暴力性と純粋性の両立 - ダニー・ザ・ドッグの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

暴力性と純粋性の両立

4.04.0
映像
4.0
脚本
3.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

ジェット・リーの真の魅力

この映画は、ふだんクールな役が多いジェット・リの、アクションはもちろん、演技での魅力も光っている。いや、演技というか、これが純朴で飾り気のない人柄の、ジェット・リーの本当の姿ではないかと思うほど、自然な表情を見せていて、見ているほうも彼が笑えば嬉しくなるし、泣くと悲しくなるようだ。

それでいて狂犬のように暴力性がある一面もあり、そんな側面を持ちつつ、蟻も踏み潰せないような怯えた顔をするから、不思議に思える。あんな惨めで屈辱的な生活を強いられていたにも関わらず、荒んだところがなく、はじめは人間不信気味だったものを、そのわりには、すんなりと知らない家族に馴染んで、警戒もなさそうに懐いてしまう。老人と少女しかいない家庭なら、その力でもって脅して、今度は自分が支配できる立場になれるだろうにも関わらず、しない。他より秀でた暴力的な力を持ち、犬扱いされる屈辱を味わされたら余計に、人を敵視して無闇に拳を振るいたがるところ、ダニーのように、子供のように純粋なままでいられるなんて、奇跡としか思えない。

ダニーが親の仇から離れず強くなった理由

といって、映画を見ていて、ダニーの人懐こさに違和感を覚えなかったのは、ジェット・リーのおかげもあると思うが、物語のご都合主義には思えない、なにか納得できるような理由があるからだろう。そもそもダニーは人を怖いものと思っても、憎しみや怒りを覚える対象と見てはいなかったのだと思う。

母親を殺されたのだから、記憶がなくても、そういう感情を抱いておかしくないはずだが、殺した相手より、見ているしかなかった自分、なにもできなかった自分への怒りや、後悔のほうを強く感じたと考えられる。だからか、闇のファイトクラブで、やられなければ自分が殺されるという状況でも、相手を下手に痛めつけることをしなかった。力をつける目的は、相手を倒すからでも、自分を守るためでなく、今度こそ大事な人を守るためだったのだろう。そう考えると、そうやって人を傷つけるのをためらったり、そんな奴すぐにぶっ飛ばせるだろうと思う、親代わりと自称する悪党のボスや手下の言いなりになっていたり、狂犬の名にふさわしくない言動が見られたのも納得ができる。

だとしても、あまりに馬鹿にして犬扱いされるのは限界があるように思えるが、されてもしかたないと思うような心情だったのかもしれない。母親を助けられなかった罰だと。いくらそう思ったとしても、普通は嫌になってくるので、我慢していたのにはまた、別の理由がありそうだ。

結局自分のことは自分で決着をつけるしかない

それにしたって、もう二度と後悔しないように決意し、鍛練し、その場を提供していのが親の仇立ったというから皮肉だ。もちろん、記憶をなくしていなければ、こんなことにはならなかったが、逆に傍にいるために記憶をなくしたとも考えられる。リベンジをするためだ。ただ、親の仇を殺すのではなく、救えなかった母の代わりに、大事な人を今度は守りきることを、誓ってのことだと思う。そうでなければ、とっくに親の仇を殺しいたはずだ。そのリベンジを果たすために、強くなりつつ、親の仇の行方を把握しておけるよう、その傍にいる必要があった。そして、記憶があると、どうしても怒りがわいて、リベンジを果たすチャンスがくる前に殺してしまいそうだったから、封印をした。

実際、そのチャンスがきたとき、ちょうど思い出している。それに、命乞いする親の仇にとどめを差さず、見逃そうとする。大事な人を今度は守りきったという目的を果たせたからで、復讐したかったなら、あそこで自分を止めることはできなかっただろう。どこか、ほっとした顔をしているように見えたのも、だからだと思う。

人への恨みや憎しみは、どうしたって人間性を歪ませる。相手の存在が、自分を不幸にしていると思っているからで、相手がもがき苦しみ辛い目にあってないと、気が済まないからだ。相手の幸せに起こったり、相手の不幸せに笑ったりするなど、相当精神が病んでいるし、自分の気分が相手次第なら、ある意味相手に束縛されていて、いつまでも、もやもやとした気持ちを解消することはできない。大体、そのもやもやとした気持ちを抱くのは、本当に相手のせいなのか。本当は相手にひどい目に合わされた自分の迂闊さ、弱さ、情けなさに対する許せない気持ちなのではないか。

だとしたら、もう迂闊で弱くなく、情けなくない自分になってみせないことには、自分を許せる気にはならないだろう。それでも人は許せないような、自分の情けなさを認めたくないから、悪の権化のような相手がすべて悪く、自分が情けないから、太刀打ちできなかったわけではないと思いたがる。情けない自分と向き合うのは、死ぬほど辛いことで、だからダニーの強さの根っこにあるのは、自分の弱さから、目を背けなかったことではないかと思う。そして、死ぬほど辛い思いにあったのだから、その報いに、心が汚れることがなかったのかもしれない。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ダニー・ザ・ドッグを観た人はこんな映画も観ています

ダニー・ザ・ドッグが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ