映画としての面白さよりも、社会への問題提起としての印象が強い映画
『プラダを着た悪魔』とは無関係
2015年に公開されたコメディ映画『マイ・インターン』。
この映画はしばしばヒット作『プラダを着た悪魔』との関連性を取り上げられがちだが、実際のところあまり関係はなく(共通点は主演のアン・ハサウェイと作曲家ぐらい、という話だ)、『プラダを着た悪魔』が好きで見にいった人はがっかりした、という話もよく聞かれる。実のところ筆者もそのクチで、映画館で観てたらちょっとショックだったかもしれない。ここのところは日本のTVCMなどが与えた誤解(いかにも『プラダを着た悪魔』の続編のような口ぶりだった)だろう。あらためて、日本の映画を取り巻く広報・宣伝関係は全くダメダメだな、と思う次第である。
閑話休題。とはいえ、この映画はロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイ、二人の主演で大きく話題となった。では、この二人が映画本編にどういった影響を与えたのか、またこの映画がどういった社会的影響を与えたか、次項から考察していこう。
大きすぎる主演二人の存在が足を引っ張ったか
『マイ・インターン』のストーリー部分は、全体的に物語の起伏は乏しく、スリリングな展開やはっとさせられる驚きの展開はほとんどなかった。
また、主役であるデ・ニーロの役は終始穏やかで人生経験豊富なインターン生という設定になっており、そのぶん人間的成長や葛藤がなく、観る者に退屈な印象を与えてしまうだろう。
経験不足で不完全な社長、アン・ハサウェイの役が完全なる主人公の立ち位置になれば、もっと見方も変わってきたのだろうが、実際はアドバイザーになるはずのデ・ニーロがメインに据えられている。これがゆえに、『マイ・インターン』は映画としての面白さに欠けてしまったのではないか、と筆者は考える。
これは主役である二人に、役が食われた形なのではないだろうか。このような現象は邦画によく見られるが、役者に役を合わせようとするが故に、どっちつかずで中途半端な顛末になってしまうのである。
デ・ニーロもハサウェイも、二人とも演技力の面では素人が口を出す余地もないほどハイレベルな名優・名女優なので、どんな汚れ役でもこなせるはずだ(特にデ・ニーロはどんな役でもこなせる名俳優だ)。それなのに安定というか、無難な役に二人を落ち着けてしまった感じがする。
これは一重に脚本の力不足といえるだろう。いわば主演二人の力におんぶにだっこされるだけで、二人の力以上のものを引き出す魅力にかけているのである。
女性の仕事観をあらためて考えさせられる映画だった
とはいえ、この映画が提示したテーマは深い。それは、アン・ハサウェイ演じる女社長の生き方に表れている。
睡眠時間はろくに取れず、仕事への実直さゆえに人に仕事を任せられない。夫の浮気を知りながらどうすることも出来ず、頑なに仕事に没頭する……。これは、制作国のアメリカだけにとどまらず、世界中の働く女性たちの共感を呼んだだろう。
日本では某化粧品会社のCMで、「働く女性にとって、この国は発展途上国だ」というキャッチコピーが使われ話題を読んだ。しかし、働く女性の問題は日本だけではないのだ、と改めて痛感させられる(まぁ、それでも日本よりは数段進んでいるが……)。
もちろん、ハサウェイの悩みは、男性女性関係なく家庭を持つ社会人共通の悩みだとも思う。だが、社会が押し付ける“女性の価値”は、それだけには収まらない。
たとえば「睡眠時間が少ない女性は太りやすい」というデ・ニーロの言葉にハサウェイがぎょっとするシーンがある。これは「太りたくない」という女性の当然の心理が表れているだろう。だが、仕事が忙しく睡眠時間が取れないというジレンマに悩まされている。美容と仕事時間、どちらを取るか、多くの女性が経験したことがあるのではないか(ちなみに睡眠時間が少ないと本当に肌が荒れるので、女性にとっては深刻な問題なのだ)。
また、夫の浮気の面でも、女性ならではのジレンマが現れている。愛する子供と、専業主夫の夫と暮らし、一見幸せに見えるハサウェイ。だが、主夫である夫をママ友の輪に入れてしまったことから、浮気が始まってしまう。
多くの場合、女性同士のコミュニティのなかで浮気に発展することはそうそうないだろう(ただし、世の中には色々な人が存在するので、可能性が0とは言わない)。だが、男性が入ると話が別で、浮気の危険性が一気に高まってしまう。もちろん不貞を肯定することはないが、有史以前から男女関係は理屈では読み解けないものだと世界中の誰もが承知している。
そう、『マイ・インターン』は、女性が働き、男性が家に残り主夫となることは、家庭内不和の原因を生み出してしまうのかもしれない、という問題提起を、時代を先駆けてしてくれているのだ。
しかも、これらの問題は、世のなかの多くの人がまだ経験していない。何故なら、先にも述べたようにまだ世界中で「働く女性にとって社会は発展途上」だからだ。
男性女性関係なく、この映画を観た人は、これからの“女性と仕事”について考えてみてほしい。自分が、自分の娘が、自分の嫁が、これからこの国でどういう風に働けばいいのか。
誰もが自分のこととして考えなければ、一億総活躍社会などありえないのだから。
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