井上雄彦氏の異色作
珍しい「請負人」もの
井上雄彦氏というと、デビュー作「楓パープル」をはじめとするスラムダンクなどのバスケットボール漫画や、バガボンドなどの歴史ものが有名であるが、このカメレオンジェイルはアメリカを舞台に、特定の人物に完全に変身できるという特殊能力を使って事件を解決する「請負人」ものという珍しい作品である。井上雄彦氏は、シティハンターで有名な北条司氏のアシスタントをしていたが、この作品には画風に北条司氏の影響も散見され、作品自体危険請負人という、「裏の仕事人」という設定もシティハンターの影響があるのではないかと思われる。今の作風とは全く違うコミカルな描写もあり、井上氏の作品の中でも異色と言える。
主人公は東洋人と思われるため、なじみやすい
主人公は「ジェイル」と呼ばれており、アメリカが舞台のため正直どこの国籍の人間なのかよくわからない。しかし、普段危険請負人の仕事以外では寿司バーで働いている描写があり、容姿などから、東洋人、強いて言うなら日本人なのではないかと思われる。そのせいか、登場人物の大半がアメリカ人や中国人という作品であるが、なじみやすいものになっている。
過去に日本で発売されたゲームのストリートファイターが実写化された際、主人公が本来のゲームの主人公、日本人のリュウではなく、アメリカ人のガイルだったため、酷評されてしまったということがあったが、映画の作成国がアメリカだったため、そのようなことになってしまったのだろう。やはり日本人が主役の方が、海外を舞台にした作品でも感情移入しやすく、読みやすくなる。
悪者が必ず出るが、良い結末を迎える
カメレオンジェイルは一話完結型の作品であるが、危険請負人の活躍を描いた作品であるため、当然のことながら必ず作中に悪役が登場し、何かしら悪事を働いている。それを制止するのがカメレオンジェイルの役割なのだが、単に悪党を捕まえて懲らしめるだけではなく、反省に導いたり改心するという内容の回が多く、非常に救いがある内容になっている。週刊少年ジャンプの主な読者層である小中学生、高校生という年代を考えると、悪に徹してしまう悪者を懲らしめるだけ、という内容より、どんな人間にも悪い面と良い面があり、悪事を働いた側にも理由があるということを示すには、良作と言える。1980年代後半の古い作品で、少年漫画は勧善懲悪に徹してしまいがちであるが、反省する悪者の様子もしっかり描いた珍しい作品と言える。
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