極限状態に追い込まれた人間が見事に描かれている作品
容赦ない残虐描写。主要人物もあっけなく死んでしまう、緊張感。
GANTZはその第一話からこの先読み進めていいのだろうかと思うシーンに遭遇する。主人公の玄野計と、玄野の友人加藤勝が地下鉄に轢かれて轢断されてしまうのである。
まるで著者が臨死体験をしたことがあるのではないか、実際に轢断された人を見たことがあるのではないかと思うほどのリアルな描写に、その場にいるような恐怖を覚え、この漫画が表現したいことは何なのだろう?と序盤から読者は恐怖のどん底に落とされたような気分になる。
また、同時に玄野と加藤は酔っぱらった人がホームから転落したのを助けようとして列車に轢かれてしまうのだが、いいことをしてもそういう不幸に見舞われてしまうという、神や仏などこの世にいるのだろうかという「いい人だから報われるわけではない」という厳しい現実も突き付けられ、それが著者奥浩哉氏特有の「不条理ワールド」らしい出だしとなっている。
強制的に繰り広げられる戦闘。理由がわからぬ不気味さ。
轢断された玄野と加藤、また様々な理由で亡くなった人たちは、黒い球がある部屋に強制的に転送され、星人といいう宇宙人らしきものと戦闘をし、玉の指示通りに倒せば先頭から解放されたり、もっと強い武器がもらえたり、生き返らせたい人を再生出来たり、メリットがある。しかし、逆に殺されてしまえば、再生してくれるお人よしが現れない限り、本当の死が待っている。
GANTZは訳の分からない先頭に放り込まれながら、玄野の好きな女子や仲間がどんどん死んでいく。酷い時は友人加藤まで失ってしまい、玄野が一人ぼっちになってしまったこともある。
しかし一向にGANTZの目的がわからない。わからないまま、玄野は新しい仲間との出会いと別れを繰り返しリーダーとして成長していくが、強くなってもGANTZの目的や誰が運営しているのかは、物語の大分後半にならないと判明しない。
しかし、不思議とGANTZの正体がわからなくても、物語に引き込まれてしまう。状況が悪くなればなるほど、生き残ってみせるという玄野の強さとリーダーシップが発揮されていく。死亡により仲間の入れ替わりはあるが、彼の考えに同調する仲間との共闘に、作中で見ている観客と同様に戦闘をハラハラしてみてしまう。
CGを使った作画がリアルですばらしい。
GANTZが「訳の分からぬ不気味さ」を良く表現している理由として、著者奥氏が作画にCGを使用しており、GANTZの球体のマットな感じや、物語の底辺に流れる無機質さを表しているからではないだろうか。一部ファンの誤解で、コンピューターを作った作画の方が楽をして漫画を描いているのではないかと批判があったそうだが、奥氏によるとCGによる作画の方が手書きよりずっと画面構成に手間や経費が掛かるそうで、その分俯瞰の背景などは隔週だったとはいえ週刊誌の連載としてはかなりハイクオリティな作画だと言える。
大阪、幕張、新宿などでは実際にある場所の前で戦闘が繰り広げられ、戦闘シーンが行われた場所を巡って歩く人もいたほどだという。
GANTZはその背景描写や設定の謎解きの魅力から、アニメ化、ゲーム化、実写化のオファーを受け、すべて最終話が完結する前にそれぞれ映像化されたために、オリジナルの終わり方の作品になっている。クリエイターにとっては、よりGANTZの世界観をリアルに感じたいと創造意欲を掻き立てられる作品なのだ。2016年秋には、待望の完全3DCGによる実写化も予定され、ファンの期待が高まっている。
著者奥氏の色々な憧れのオマージュの集大成
タイトル「GANTZ」もそうであるが、元々かんばれロボコンという、昭和時代のロボットドラマの「ガンツ先生」がもとになっている。ロボコンたちの頑張りに応じて、先生に位置しているガンツ先生というロボットが採点をしてくれることから、東京チームでは誰がつけたかその名がずっと受け継がれているようだ。大阪では「黒アメちゃん」と呼ばれていたようで、地域によっても呼び方に差があるなど、知るとますます興味深い。
また、GANTZの仲間になる人たちにも、有名人がモデルになっていると思われる人が登場したり、「GANTZマニュアル」やコミックスのインタビューなどでも、レイカはパーマンのパー子(アイドルなのにスーパーマンのようなことをしている)をヒントにしているなどの暴露話もあり、どの部分をヒントにしてつくられたネタなのか探してみるのも面白い。
奥氏が面白いと感じたものすべての集大成がGANTZだとしたら、いろいろな作品をうまくオマージュした非常においしいとこ取りのユニークな作品と言える。
三度目の映画化ということもありますます人気が衰えないGANTZであるが、人気の秘密には無機質な描写の反面、極限状態に追い込まれた人間の汚さや、同時にそういう状態下であっても正義を貫こうとする人色々な心理や行動がリアルに表現されているところに人気があるのだと言える。
現実とフィクションの中間に位置づくようなこの作品、様々な表現での結末の付け方にまだまだ期待したい。
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