ダメ男に嫌気がさしつつも、ホントは嫌いじゃないオンナにはたまらない映画
愛すべきダメ男“シズオ”にノックアウト!
こんな男、絶対に結婚したくないし、親でもイヤだし、兄貴でもイヤ。なのになんでこんなに愛しく思えてきちゃうのか?
恐らくこれが世にも厄介な母性本能というやつだろう。シズオという名の愛すべきダメ男、ここにアリ!というような、私には最高にタマラナイ映画だった。
親がダメだと子どもはどちらかの道に進む。それは“グレる”か“悟る”か。シズオの娘・鈴子は見事に悟っていた。この娘は将来的にも、幸せな結婚は出来ないだろうなと心配になりつつも、その深い愛に胸が熱くなった。シズオは本当に人たらしだ。なぜか周りにいる人間はみな、苦笑いしながらもシズオを優しく見守り、最終的には応援してしまっていることに気付くのだ。
“ダメなヤツ”も一周回れば“すごいヤツ”
「漫画家になる!」40過ぎたバツイチ子持ちの男が堂々と言うことでは決してない。
「ホントにアホだ。コイツは究極のダメ人間」そう誰もがシズオを見下しバカにしていたはずなのに、その突き抜けたあまりの無邪気さに、だんだんとみんながシズオのような生き方を、うらやましいとさえ思い始める。
世の中の概ねの人間は、常識と理性のもとに周りを気遣いながら生きている。けれど裏を返してみるならば、見栄とプライドにがんじがらめになって、人の目を気にしながら小さくなって生きているだけなのかもしれない。
「オレもシズオのように自由になれたなら」「バカ丸出しでシズオみたいに明るく生きられたなら」
まさに“バカと天才は紙一重”究極を極めれば行きつくところはその真裏なのだ。目も当てられないダメ男も、何事にも捕らわれることのない最強の男に見えてくるものなんだなとしみじみ思った。
シズオになれる男は“シズオ”しかいない。
シズオの幼馴染の親友・宮田は普通のサラリーマン。シズオには「もっと現実的な夢を描け。就職しろ。」と言い続けていたにも関わらず、周りの反対を押し切って突然脱サラして昔からの夢だったパン屋を始めようとする。長年シズオに説教しながらも、夢の実現に向かって動き出した宮田を突き動かしたのは、間違いなくシズオだ。けれど私は、宮田が自由に生きるシズオのようになりたいと思ったからではなく、いつ何時もどんなことが起きても、とにかくシアワセそうに笑っているシズオに勇気をもらったからなんだと思えてならない。
なぜなら、シズオのようになりたいとどんなに他人が願っても、シズオ以外の人間はシズオには決してなれないからだ。あの愛すべきキャラクターは作り上げられたものではなく、決して真似することが出来ない生まれ持った才能なのだ。
だからシズオのようなダメ男は世の中に必要不可欠。ひたすらに自分が幸せだと思う方向にしか進まない彼らは、時に常識人をハッとさせ、凝り固まった心を解きほぐしてくれるのだ。それでいて彼らは他人の胸に強く影響を与えている自分に気付いていない。それがまた、愛おしくてタマラナイ。
そんなシズオを今回見事に演じた堤真一は本当にすごい役者だと思う。シズオのイメージを少しも壊すことなく、完璧に“シズオ”だった。改めて堤真一を素晴らしい役者だと再認識できる、最高の映画だった。
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