すごいぞ全盛期手塚! SF性、メッセージ性の両立 - W3の感想

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W3

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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感想数
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すごいぞ全盛期手塚! SF性、メッセージ性の両立

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

良作にうんちくはいらない!

1965年から約一年間連載した本作、産業スパイの存在が疑われる事件などいろいろあったようだがここではそれには触れない。背景がどうあれ、本作は単純に面白いからだ。それぞれの作品にいろいろなうんちくがあるだろうが、良作に対してはまず細かいうんちくよりも作品性を語るべきだろう。

手塚はこの時期以降は青年誌にも多数の作品を書いており大人向けの作品も多いが、本作は明確に子供がターゲットである。(むろん大人が読んでも面白い作品が多いことは言うまでもない)。W3はその「子供たち」に向けたメッセージ性と、話の骨子となるSF性をうまく両立させている。

手塚は短編を数多く書いている。短編の場合、ページ数が少ないので当然アイデア勝負となり、その多彩さは周知の事実だ。とはいえ当然短い作品ではメッセージ性は低くワンアイデアの作品になりがちだ。一方メッセージ性を優先すると、話の展開が中心になりSF性が置き去りになりやすい。本作はその両方をきっちりと治めている。

以下細かく触れて行こう。 

SF性の秀逸さ

本作のSF性を語る時、ラストのボッコ、プッコ、ノッコの生まれ変わりと恒星間飛行によるタイムパラドックスははずせないだろう。同時期連載していた「マグマ大使」が第一部以降は仕掛け感が減り、行き当たりばったりになってしまった気配が否めないが、本作の仕掛けは馬場先生の登場タイミングから考えて早い段階から仕込まれていたと思われる。

ネット上の多くの記事を見ると、この結末こそが味噌なのに意外と理解されていない気がする。3人が地球人に生まれ変わるのはみんな理解しているとして、問題はタイムパラドックスだ。銀河連盟の本拠地(?)から超光速飛行で地球に来たため、他の空間との時間差が起きているのだ。アインシュタインが相対性理論で説明している通り、超光速で飛ぶ宇宙船の中は外部空間から見ると時間が逆転する。

作中では「あのロケットは光の30倍の速さでとぶから(中略)地球時間で10年むかしの世界に着く」と表現している。

ここで大事なのは、銀河連盟が彼女たちを過去に送り込んだわけではない、ということだ。連盟が3人に与えた罰は「これまでの業績や記憶を帳消しにする」ことであって、たまたま3人が望んだ場所にロケットで飛ばしたらそんな結果になったのだ。

「生まれ変わったW3=カノコ、馬場、五目がボッコ、プッコ、ノッコと同時代にいるのはおかしい」という趣旨の指摘があるが、それは残念ながらこの手塚治虫の仕掛けを理解できていない、ということになる。もしこのレビューをお読みの方で「あれ?」と思った方はもう一度後半をチェックしていだきたい。

もう一点、深めておきたいことがある。それは上記のように「相対性理論がどうとか」と語らずにさらりと10年のタイムパラドックスを起こしている点だ。

当時の少年たちは科学技術に興味があった。この時、世の中は進歩し続けており、科学はその推進剤だった。明日を切り開く道具としての科学技術にあこがれ、知識を持った少年がクラスに何人もいたのだ。おそらく少年サンデーでこの最終回の意味がわからなかった少年は翌日学校でこの意味をクラス内の「博士」に聞いただろう。ボッコがノッコに装置作りを頼るように、だ。

本作連載当時、公害問題などもありはしたが少年たちはまだまだ明るい未来を信じていた。科学技術の発展とともに人間そのものが良くなっていく未来をだ。

これこそ本作のメッセージである。それを事項で触れる。 

わかりやすい平和のメッセージ+2つの調和

本作では異星人が残した超兵器の発動を恐れて平和が訪れる、というラストを迎える。物語の導入から「人類は生きるに値するか」というテーマを突きつけており、その問いに対しての結論としては「要注意だが滅ぼすほど悪くはない」と「保留」している。一見この部分だけが結論に見えるが、実はそうではない。本作ではあと2つの「調和」を描いている。

まずは人間側の真一について、彼は最初から正義感が強い人間として描かれていたが、その押し通し方はかたくなすぎて、他人との共生が不得意だった。しかし物語の中で苦難を超え、馬場から学び、W3を必死に救い、カノコの助力を得ることで柔軟な姿勢や他人に優しく接することを覚えていく。ここに手塚漫画のよき部分、「こんな大人になれ!」という願いが込められていると私は思う。

この作品が書かれてから50年もたつが、現在このようにストレートに「良い大人になれ」と語る作品があるだろうか?どちらかというと子供たちの心情にすり寄って、「子供も大変だよね。大変だけど時にはちょっとだけ頑張ってみるとほんの少しだけどいいことがあるかもしれないよ」という緩くて回りくどいソフトスタイルが多いように思う。それは時代の流れではあるのだろうが、大人が大人として機能していない、という残念な結果でもある。本作のラスト、馬場と五目がヘソがない事を笑いあうシーンの印象が強いが、その直前には真一の健全な成長を心から願う二人の会話がある。手塚は、子供は健やかに育て!大人は一生懸命その環境を作れ!と語っているのだ。

もう一点は異星人として地球にやって来たW3の調和だ。時にプッコが暴走するも最終的には申し合せることなく同じ未来を選ぶというチームの調和、そして当初見下していた地球人と生きるという種族としての調和が描かれている。

つまり本作は、人類の未来、個人の未来、社会の未来に対して「全ては分かり合える」という願いを描いているのだ。

神様と言われる手塚治虫だが、この時期「どろろ」「マグマ大使」など人気はありつつもテーマ性にバラつきがある作品も生み出してしまっている。しかし本作は一貫性を維持し、意外性を持ちつつ、わかりやすいカタルシスを提示し、愛すべきキャラクター達を描いている。どこを切っても問題ない良作だ。 

おまけ、ボッコの可愛さが究極的

あまりにも語られ過ぎていて「今さら」ではあるがボッコがとてつもなくかわいい。異星人なのに!ウサギなのに!だ!

プッコの頬にキスするシーンのわずか数コマだけでも3時間語れるところだが、レビューにならないので自制する。何しろボッコは可愛い。手塚キャラ、ラブリー部門グランプリなんてものがあれば私は間違いなく1位に彼女を挙げるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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