漫画版ナウシカはテーマはA級だが漫画としてはB級だ! - 風の谷のナウシカの感想

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風の谷のナウシカ

4.254.25
画力
4.25
ストーリー
4.38
キャラクター
4.75
設定
4.75
演出
4.13
感想数
4
読んだ人
23

漫画版ナウシカはテーマはA級だが漫画としてはB級だ!

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
2.5

目次

語りつくされている本作で語られていない要素

漫画版ナウシカのレビューは無数にある。わかりやすい劇場版と違い、漫画版はナウシカの最後の行動に解釈の余地が無数にあるためだ。ナウシカの苦悩、いろいろな国や集団のそれぞれの立場からの論理、そしての行動の是非などいろいろな論点があるのだが、1点、あまり語られないことがある。宮崎駿が漫画を描くことへの賛否だ。宮崎氏は世界中の人が知る巨匠、それは間違いない。日本で彼の名前を知らない人はごく少数だろうし、作品を一度も見たことが無いという人も少ないだろう。だが「漫画」は彼の専門職ではない。確かに書いていることは深い。だがそれを漫画で伝えるテクニックが宮崎氏にあるか?この点を語らずに漫画版ナウシカの解説をするので賛否がより複雑になっていると私は思う。以下その点を解説する。 

宮崎漫画をB級と言い切る勇気

間違いなく、絵は上手いし世界観は広くて深い。宮崎氏は少年時代に漫画家を目指していたらしいが、プロとして漫画を探求してきた人ではない。本作の誕生は掲載誌アニメージュの企画によるところが大きいようだが、アニメほどスポンサーをはじめとする商業主義の干渉を受けず、自分の好き勝手を押し通しやすい、という点で「漫画」という形をとったのではないか?

アニメーションでの動きのち密さでは定評が高い宮崎駿、しかし彼の描く漫画では躍動感は少ない。セリフが多いので読みにくい、コマ割りも単調だ。そのうえ書き込みが多いことが読みにくさを倍増している。さらに本作は後半になると登場人物や国、組織が増え、そのそれぞれの立場も刻一刻と変化していく。それがゆえにより一層伝わらないのだ。

さらに、連載終了までに要した時間を考慮すべきだと私は思う。実に12年の歳月がかかった本作、当たり前だが12年間意見や主張、考え方が変わらない人間はいない。クライマックスに至る道のりがわかりにくいのはシンプルに執筆に年数を要したからだと思う。

要するに1本の作品として解釈する出来ではない、という点を考慮すべきではないか?ナウシカを語るとき、「あの宮崎駿の作品なので、巨大なものを投げかけているはず。だから賛否を明確にし、テーマを語ることが知識人のとるべき態度」という心理が働いていないだろうか。

単純に評価しよう。漫画版ナウシカは「漫画」としては出来が良い作品ではないのだ。 

クライマックスの私の解釈

腐海は地球再生のシステムとして作られたもの、ナウシカたち現存の人類も自然のままではなく腐海に適応できるよういじられた人々だった、という仕掛けには私は◎を送りたい。ナウシカが人間よりも守るべきではないか、とさえ思うようになっていた王蟲たちでさえ作りだされたもの、必死に破滅の淵を生き抜いてきたはずの自分たちもシステムの一部だった、という価値観の逆転はアニメ版「海のトリトン」の最終回を思い起こさせる(虫プロ所属の宮崎氏は当然この作品を知っているはずである)。

それを知った後のナウシカの行動、ここが最も賛否が分かれるところだろう。私は巨神兵を使って墓地を破壊し、地球再生後に生まれるべき人類の卵をすべてを焼き払ってしまった点は受け入れられない、と長い事思っていた。どちらも命であり、命を大事と言い続けてきたナウシカのこれまでの行動とずれるのではないか、という考えだ。しかし年月を経て再読したとき別の考えに至った。システムに乗って生きていけば浄化の時に王蟲たちもナウシカたち現存人類も用済みとなる。現存人類も浄化された地で生きていけるよういじる、というアナウンスもあったが、それは明らかに自然の姿ではない。では浄化後生きる予定の人類とは相いれないとして殺したのか?私がナウシカならこう考える。

1:システムを破壊する=人類は存続しないかもしれない

2:しかし腐海によって浄化は果たされる。そこに人類がいなくても良いのではないか。

3:いままで王蟲たちと触れ合ってきた経験も含め、人類と腐海が共存する道もあるのではないか?

4:それは今生きている王蟲や自分たちが血を流しながら勝ち取っていくべきものでそれこそが「自然」であり、「浄化を待って自動的に安楽な環境に生まれるモノ」は自然ではない。

5:作られたものだとしても「今ある状況」を「自然」として生きていく。待ち受けるのが絶滅だとしてもそれを受け入れることが「自然」。自分たちの都合で生き物のに勝手な目的を与えることは命をもてあそぶこと。これこそが許せない悪。

上記は私の考えでナウシカがこのように考えたかはわからない。しかし彼女は墓所とシステムを焼き払う。この時点でナウシカはその時代の「神」になったと言えるだろう。一つの生命の流れを断ち切り、別の流れを選択した。それは神でしかできないことだ。「神」と言ってもキリスト教のような唯一神ではなく、日本神話に登場するような統治する責任を持つ神だ。日本神話では最高神であるアマテラスですら悲しみ迷う。弟の愚行を悲しみ天岩戸に籠ったりする。6巻あたりの魂が抜けたナウシカはまさにそれだ。

とにかくナウシカは「神」となる道を選んだ。それが良かったか悪かったかは本人もわからないだろう。ただ最終シーンのナレーションでトルメキアはそれなりの代を永らえているようだし、「現存する人類」の歴史も続いているところを見れば「生きる」という選択は継続されたのだ、とわかる。まさに神話時代の到来である。

本作のテーマは複雑で重い。それだけに伝える技術に長けた漫画家でなければ書ききれない。可能かどうかわからないが年数も経た現在、別の漫画家がこの作品をわかりやすく、「漫画」として完成度の高いものとしてリメイクしてくれないだろうか?

かの巨匠、宮崎氏の作品のリメイクなど荷が重くて引き受ける人はいないかもしれないが、彼の死後にでも伝える技術を擁した作家が、より分かりやすい形で伝承してくれることを密かに望む。

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ナウシカはいかにしてあの選択にたどり着いたか

物議を醸す最後の選択知る人ぞ知るナウシカの原作である。この作品が聖女ものの原点とは言わないが、それでも日本にそんな文化を流行らせたのは明らかにこれってくらい有名な映画の原作である。しかし、そのオチは映画と違ってかなり物議を醸すものであることは、この漫画を読んだ皆さん理解されてることだろう。ナウシカは最後に、墓の主たちの立てた人類救済の計画をぶち壊してしまう。改造された人間の体を、改造されたままに放置することを決断する。ゆえに人類は腐海が消えた先で生きられないことが確定した。少なくとも、生きられる確率が著しく減退した。この選択は、果たして正しいものなのか。これはかなり難解な問いである。本作を読んでいるとなんとなく正しい気がするのだが、どう正しいのかをハッキリ示すというのは難しい。本作を知る友人と何度か話したことがあるが、誰ひとりとしてお茶を濁す以上の説明を提示できなかった。中にはハッキリ...この感想を読む

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