海上保安官の仕事の実態がよくわかる
綿密な取材力に脱帽
海猿を読むと、作者の佐藤秀峰氏は、海上保安官野食歴がある人なのではないかと思うくらい、内部のことが良く描かれている。事実この作品がテレビドラマ化、映画化されたことで、海上保安官や潜水士の志願者が増えたそうだが、職業を深く知ることができるきっかけの作品としては非常に良書だと思う。映画やドラマの主人公仙崎は、イケメンで優秀な潜水士というイメージであるが、原作の仙崎は低身長でやや冴えない、努力と根性で特急隊に這い上がったという泥臭さを感じるのもいい。
また、自分が望んでついた職業であっても、体制への葛藤や自分がなぜこの仕事をしているのか、時に目的が見えなくなるなどの描写は、どの職業にも共通した部分であるので、共感できる人も多いのではないだろうか。
いつのまにか恋人になっている佐藤作品のヒロイン
海猿と、もう一つの佐藤秀峰氏の代表的作品「ブラックジャックによろしく」という医療漫画にも共通して言えるのが、恋愛における女性の心理描写が若干希薄であるという点である。おそらく職業に対する主人公の思い入れに物語の焦点を当てているため、恋愛がどうしても蛇足的になってしまうのかもしれない。海猿でも、出会いのきっかけなどはしっかり描かれているものの、報道関係者の浦部美晴と主人公仙崎がどうして惹かれあったのか、また付き合ったのちもなぜ別離を決意してしまうのかなどがあまりしっかりとしたセリフやモノローグで描かれてないので、よくわからない、という点がある。
ブラックジャックによろしくの主人公斉藤と恋人の皆川由紀子も斉藤が彼女の何処に惹かれて付き合っているのかよくわからなかったので、途中うまくいかなくなったり結果的に別れてしまっても、そもそも付き合っている理由がよくわからなかったので納得せざるを得なかった。
海猿では結婚に至っているが、伴侶に理解がないと添い遂げられない職業のため、もう少し女性側の気持ちの掘り下げがあると、共感しやすかったかもしれない。
非常に深い問題提起
命ってどういうことなのかなど、登場人物が投げかける問題が非常に深いものが多い。
海猿では感動的な救出劇も取り上げられているものの、実際は仙崎の後輩コージが言うように、遺体の収容など、誰かがやらねばならないが、考え出すと仕事の目的が見いだせなくなる可能性がある仕事も多く、かっこいいことばかりではない。また、尊敬する先輩池澤の死によって、仕事によって命を落とす可能性があるという厳しい現実を突きつけられる。最後は仙崎がそういった理不尽を超えたところにあるやりがいを取り、さらなる難関の特急隊に志願することで物語が終了するが、どの仕事もデメリットを超えたところにあるメリットがあるからこそ、続けられるのかもしれない。
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