90年代を代表する【不条理漫画】は、30年後も不条理なのか - 伝染るんです。の感想

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伝染るんです。

4.604.60
画力
4.33
ストーリー
4.83
キャラクター
4.67
設定
4.67
演出
4.33
感想数
3
読んだ人
4

90年代を代表する【不条理漫画】は、30年後も不条理なのか

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
4.0

目次

【不条理漫画】の代名詞。そもそも不条理漫画ってなんぞや

記憶には、「写真のように焼きつく風景」というものがあると思うが、私が90年代、小学生の頃に写真のように焼き付いている漫画の風景というものが幾つかある。それが、ビックコミックスピリッツで1989年〜1994年まで連載されていた、吉田戦車の4コマの中にある。登場人物である『傷(いつも学生服で、頭に包帯を巻いて幼少期に何か深い傷を負っていたであろう少年)』が、学校の音楽の時間に「ドレミヌファソラシド〜」と歌う4コマ。「ヌはいらない! ヌは!」と突っ込む先生。ちょっとだけ怖い、怖いけど面白い。トラウマのようにこびりついているのがその4コマ、この『伝染るんです』という作品なのである。新しい笑いが、ページを開けば見られる。小学生の私はそんな楽しみ方をしていたように思える。当時、『ダウンタウンのごっつええ感じ』に夢中だった私は、少しだけ、この漫画に同じような笑いを感じ取っていたのかもしれない。あの、90年代という時代自体が不条理だったのではないか。もうなんでもありの、バブル真っ最中。新しいものをたくさん取り入れろという風潮。その中での、お笑いというジャンルの中でカリスマ的頂点に立っていた松本人志の存在。松本人志の笑いは、底にどこか物悲しさと、怖さがあった。小さな頃は本当に貧乏だったと面白おかしく話す、彼の地元である(当時彼が育った)尼崎の友達の逸話にも見える、物悲しいんだけれど笑ってしまう笑い、それが不条理なのかはわからないが、吉田戦車氏の漫画の面白さはそれに近いものがあった。ちょっと怖く、ちょっとだけ物悲しい。吉田戦車氏については岩手県出身である、なんとなく実家も裕福な匂いがするのだがーーベースに物悲しさがあって、油絵のように、そこから色々な色を被せ塗って不思議な色の笑いにしていくやり方は「その時代に非常にマッチした、新しい漫画の笑い」なのではないかと、私は思う。『伝染るんです』は、著名なブックデザイナーである祖父江慎氏による装丁も非常に印象的であった。小学生の頃、何度もページをめくって「? なんだこれ? 印刷おかしい? 間違えてる? 本屋さんに戻す?」などと小さいながらに思った記憶があり、その後高校生になって「装丁が祖父江慎氏なんだ〜! やっぱり!」と何故か納得するという、時間差の攻撃を受けたのも覚えている。

リアルタイムで観た楽しみ方、歳を取って、また再度観直す楽しみ方

リアルタイムで楽しんで観ていた小学生時代、中学生になってまた、理解力が増してから観る『伝染るんです』ーー社会人になってから、親になってから観直す『伝染るんです』ーー味わいがまた違うというのもこの作品の魅力なのではないかと思う。実際、ここ最近の楽しみかたは、実際にネットが普及して、作者の近況であるとか、趣味であるとか、そのようなものが(例えばTwitterなどで)筒抜けになっているので、筆者である吉田戦車氏に(同じ漫画家である伊藤理佐氏との間に)子供が生まれ、子育てをしながら漫画を描いていること。自宅のバスタオルをホテルのようなふわふわのバスタオルで統一したい妻をよそに、自分は薄っぺらいタオルでないと拭いた気がしない、と妻に抗議したこと。たまに1人でふらっと散歩して、映画を観て、お酒を飲みに行く。ライダーものが好きで、娘にもこっそりライダー教育(女の子なのに自分で購入し教える)するーー【うちの旦那じゃねえかよ!!】小さな頃から見ている有名な漫画家も、自分の近しい人物と同じようなことをしているんだなあ、ワッハッハーと思いながら、酒を飲みつつ漫画を読む、なんて大人な楽しみ方も出来るようになり、自分も歳をとっているのだなあと感じるのである。作品と一緒に歳をとるーー私が産んだ作品ではないが、影響を受けた作品というのは、ずっと読み続けていられるものだから、思い出と一緒に育っていける。そんな作品にリアルタイムに出会えたのは、非常に喜ばしいことなのだ。

30年後、2050年に観直す『伝染るんです』

2050年、30年以上後になっても、私はこの漫画を観るであろうし、その頃にはもう電子書籍よりもより高度なものに変化しているかもしれないが、保存の仕方が進化していく中、再度作品をダウンロードして観るような、観たいなと思う作品であろうと思う。あの祖父江慎氏の装丁が、紙ベースではなく、ただのデータとなるのは寂しい気がするが、私の記憶から消えることはないし、まだ実家にあるあの本の記憶が、新装版ではなく、あの装丁のあの大きさの、あの重さの『伝染るんです』が、私にずっと残るのだろう。将来、もし紙ベースの本がなくなってしまうのだとしたら、本の大きさ、重さ、手放すことなく大事にしている本達の、あの独特な日に焼けたあの表紙の記憶までも全て、データに残ればいいなと、今、考えている。

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問い合わせ覚悟のこだわりが潔い

本の装丁からして型破り一巻から単行本を読むと、空白のページはあるわ同じ漫画が二度掲載されているなど、落丁や乱丁が故意に行われている。実際に訴えた人もいるようだが、この作品の内容からして吉田戦車氏ならこのくらいのシャレはやるだろうという、故意の装丁ミスがかえって作品にいい味を出している。「伝染るんです。」は、単にシュールだとか、理不尽だとか、脱力とかいう内容のみでなく、落ちがないような世界観や、本の装丁にミスがあることも、笑い飛ばせる人の方が得だと言われているような気分になる。吉田氏がそんな説教がましいことを訴えるために描いたとは思えないものの、本当にバカバカしいの極致のようなことも、実は誰しも考えたことはあるし、人生無駄だと思うようなこだわりだって、人生を面白くするスパイスみたいなもの、という気がしてくる。2巻以降は1巻ほど酷い故意の装丁ミスは見られないが、巻末の白紙のページが多かったり...この感想を読む

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マイナーな漫画なぜ私が「感染るんです」を集め出したのかよく覚えてないのですが、とにかく全巻集めたいという欲求にかられて本屋に走ったのですが、マイナー漫画なせいかあんまり入荷されてなくてそれはもう何軒もまわったのを覚えています。市内の本屋は全滅で、どんどん遠い市まで車を走らせたっけ・・・それでも見つからなくて友達に「感染るんですが売ってないんだよね・・・」と愚痴ったらコンビニに売ってるよと言われました。そう、カメラの「写るんです」と間違われました。ネタのように思われますが、漫画の存在を知らないというか一般的には写るんですのほうがメジャーな存在でした。今の若い人は写るんですってなにってなるのでしょうか。インスタントカメラなんですけどね。最終的には全巻を収集できて、燃え尽きました。もう読みたいではなく買いたいが目的になってましたね。何が面白いのか?人にどういうところが面白いのかと言われると、...この感想を読む

4.54.5
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