ストーリーに難ありのスタイリッシュアクション - DOGS/BULLETS & CARNAGEの感想

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DOGS/BULLETS & CARNAGE

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ストーリーに難ありのスタイリッシュアクション

3.53.5
画力
4.5
ストーリー
2.5
キャラクター
4.0
設定
2.5
演出
4.0

目次

突然現れ、ベテランの風格を示した作家・三輪士郎 

果たして三輪士郎が世に名前を知られたのはいつだっただろうか。

記録を見ればウルトラジャンプに1999年には読み切り作品『BLACK MIND』が掲載されているし、カプコン作のスタイリッシュアクションゲーム『デビル メイ クライ』の小説版挿絵を担当している。

だが、筆者が三輪士郎の名を知ったのは、さかのぼること十五年前、電撃文庫の月刊誌『電撃hp』上で、イラストレーター・ヤスダスズヒト推薦の漫画として『狗―DOGS―』が紹介されていたことだ。短編集として既刊一巻だけが発売されるだけのこの漫画は、ヤスダスズヒトという第三者の(ちなみに、当時はヤスダスズヒトの名を一躍世に知らしめることになるラノベ作家・成田良悟がようやく頭角を現していたころで、『デュラララ!!』もまだ世に出ていない頃だった)紹介イラストを通してでも、スタイリッシュで洗練されており、魅了された筆者は本屋で取り寄せてまでこの『狗―DOGS―』を手に入れた思い出がある。

つまりそれだけ、『狗―DOGS―』ワンカットのインパクトは凄まじく、とても当時無名の作家が作り出したとは思えないほどのデザインセンスと存在感を放っていたのだ。

例えば、単行本のあとがきにて三輪本人が示しているように、トーンをほとんど使わない作画。映画のワンシーンのように躍動感のあるアクション。オタク受けしそうでありながら、目新しさのあるキャラクターデザイン。初めてのコミックスとはとても思えない、一作家として完成された本がそこにはあった。

そして2005年、待望の連載が始まる。それが『DOGS/BULLETS&CARNAGE(以下DOGS)』である。

『狗―DOGS―』を進化させた『DOGS』

前項で三輪士郎の持つポテンシャルに軽く触れたが、連載作である『DOGS』で更にどう進化したか考察していきたい。

読み切り版『狗―DOGS―』では、“トーンを使いすぎて反省”というように三輪本人が語っているが、本当に反省したためか、『DOGS』ではほとんどトーンが使われていない。せいぜいバドーの髪ぐらいやキャラクターの瞳ぐらいで、あとはベタだけだ。

しかしながら、その乏しい画材だけで(三輪士郎がアナログとデジタルのどちらを使用しているかはともかく)、豊富な技法、技術でもってアクション漫画を造り上げている。画面に全く見づらさはなく、むしろ見やすいとさえ思える。これは間違いなく三輪士郎独自の才能であろう。

三輪士郎の画力は全体的な画面にも如実に表れており、たとえば登場人物のアップや立ち姿、コマ割り、ヒキ、ギャグ顔、などなど、漫画として非常に高いレベルに仕上がっている。特にキャラクターたちのアップで示されるシリアス顔(ヒトコロスイッチの入ったハイネや直刀の顔)などは、そのまま画集に取り上げられても良いほどの印象的かつ美麗な絵になっている。

アクションシーンも言うに及ばず、映画のワンシーンを切り取ったかのような躍動感のあるアクションは更にレベルアップしており、“とにかく戦いまくる本編”でいかんなく発揮されている(本編の内容については、後で詳しく)。読み切り版ではいかにもマフィア映画のような銃の撃ち合いがメインだったが、直刀を中心として近接戦が豊富に取りこまれていることによって、銃と刀の“俺TUEEE”がまたオタク読者を喜ばせる。

似たような作風の『BLACK LAGOON』がそうだったが、三輪士郎も己の好きな映画からモチーフやインスピレーションを拡げつつ、オタク好みの作品として昇華し、ファンを獲得しているのが興味深い。

もちろん、こういった昇華は並大抵の作家にできることではなく、大抵が自己満足や中途半端に終わってしまう。ファンのニーズに応えつつ、己の才能をキチンと世に示すことが出来る。三輪士郎のこうした才能を、筆者は高く評価したい。

戦って戦って戦って。問題はストーリーか

しかしながら、『DOGS』に課題は大きい。その最たるものが連載再開なのだが、それは今回は置いておくとして、三輪士郎の弱点ともいえるストーリー部分にメスを入れたい。

前項で“とにかく戦いまくる本編”と筆者は称したが、これは正直いって揶揄である。アクション漫画なのだから戦いまくるのは当然なのだが、それにしても一度戦った相手ももう一回斬りあう、撃ちあうという展開が多い(たとえば双子のルキノキや曲刀など)。理由はあれど何回も戦うので、「もういいんじゃ……」と食傷気味になってしまう。つまり、漫画全体がトリガーハッピー状態なのだ。

ストーリーも、「誘拐された子供たち」や「クローン」や「研究施設から脱走」などなど、良く見る展開・設定がてんこ盛りで、目新しさを感じられない(まるで『アークザラッド2』のようだ)。絵が他を寄せ付けない魅力を放っているのに対し、これは漫画として非常にアンバランスだ。

しかし、これらの課題さえ乗り越えられたら、三輪士郎が更にレベルアップした漫画家になるのは間違いない。現在休載して2年が経つ。そろそろ連載の再開と『DOGS』のストーリー部分の強化に期待したい。

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