臨死体験をめぐる大傑作
臨死体験とは何かを考察
臨死体験はいったい何なのか、がテーマです。死者からのメッセージか死語の世界なのか。それを研究する主人公とその仲間たちの物語。主人公はこれを自ら体験し、結局、事件により死んでしまうのですが、臨死体験は実は脳からのSOSで、脳から体中の神経系への最後のシグナルであり、その時に、何もかもが象徴的な形で表象するというのがこの作品が導き出すオチとなっています。
前半はコメディ風で、主人公の男女やそのまわりの人が印象的に描かれます。どちらかと言えばゆったりとしたペース。主人公が臨死体験で行くところが判明してからは、仮定と検証のスピード感あふれる展開が始まっていき、どんどん読み進めずにはいられなくなります。
極上のエンターテーメント
上下たっぷりの二冊。ぐぐぐっと読ませていただきました。極上のエンターテイメント作品で、一言でいうと筆致がとてもやわらかいので、著者の親切さ、優しさをしっかりと感じます。専門用語的な部分をすっとばしても実にしっかりと理解しながら読めた気がします。
臨死体験とはなんなのか、という一本のテーマで読者をずっとひっぱり続けます。そして、なんなのかをなかなかつかめないもどかしさも共感できます。宇宙の果てとか、素粒子のさらに小さな単位とか、霊の存在とかと同じで、実際、そう簡単にわからない世界の話ですからね。思い出せそうで思い出せないとか、肝心なときに肝心な人がいないとか、その逆で書けば(すなわちご都合主義)半分で終わるかもしれない物語を、よりリアルさを出すために、じらしてじらしまくります。当然です。テーマがテーマなのですから。
奥行きを感じさせる作り
それから奥行きを感じさせる作りになっていますね。イメージを重ねて重ねてすることで、生み出されています。
途中から主人公が亡くなり、まさにあちらの世界が語られて行きますが、その寂寥感もとてもいいのです。SFっぽくはなっていくのですが、ミステリーなら、最後にこの主人公が何らかのはっきりした形で、メッセージを残すところだが、それもなく、それがまた現実なのかもしれないと思ってしまいます。
著者の能力を見せつける大傑作
宗教や非科学的なこととの折り合いもうまく処理し、伏線をちらばらせ、それが回答としてひとつにまとまっていく構成も見事で、重々しくせず、コメディ的な談義やエピソードも交えて、著者のかなりの能力を見せつける大傑作となっている気がします。
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