実話をもとにしたリアルで生々しい作品
実話だけにリアル
1972年ミュンヘンオリンピックの選手村でイスラエル選手団がパレスチナゲリラに拉致され射殺されるという実話をモチーフにしているだけに非常にリアルな作品です。この報復のため、イスラエル政府に非公式に雇われる殺し屋4人組というのがエッセンスとして入ってきます。そして謎の情報提供者から情報を買っていき、相手方の11人の主導犯らを殺していくというのがストーリーの基軸となる展開になるのですが、作品のテーマとして主人公は殺人への嫌悪を感じ始めるとともに、殺しても殺してもまた継承者が出てくるという繰り返しに悩んでいくという暗鬱な感じが根底にあります。結局、ある時点でイスラエル政府から帰還命令を受け帰ってくるが、しこりが残ったまま作品は幕を閉じます。
ドキドキさせてくれる緊迫感
冒頭から「なんだ、なんだ、何が起きるんだ」という、こわーい緊迫感があります。見事にドキュメンタリー風のニュース動画を見ているかのような乾いた描写(カメラワーク)が、怖さを倍増します。
俳優たちがほぼほぼ無名で、それがまた、今、実際に起こっていることのような生々しさを醸し出しています。これはシンドラーのリストでも見受けられたところではありますが。
殺人場面のリアリティーもまた秀逸。たぶん、人は銃で殺されるとこんな風な感じなんだろうなという説得力がありあます。エンターテイメント性を排除した暗い映像も印象的で効果を生んでいます。そして何より、その音楽です。音楽が何とも言えず素晴らしいです。映像なしで音楽だけでもそのムードに入っていけるレベルですね。
なぜ、四人組の殺人が簡単に成功するのかという疑問は大いにあります。また、中東の関係のわかりにくさが、「誰にでも楽しめるか」という点では、ちょっとした問題点だが、大人向けならそれでも十分、楽しむことができると思います。結末で主人公は死ぬのかとも思ったが、尻切れな終わり方だったところが残念です。
スピルバーグの引き出しの広さ
スピルバーグ監督というのは本当にやろうと思えばどんな作品でも作れるという正真正銘の天才監督なのだとわかります。いろんなアングルから作品を見ることができ、俯瞰的に自分(の作品)を見通して、完成させることができる稀有な監督です。だから、どんな作品をとってもおもしろいんですね。シーンの強弱とかうねり、わかりやすくいえば起承転結というか、そういうのがうまいとつくづく感じる作品でした。
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