全く新しいディズニーの世界
ディズニー映画ならではの美しい映像
木々や森の自然な輝き、水面の美しさ、お城の存在感やリアリティーなど、ディズニー映画ならではの圧倒的なクオリティーで表現されている。正直、もしもこの話の内容がもしつまらなかったとしても、この美しい映像を見るためだけに映画館に足を運ぶ価値はある。まるで絵本の中に入り込んだような非現実感と、どこまでも実物に近いにも関わらず実物よりも美しい世界がそこには広がっている。少女から老人まで、誰しもが引き込まれるような美しい世界観が出来上がっている。
音楽も素晴らしく、かかるタイミングから大きさ、使われている楽器の多さ、全てが壮大なディズニー映画にぴったり合っている。さすがディズニーという他ないような、レベルの高い音楽が使われている。
そんな絵本の中のような素晴らしい美しい世界に、実在する人間である主人公たちが溶け込んでいる。圧倒的な美しさと、衣装やメイクへのこだわりを随所に感じることができる。恐ろしいマレフィセントの見た目や迫力も、ここまで実写化できるとはさすがディズニーである。主演女優の目の演技には注目してほしい。プリンセスを見る優しい目付きと、裏切りにあったときの目、プリンセスのために行動するときの強い目、全てに感情がこもっていてとても高い演技力を感じる。
マレフィセントが暴れるシーンでは、壊れていく物や周りの世界の早い流れがとても分かりやすく描かれているし、リアリティーが強い。音が聞こえてくるたびにびくびくしてしまうほどの表現になっている。物語の序盤はただただ怖かったそのシーンが、終盤ではマレフィセントに共感し、見守るような気分になってしまう。マレフィセントの気持ちや人物像を丁寧に描けているからこそそういった気持ちの変化を見る者に与えているのだと考える。
悪役だからこそ光る愛情の深さ
この作品の主人公マレフィセントは、今までは同情の余地のない悪役として描かれていた。実際私自身も、美しい姫に嫉妬し呪いをかけた恐ろしい意地悪な魔女、くらいにしか思っていなかった。しかしこの作品では彼女の持つ人間らしさや美しさ、切なさなどがとても丁寧にかつ分かりやすく描かれた。なぜマレフィセントが呪いをかけるに至ったのか、その過程が非常に丁寧に、時間を割いて描かれている。また、憎しみの対象であるプリンセスを徐々に愛してしまい守ってしまう母性や、愛する者に裏切られた身を切られるような悲しみなど、理解できる感情を丁寧に描いている。マレフィセントは最初から悪魔として産まれたのではなく、そうならざるを得なかったような悲惨な出来事があったという部分を想像すらしていなかった私には衝撃的であった。物事はひとつの面から捉えてしまうと偏りが生じる、様々な角度から見なければ真の姿は見えてこないという事実はこの作品の伝えたいことのひとつであるのではないだろうか。
この作品では、誰しもが心に持つであろう嫉妬や憎しみの感情を分かりやすく表現しており、マレフィセントに共感し彼女の目線で物語を見ていくことができる。美しさのかたまりのようなプリンセスよりも、愛情や母性や嫉妬、様々な感情が描かれているマレフィセントに共感し、その気持ちを自身に投影していく人の方が多いのではないだろうか。ディズニー映画では女性は美しい憧れのプリンセスの気持ちになりきり夢を見るように鑑賞することが多いだろうが、今作では自分により近い立場の人間として深く入り込んで見ることができるだろう。今まで思っていたマレフィセント像に、ただ悪い人だと決めつけていたことに申し訳なくなり、自分の視野の狭さを痛感させられる映画だ。この映画を見て、本来人にいい人も悪い人もなく、それは主観によって簡単に判断されるだけのイメージなのではないかと考えた。
自己投影せず客観的に見るプリンセスの新しい姿
あくまでも主役がマレフィセントであることから、鑑賞する際には今までのディズニー映画よりも客観的にプリンセスの姿を見ることになる。主人公として見ていたときはその美しさに憧れ、素直で優しく女性の鑑のような存在に憧れていたプリンセス。しかし客観的にマレフィセントの目線で見てみると、愛しさや憧れだけでなく嫉妬や憎しみ、自分はこうなれない辛さが込み上げてくる。この感情は普段芸能人やクラスの人気者など、輝かしい存在に対して誰もが感じたことのある気持ちであろう。この作品では、美しいプリンセスと同じようにマレフィセントにも魅力を感じることができる。美しいプリンセスに憧れつつも、どこかで嫉妬し諦め負けた気がしている自分の人生や自分自身に、自分にしかない魅力や美しさがあるのではないかと考えさせる映画になっているのではないだろうか。自分の中にあるプリンセスになりたいという気持ちに隠された様々なコンプレックスと、人間らしい感情や行動とはなにかを感じることになる作品であると思う。
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