その発想がおもしろい!)ではワクワクさせられ、ブラジル料理殺人事件やスイス高級スパ殺人事件などでは、女性同士のせめぎ合いの見事な描きっぷりに喝采を送り、雲海和尚初恋物語や呪いの日本人形事件、瀬戸の花嫁蛇様事件などではオカルト、プレジデント学園乗っ取り事件や首飾りすり替え事件ではミステリーを堪能できる。
独特のセリフ回し
一条ゆかりの作品は短いセリフで多くを語ることが多い。ブラジル料理殺人事件では、カルナバルの受付の女性達が、美童に水を向けられて「あ、そうそう そうなのよね。」「彼女もちょっとね」というシーンで終わっているが、美童がうまく聞き出せたことがわかる。また、可憐鬼変化事件では。可憐に点滴をした清四郎が部屋を出てくると、可憐ママが言葉に出さず心配顔で清四郎に様子を尋ね、清四郎が察するなど、言葉をはしょっていたり、語尾を書かなかったりするのだが、その行間を読み込むと深い意味に気づかされ、この短い言葉とひとこまの絵でよくこれだけのことを表現できると感嘆する。
りぼんに掲載されていた当初から読んでいたが、小学生だったためそこまで読み込むことができなかった。しかしながらお気に入りの作品であったから、深い読み込みができない幼い心にも訴えかけるものがある一流の作品であったのだろう。
大人になってからは行間を読み込んで深く楽しめるようになった。いつまでも飽きのこない作品を作ることができるのが、やはり一条ゆかりの才能のすごさを物語っている。
魅力あふれる登場人物
りぼんで読んでいた頃は、金持ち故の破天荒かつ大胆な行動を楽しんでいたように思う。特に金持ち(作品中、彼らは作者にも登場人物にも「金持ち」と呼ばれているが、「お金持ち」でも「リッチ」でもなく「金持ち」と呼ぶのがふさわしいと感じる。「お金」…と上品にいうより「金(かね)」だけ腐るほど持っていながら、品性や行動や感覚がおそろしく庶民的で、時に庶民的を通り越してばかばかしいほどおもしろいのが彼らなのである)なのが剣菱悠理で、身代金が10億になるほど(とはいえ自己評価)の成金だが、彼女が、彼女というのも違和感があるほど暴れん坊でおバカなので、現金や親の権力をふりかざしても憎めない。それどころか霊感や親の身勝手故に巻き込まれるトラブルが多いので、応援したくなってしまう。
対照的なのが菊正宗清四郎で、成績優秀。学園&友達モノ漫画の場合、主人公を際立たせるため対照的に運動音痴という設定になりそうだが、運動神経も優秀。ただ、清四郎が武芸に励んだのは、もとはといえば悠理が原因であるから、悠理がいなければ清四郎も文武両道にならなかったと言える。
清四郎がどちらの面も優秀で、倶楽部のブレインであり、ミッションの作戦を立てることも多いので、清四郎一人いれば他のメンバーは不要ではと思ったこともあるが、そうならないストーリー展開がやはり一条ゆかりの腕の見せ所と感じる。
ちなみに、完璧とも思える清四郎がとんでもない失敗を起こす陶器贋作話は見物。清四郎がメンバーに馬鹿にされる唯一の話である。
清四郎といつも一緒にいる白鹿野梨子は、家柄の良い真面目なお嬢様で、倶楽部の行動に異議を唱えることも多いため、当初はきらいなキャラクターであったが、肝の座った言動をとったり、時に倶楽部の他のメンバーを驚かせるほどの大胆さを見せたりするので、すっかり好きになってしまった。筋金入りの男嫌いの野梨子にも一つだけ恋愛話があり、これがまた野梨子のキャラクターと矛盾することなく、「ああ、野梨子ってこういう恋愛するんだな」と納得したのを覚えている。
男嫌いの野梨子と逆に、玉の輿を狙うのは黄桜可憐。打算的かと思ったらロマンチストで、いつも一生懸命恋しているところがかわいい。結局のところ、意外にもメンバー内で1番のモラリスト。
こんなにも真逆の野梨子と可憐がなぜ仲良くなれたのか、その謎が番外編の中学時代に載っており、読者を見事に納得させると共に、それを一話で書ききってしまう作者の実力。この番外編を読んだことも、私が野梨子を好きになった大きな要因である。
りぼん連載中に読んでいた頃は、金髪で美しい美童が理想の王子様だった。女たらしで根性無しなのだが、きぬさんや真澄ちゃんを最後は思いやって、優しい。
でも年を重ねてからは、絵本に出てくるような王子様でなく、一癖ある男性に惹かれるもので、警視総監の息子でありながら裏社会とメカに詳しい魅録が好きに。
魅録の、恋愛に縁遠い硬派さにもまた、乙女心をくすぐられる。チチ王女とのからみでは、「苦手だ こういう会話は…」と照れており、キュンとしてしまうし、野梨子の初恋事件(私が勝手に名付けたタイトルは事件ばかりだが、実際事件がおこるので大目にみてもらいたい)で「よせよ、誰が1番心配してるかわかってるだろ」と一喝するところなど最高にかっこいい!
以前はこっちのキャラクターが好きで、次に読み返したときは別のキャラクターの良さに気付くというように、何度も楽しめるのが有閑倶楽部の魅力と言える。
これら多くのキャラクターの性格が、長い連載の間ぶれることなく、そこもさすがの一条ゆかり。難点をいえばキャラクターの描き分けをもう少し…。今となっては目の下のホクロで違いがわかるのだが、細かい線がはっきりしない連載初期のコミックスでは可憐と魅録ママの違いや、悠理ママと可憐ママの違いが分からず、物語の筋を理解するのに苦労した。
脇と言えないほど光る脇役達
とにもかくにも個性の強い6人だが、それを取り囲むキャラクターたちがまた魅力いっぱい。
百合子さんは少女趣味ながら迫力満点で、関東ヤクザの伝説の大親分までボーイフレンドにしてしまうし、ほんのちょっとの出番かと思った雲海和尚は悠理&清四郎婚約話で器の大きさを示し、初恋事件で違う器だったことを露呈し、じっちゃん主役でこんなに楽しめるなんて!と思った。魅録ママは野梨子初恋事件で度量の深さを見せ、千秋バースデイ狂想曲で優しさを見せるものだから、出番が少ないのにかっこよくてまいってしまう。
割と糞尿ネタも多いのが有閑倶楽部で、その一端を担っているというか、彼がいるからこそ糞尿ネタが出てきてしまうとも言えるのが万作さん。それでも憎めないで、ひたすら百合子さん大好きで、どこか愛らしい万作さんに対して、時さんはいばりんぼうでおこりんぼうでいいことなし…。でも、普段は狐と狸なみに仲の悪い二人がタッグを組むと、情けない親父ペアが空回りして、こども達に「役立たず」などと言われて同情したくなってしまうから不思議。
極上のエンターテイメント
主役6人の化学反応に脇役がスパイス…どころか劇薬を加え、本当に、読む度に違う味わいを楽しめる作品である。
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