スカイ・クロラの魅力についての考察
Fはじめに~本書についてと、考察について
スカイ・クロラシリーズと称されるシリーズの第一巻目。シリーズといっても、この一巻で一つの話は完結している。森作品のいずれにも言えることだが、全ての小説がどこかで連結していて、ところどころに伏線が張り巡らされている。森作品を何冊か読んだことのある読者なら、「一冊だけを取り上げて考察するなど、到底無理だ」と思うかも知れないが、森博嗣ファンとしてではなく、一読書家として、他話を踏まえず本書だけを考察してみる。そうすることで、このストーリーを純粋に楽しみ考察することが出来ると思っている。
架空世界をリアルに描き出す表現力の考察
まず、主人公目線で突然当たり前のように話が始まるが、明らかに舞台は我々の住んでいる場所ではない。登場人物はカンナミ(後の巻で函南と分かる)、草薙、土岐野など、日本人のような名前だが、日常のように殺し合いの戦いが起こっている。しかも戦闘機に乗って。それだけでなく、どうやら主人公カンナミは、大人にならない身体の「キルドレ」らしい。そしてこのキルドレというのは、科学によって生まれ出た特異体質のようであるらしい。しかし、これらの説明が作品中でわざわざされることは一切無い。なぜなら、「この世界」ではそんなこと「当たり前」だからだ。この、読者に対する配慮の希薄さが、却ってこの世界をよりリアルに見せている。一言でいえばSF世界の寓話なのだが、いつの間にか何の違和感もなくこの世界に引き込まれているのだ。
登場人物達のアンバランスな魅力についての考察
本書が読者を惹きつけて離さないもう一つの理由が、登場人物達の魅力である。皆が皆、淡々としているのである。物事を冷めた目で見つめ、理性的で、なのにどこか壊れている。そんなアンバランスさが、憧れにも似た思いを抱かせるのかも知れない。特に、草薙や土岐野は気持ち良いほど大量に酒を飲む。カンナミはあまり飲まないが、それでも当たり前のように飲むし、飲んだ後でも平気で運転をする。そして皆、しょっちゅう煙草を吸う。煙草を吸うシーンが数ページおきに出てきている気がする。しかも、カンナミや草薙はキルドレで、見た目はまだ幼さの残る少年少女なのだ。そのギャップや危なっかしさ、自分を大切にしない態度が、決して悲観的でなく淡々と記されている。そんな姿に、我々は惹かれてしまうのだろう。キルドレであることは、決して喜ばしいことではない。最後はカンナミも草薙も壊れていく。だが、その壊れていく姿さえも美しく思えてしまうのが、この世界の魅力なのだろう。
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