名探偵ポワロの真骨頂 - 象は忘れないの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

象は忘れない

3.503.50
文章力
3.00
ストーリー
4.00
キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
4.00
感想数
1
読んだ人
1

名探偵ポワロの真骨頂

3.53.5
文章力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

探偵だからこそ依頼された不思議な事件

この事件は、遠い過去に起きた心中事件について、母が父を殺してから自殺したのか、父が母を殺して自殺したのか、また、何故そうするに至ったのかが知りたい、という視点からの依頼です。このようなことは、警察の調べる範疇ではありません。ただ、依頼人が心の整理をつけるためだけの調査であり、まさに名探偵ポワロだからこそ依頼された内容と言えます。人が殺された、はい、調べる、名探偵が鮮やかにトリック解明、というワンパターンになりがちなミステリとしては、とても斬新なテーマと言えるでしょう。

象たちのとりとめのない話をつなげていく、灰色の脳細胞のみの作業

象というのは、すこぶる記憶力が良いと言われていて、大昔のことでも覚えていると言われている。そのことにちなんで、当時の事件のことを断片的にでも覚えている年老いた人々を、象と例えている。今回、聞き込み役をするのはミス・オリヴァという小説家のおばさんである。それぞれの証言はとてもバラバラとしていて、少しずつ人物像は明らかになっていくのだが、読者には何がなんだか、分かるようで分からない。ただ1人、ポワロだけが、事件の全容を証言のみから導き出すのだ。主人公であるのに、事務所にいることが多く、ほとんど調査に参加しないというのも斬新である。

昨今問題となっている精神病質、サイコパスについて切り込んでいる

脳の形質的な問題があって、全く他人の痛みを分からず、「血が見たかっただけ」などと言い、その殺人衝動をいかんともしがたい人間について描かれている。どんなに家庭内で平和に育てても、兄弟の中で1人だけ異彩を放つ、恐ろしい人間は時として生まれてしまうものなのだということについて、考えさせられた。そして、そのような人を家族に持ってしまった人たちが、どんなに苦労をし、心を砕いて、犯罪を犯そうとする衝動を抑えようとしても、平和に解決することは非常に難しいことなのだと痛感させられる。彼女を長い裁判にかけ、終身刑としたり精神病棟に監禁するだけの人生を今後送らせるくらいなら、家族として始末をつけようという、あまりにも悲しく、強い愛情が真相であったことに、胸を締め付けられた。

この物語は、現在でも日本を驚愕させ、また恐ろしい気持ちにさせた、佐世保の事件や、名古屋大生の事件を思い出さずにいられない。異常さに危機意識を持ち、なんとか対応をしようとしてもご家族すら被害にあって大怪我をしたり、防げなかったこと悔いて自殺をしたりしてしまう。一体どう対応していけばよかったのか、クリスティのテーマはいつも、時代をこえて民族をこえて私たちに問いかけてくるように思う。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

象は忘れないを読んだ人はこんな小説も読んでいます

象は忘れないが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ