“タイバニ”人気をあらためて考察
”一段上”のアニメ作品
さとうけいいちは、3DCGアニメ『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』や、2016年10月に公開予定の大ヒットコミック『GANTZ』の3DCG作品・『GANTZ:O』の監督として、近年めざましい活躍をしているアニメーション監督だ。
特に取り上げたこの二つの原作作品は、国内・海外で非常に知名度の高い作品であり、熱狂的なファンが多数存在する。そのような人気作品が後年に映像化されるとなれば、ファンが作品を観る目は当然、厳しい。だが、さとう監督はそんなファンの重圧を跳ね除け、『星矢』では世界的成功を収め、続く『GANTZ:O』でも必ずや良い作品を作ってくれるであろうと期待されている。
さとうけいいち監督の名を、一躍世に知らしめたのが『TIGER&BUNNY(以下、タイバニ)』だ。実力派声優のキャスティング、『ZETMAN』などで知られる有名漫画家・桂正和氏のキャラデザという抜け目のない布陣を敷いただけではなく、実在する企業をスポンサーに仕立てるなど話題性をも取りこみ、『タイバニ』は放送終了から5年経った今もなお、人気作品として君臨している。
……と、一言で言ってしまうのはたやすいが、実はその人気には様々な理由が絡み合っていると、筆者は長年分析している。
では、『タイバニ』を長年支えている人気の柱は何か、次項から考察していこう。
持続する女性人気の秘密
『タイバニ』は女性人気がとても強い作品だ。その人気の根強さは、『テニスの王子様』や『最遊記』に比肩する。
……と、ここまで言って察しの良い方はお気付きであろう。そう、これはいわゆる“腐女子”層に特に人気のあるアニメ作品なのである。
このテの話題は嫌いな人も多いと思うので詳細は避けるが、一つ注意しなければならないのは、こういった“腐女子”層は人気の流行り廃りが非常に早いということだ。
一時期は熱狂的なブームを生んだ作品が、半年もすると完全に廃れ、オンリーイベントや同人ショップなどでも全く見かけなくなる、というのがザラなのである。例えば、2015年に始まった某刀ゲーム。こちらもサービスが開始されるや否や女性たちの間で大人気になり、これのおかげで、日本各地の刀剣博物館はたいへん賑わったが、今年になってみると熱心に訪れていた女性たちの姿は影も形もなくなり、各地の刀剣博物館の関係者などは首をひねっているという。
つまり、いわゆる“熱しやすく冷めやすい”こそが“女性人気”の必定なのである(某刀ゲームもまだまだ人気は持続しているが、一時期のような熱狂的ブームは間違いなく過ぎている)。
しかし、先に挙げた『テニスの王子様』や『最遊記』などは、実はそういった作品とは一線を画している。大体の女性人気の“あった”作品というのは、1・漫画が連載、2・アニメ化(ここで一気に知名度が上がる)、3・しばらくして熱が引いたように一気に人気が下がる、という流れになるのだが、『テニプリ』『最遊記』などは、アニメ化が終了して長い時間が経過しても高い人気を維持し続けているのだ。
実は『タイバニ』も、これらの人気作品と同じように、“「熱しやすく冷めやすい」が基本であるはずの女性人気を、長年維持している稀な作品”なのである。
では、一体なぜ『タイバニ』は“例外たる人気作品”になったのか。
一つには、「地力の強さ」がある。これは「面白いものの人気は下がらない」という当たり前の理屈だ。例えば『銀魂』も根強い腐女子人気に支えられているが、これは『銀魂』という作品自体が長年、面白さを維持し続けていることに起因する。具体的なタイトルは挙げられないが、同じジャンプ作品で一時的に女性人気が高まった作品だけの作品(はっきりいってしまえば、たいして面白くもない作品)は、女性人気のブームが過ぎるとあっという間に掲載順が下がってしまう。
『タイバニ』も、“雇われるヒーロー”という設定の面白さ、“能力モノという見る者を選ばない定番の人気ジャンル”、“さとうけいいち一流のアクション”、“映画のような展開になるシーズンラストエピソード”という安定した面白さを持っていることから、人気が持続したものと思われる。もちろん、これらの魅力は女性だけでなく、男性の目をも引き付けたであろう(特に、アクションに関しては流石のさとう監督である)。
第二に、「ファン目線のサービス」だ。そもそも女性というのは、“過剰なほどのサービス精神”“特別扱い”にとても弱い。これは作者が歌ったりするサービス精神の権化・『テニスの王子様』に詳しいだろう。
『タイバニ』は監督が歌ったりすることこそないものの、ストーリー展開やグッズ販売で、実は非常に客の要望に応えていることで知られている(たとえば、ファンの手元に確実に届くように計算された各種キャラクターフィギュアの受注生産や、ツンデレ全開だったバニーちゃんが二期になって急にデレデレになったりする展開など)。
こうしたサービス面の強化が、女性人気を強め、結果としてコンテンツ力の強さを蓄えていったのである。
ハリウッド映画化も決定し、これからが真価が問われる
しかしながら、実は筆者はこの作品をさほど評価はしていない。
というのも、この作品には頭一つ抜けた魅力がないのだ。実力派声優、個性的なキャラ、ホスピタリティに溢れたサービス精神……いずれも良作といえる器量を持っているのだが、「エグいほどの個性」や「強さ」、「もう一度見返したくなる魅力」が、この作品には欠けているように思う。
と、ここまで辛らつな意見を述べたのは、この作品の未来を危惧してのことだ。ご存知の読者も多いとは思うが、『タイバニ』はハリウッド映画化が決定している。
女性人気の根強い日本発のヒーローアニメが、ヒーローものの本場アメリカでどういった評価を受けるか。
これからが、『タイバニ』が真価を問われる形となるだろう。
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