重たい世界観
映画でよく知る内容は実はほんの序章のみ
ジブリ映画最初の作品でも知られる、「風の谷のナウシカ」との出会いは、某ロードショウ番組で放映されていたアニメ映画でした。
まだ小学生や幼稚園の時分で、とにかく登場するキツネリスの「テト」がとても可愛くて、本当にいたら一緒に暮らしたいぐらいでした。
また、主人公ナウシカが愛用しているメーヴェですが、「乗ったらきもちいだろうなー」と子供ながらの憧れが強くありました。
そして時が経ち、大好きなアニメは元々は徳間出版のアニメージュ連載だったことがわかり、親子ともども早速単行本を購入しました。
これに関しては全7巻、一切が手書きであらわされている為、若干の見辛さがありましたので、小学生の頃の印象としてはかなりのインパクトでした。
目が慣れればあまり苦になりませんが、なにせ複雑な世界観の中、設定としては大戦中となっている為様々な国の歴史を大婆様が語る場面や、解説の部分で何回か読み込まないと組織図や関係図を飲み込みが不完全になります。
それぐらい奥が深いという事です!
アニメではかなり割愛されていますが、最終的に大戦の火ぶたは全世界まで広がり、ナウシカは今まで人間が触れてこなかった腐海の森の住民セラムとであったり、映画では持ち出されなかったナウシカの母親も回想で出てきます。
宮崎監督ならではの細かい設定で、ドルクの言葉や、アニメでは表現しきれなかったユパ・ミラルダのかっこいい場面。特にドルクの言葉を喋れたり、囚われの身の少女の心を開いたり、ナウシカを探し求めて何事にも真剣に、また異国民になどの壁に囚われず人の心を動かしていく、また正義を貫いていく姿勢が魅力的に描かれています。
人の心を愚直に表現
例えばアニメでもおなじみのクシャナがいます。この人の場合は、漫画の中では大きく人間味が表れています。
部下を重んじる情に厚い部分と、帝王の道をゆく凛々しい部分を対照的にはっきりと描かれている印象がありました。
また、ヴ王が死んだ後も自身は「代王である」とあれほど憎んでいた父親をも立て戦乱を終えた世界を引っ張っていくことを心に硬く決めたシーンがあります。
それは本当に最後のシーンになりますが、それまでの彼女の繊細な心情を描いた場面が実は多く隠れています。
特に神聖皇帝(兄)のナムリスに捕縛された時、トルメキアの誇り高い彼女は、ナウシカやユパと出会ったことにより人情の部分がどんどん切なく描かれています。
そしてまた、そんな彼女を慕う兵士たちの面にも、漫画なので動きはしないのに、まるで毛を逆立てて我慢涙をこぼさんとしていることがリアルに伺えました。
そして、映画では登場しませんでしたが、クイとカイの子供が生まれます。
描き方も人間だけでなく、戦乱の中で必死に命を引き継ぐ動物たちの生き様まで描くのは、おそらく作者の訴えそのものではないかと考えます。
漫画でしか登場しないキャラクター
(1)調停者オーマ
虚無という意味合いで、ナウシカが名づけたアニメに登場する巨神兵。
毒の光を放って、墓所へ向かう時にナウシカは相棒テトを失うことになりますが、
私は幼い巨神兵に「虚無」と名付けた瞬間、それは名づけではなくナウシカ自身からこぼれ出た巨神兵への「恐怖」ではないかと考えます。
その理由としては、まず「ママ」と呼びながらナウシカを守り、知識を吸収していく未知なる存在に対する「恐怖」と、加えて「世界を背負っている自覚が明白になった」ことに対する責務への疲労かと感じられました。
1巻から7巻にかけて、どんどんナウシカの背中に次第と積まれていく責務。それは彼女の優しい心と正義感から、必然的に課されているようにも思いますが、今の社会でもそうですが声を上げる人にこそ重大なミッションがのしかかっていくのです。
それに対して一瞬のうちに吐露した名前が、そういった印象を醸し出しているよう感じました。
(2)ルワ・チクク・クルバルカ
終盤、ナウシカとユパやクシャナ達を繋ぐ幼いながらも大きく力を発揮するキャラクターです。
物語の200年程前にほろんだ王族の末裔で、念話ができます。
正直、チククが登場したことでナウシカの心のよりどころが登場したようで安心しました。
最初にそばにいたユパや、アスベルとも離れ、一人孤高に動いていたナウシカがまた新たな局面に行くことを予想させた出来事でもあります。
彼の言葉は素直です。子供ならではではありますが、戦乱の世になればなるほど忘れてしまう「まっすぐな心」。
これをチククは訴えるのと同時に、読者への注意喚起をしているように感じます。
他にも細かいところをたどればたくさんあるのですが笑
探究心と真実を求める姿
ナウシカという存在自体が、真実を求める性格にあります。
しかし主要な登場人物は世界の混乱をただそうとするほかに、『真実を見極める心』を強調して表現しています。
複雑な世界観の中で、多くの民族が設定されて、個性的なキャラクターがある一方、戦乱の中でも真実を見つめようとする姿勢が貫徹されています。
そもそも腐海とはなにか、人々が恐れる根本的な原因は何か。
世界の傷を癒そうと動いているのが腐海であれば。
などなど、研究者の視点にもたってセリフを誘導してくれています。
私の気に入ってる場面は、森の人セラムに出会う所でした。
それまで、オーマとの旅はナウシカにとって体力の限界であり、諦めや負の心が幻影を見せているシーンも多々あります。
しかし、セラムと出会い、真実を知る勇気を取り戻したナウシカの姿は、戦乱の中でも正義をかざす勇気を持った時の姿でもあり、とてもまぶしく感じます。
現状もシャレにならない程可能性がある「火の七日間」の恐怖、恐らく広島原爆や、長崎原爆よりももっと甚大な被害をもたらしかねない可能性が現代社会に照らし合わせて垣間見ることが出来てしまいます。
民族間の不和や、戦争をすることによって得るものが実は中身が定まらないものであると、このお話は明確に表現していると思うのです。
ナウシカに憧れる研究者
話は変わりますが、ナウシカに登場するメカニックに関しては、研究開発者の夢でもあります。
現に先日、メーヴェをモデルにした人型飛行機が試作されています。
他にも登場するガンシップのあの独特なフロントやエンジン構造など、細かいところまで繊細に描かれている分、夢の実現はいつか叶うのではないかと、1、ファンも期待してしまうところではあります。
しかし実際に完成した時は、ぜひ一度乗ってみたいと思います。しかし高所恐怖症の人のためになにか優しい設備を作ってほしいです。
ちなみに、アニメで出てくるテパは、ナウシカを「姫姉さま」と尊敬し仰いでいました。
ナウシカが旅立った後に、大婆様が風使いとしてデビューするテパを幼いナウシカに重ねて「新しい風の御子の誕生」と、死んだジルに語りかけているシーンが印象的です。
辺境の地の為、戦乱に違う形で巻き込まれながらも必死に国の子供たちに技術や精神を繋いでいく、小さな国の姿がたまに見られるのも、シビアなお話が続く中で息抜きの1シーンになります。
大婆様が語る言葉は、歴史と、人と、未来を見据えた予言みたいなので、いつも注目している所です。
長く愛される1作
子供の頃はアニメ映画でも十分「楽しめる」とこは可能ですが、出来れば物心ついた時に読み返したい作品です。
あの数時間の中に込められた宮崎監督の、メッセージの重さが、違う角度でみえます。
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