ドラマより原作漫画を読むべし
主人公にまったく隙がない
医龍と聞けば、テレビドラマ化されているので主人公を演じた俳優さんがぱっとすぐ浮かびます。しかし、一度原作マンガを読むと、完全に原作のとりこになってしまいました…オペのすごさとか、人間の悪い部分・いい部分が漫画の世界だといかようにも表現し放題なので、すごく伝わりやすいです。医龍の漫画では、男女関係なく、すごく特徴的な表情をさせます。恐怖、恨み、悔しさ、悲しみ、喜び…汗もすごいかいているし、気持ち悪い顔も平気で出てくるんですけど、きもいなーってはならないのです。朝田と女性陣がずいぶんとひいきのように美しいので、なんか格差のようにも感じたのですが、恐怖とかいろいろな感情に左右されず、ただ患者と向き合っている朝田には、あまり変顔の要素もいりませんよね。常に冷静に迅速にオペを終わらせることが彼の特徴であり、その技術は絶対にゆるがない。隙がなさすぎるんですが、読んでいていつもあーやっぱりこの人なら救ってくれるんだな!っていう安心感があってよかったです。あらゆる人にとってのピンチがこの人の手によって単なる通過点に塗り替えられていく。世界を見てきたからこその圧倒的な力。こんなプロフェッショナルになりたい。そう憧れた子どもも多いはず。実際にはしがらみから抜け出せる人なんて早々いないけど、それでもやっぱり志は永遠に不滅だなと思います。
医龍が流行ったあたりは、グローバル化といってもまだ日本は海外へどんどん出ていけてはいなかったと思います。最近は理解も深まり、小学校での英語必修化も決まって、変わっていこうとしているところです。改めて医龍を読むと、当時はなんだよこいつって思われていた朝田も、現代ならすんなりと受け入れられそうだなーと感じられます。医者にとっては海外留学で医学知識を学ぶことはけっこう前から当たり前だけれど、それでもかなりの難題には違いないです。研究だけでもダメ、臨床だけでもダメ、全部できてこその技術だなと思いますね。
伊集院の成長がうれしい
これは伊集院の物語なんじゃないの?というぐらい、伊集院の心の声で埋め尽くされている医龍。朝田という権力に媚びることなく技術だけでのし上がっていく姿に、憧れつつも自分の立ち位置が揺らぐことを恐れていた伊集院。自分のポジション守っていくために、必死でしたね。それが最終的にはこんなにでかい人になって…文句たらたらだった奴はいったいどこへやら。おっかなびっくりで常に人の機嫌を伺い、観察し自己分析してきた彼だからこそ、その器用さを生かして朝田の助手として開花していきました。後ろを向こうとするたび見せつけられる朝田の実力・そして心意気。なんだ医者になったんだろう。何もなかった伊集院も、どんどんペースに巻き込まれて成長を遂げていくので、それが一番うれしかったですね。もちろん、女助教授が教授へとのし上がるためのバチスタ手術だったわけだけど、彼女の苦しみよりは伊集院の苦しみのほうが身近で、ちっぽけな奴が引き上げられていく様が痛快です。ついつい肩を持ってしまいますよ。
一番気持ちがわかるなーって思うのが、とりあえず成績がよかったし医学部に入って、医学部に入ったら医者目指すことになるからそのまま医者目指して、とりあえず研修医終わったらどこかの医局で勤めて…医学部にさえ入ってしまえば道はほぼ出来上がっているのに、それすらも揺らいで見えてしまう人の闇。年功序列の悪しき習慣があふれているのがまさに医療関係だと思うので、それを打開するのは確かな実力と結果しかない。このことがわかっているのに孤立するのが嫌で抜け出せない負のループ。そこからどうやったら出れるかは、単純なのにとても勇気のいること。どんな仕事でも、1つの仕事で生きていくときに、この悩みは必ずぶち当たると思っています。伊集院、君はごく普通の人だ。朝田に感謝してもしきれないくらい、やっぱり君は運がいいよ!
顔技が光る
医龍のすごさはやっぱり表情の描写の細かさですよね。人間の悪い感情もよい感情も、目や顔のしわでばっちり表現されています。朝田も目力が…強烈。有無を言わさぬ迫力ある表情と言葉、そして確かな技術があるという前評判…これを超えて悠々とあらゆる患者を救っていく。これはもう憧れずにはいられない…読めば読むほどあんたについていきたい!と思ってしまいます。
患者側の表情も魅力的です。1話1話適当な患者なんていないってことがまっすぐ伝わってきて、いいなーって思わせてくれます。エピソードが深いんだよなー…生きるか死ぬかを考えたときに、病気もあれば自殺もあり、事故もあり。生きることを望むこともあれば死に方を考えていることもあり。どんな命も平等に、それを生かすために救うだけじゃなく、心を救ってやることも医者の仕事なんだなーとしみじみします。やはり自分の命を預けるなら、自分が心から信用できる人を選びたいものです。
一番すごいのは野口さんですけどね。完全なる悪の顔が、仏様のような達観した顔へ…見事な変わり身だし、生き生きした感情表現が感動を伝えてくれます。
医者だってしょせん人
医龍は医者の闇をずらーっと描いています。本当にあるの?って思うけど、たぶんおおよそあるんじゃないかなと思います。特に患者のことをどう考えているか?という点で。毎日とにかくたくさんの人を相手にする仕事だから、人を見すぎて人が分からなくなる感じ?接客・営業やっている人でも共感できるかもしれないんですが、マニュアルが出来上がっちゃっててその人の背景・生活はおかまいなしってこと、大いにあると思うんです。医療関係では特にそれが如実に出てくると思います。命どうこう言っておきながら、結局は自分も神様なんかじゃなくて生活がある。楽しみたいと思っているし、できれば仕事をやりたくないと思うことすらある。たまになんで自分はこの仕事を選んだのかさえわからなくなることがある…医者という仕事は、地位・収入・名声を考えると一本道になってしまってどこへも動けなくなることがあるんじゃないでしょうか。だってそれ以外のスキルを持たない人が多すぎるから。朝田みたいにあらゆる経験を積んでいる外科医ならどこへ行っても引っ張りだこだろうけど、基本的に極める科を決めたらそれを専門にする医者になっていくわけで、それ以外はできませんってなります。せっかく救急で運び込まれても、当直のドクターが専門外の患者だったら応援を待つしかなかったりするんですよね。田舎なんか特にそうです。そして命は刻々と削られていく…もうね、一般の方々はできれば医者にかかるような状態にならないよう、努めて健康でいるべきです。できればね。
結局悪の根源なんてそんなもの
朝田のいいところは、助からない・助けられるがはっきりしているということ。迷いがなく、自分のできることに絶対的な自信を持っている。自意識過剰じゃなく、本当にそうだからかっこいいんです。それを、別にがんばってもいないのにがんばっているように見せたり、自分守って他人助けないでいたりするからいけないんですよ。どんな人間も悪になり得る汚い感情を持っていて、それをどこまでコントロールして生きていくかで人生決まるなーって思うんです。悪の根源なんて、誰にでもあるんだと、医龍を読んでると分かります。一歩間違えれば自分だってそうなるなって思う気持ちなんです。野口さんなんてね…そんな自己犠牲の道、選べるのかなって辛くなる…それくらい悪と善はすぐ近くにいます。
医龍にはいろいろな人間が出てきますから、いい社会勉強になりますよ!
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