スカイ・クロラの魅力についての考察 - スカイ・クロラの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

スカイ・クロラ

4.004.00
文章力
4.13
ストーリー
3.75
キャラクター
3.88
設定
4.25
演出
3.50
感想数
4
読んだ人
14

スカイ・クロラの魅力についての考察

4.54.5
文章力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
5.0
演出
4.0

目次

Fはじめに~本書についてと、考察について

スカイ・クロラシリーズと称されるシリーズの第一巻目。シリーズといっても、この一巻で一つの話は完結している。森作品のいずれにも言えることだが、全ての小説がどこかで連結していて、ところどころに伏線が張り巡らされている。森作品を何冊か読んだことのある読者なら、「一冊だけを取り上げて考察するなど、到底無理だ」と思うかも知れないが、森博嗣ファンとしてではなく、一読書家として、他話を踏まえず本書だけを考察してみる。そうすることで、このストーリーを純粋に楽しみ考察することが出来ると思っている。

架空世界をリアルに描き出す表現力の考察

まず、主人公目線で突然当たり前のように話が始まるが、明らかに舞台は我々の住んでいる場所ではない。登場人物はカンナミ(後の巻で函南と分かる)、草薙、土岐野など、日本人のような名前だが、日常のように殺し合いの戦いが起こっている。しかも戦闘機に乗って。それだけでなく、どうやら主人公カンナミは、大人にならない身体の「キルドレ」らしい。そしてこのキルドレというのは、科学によって生まれ出た特異体質のようであるらしい。しかし、これらの説明が作品中でわざわざされることは一切無い。なぜなら、「この世界」ではそんなこと「当たり前」だからだ。この、読者に対する配慮の希薄さが、却ってこの世界をよりリアルに見せている。一言でいえばSF世界の寓話なのだが、いつの間にか何の違和感もなくこの世界に引き込まれているのだ。

登場人物達のアンバランスな魅力についての考察

本書が読者を惹きつけて離さないもう一つの理由が、登場人物達の魅力である。皆が皆、淡々としているのである。物事を冷めた目で見つめ、理性的で、なのにどこか壊れている。そんなアンバランスさが、憧れにも似た思いを抱かせるのかも知れない。特に、草薙や土岐野は気持ち良いほど大量に酒を飲む。カンナミはあまり飲まないが、それでも当たり前のように飲むし、飲んだ後でも平気で運転をする。そして皆、しょっちゅう煙草を吸う。煙草を吸うシーンが数ページおきに出てきている気がする。しかも、カンナミや草薙はキルドレで、見た目はまだ幼さの残る少年少女なのだ。そのギャップや危なっかしさ、自分を大切にしない態度が、決して悲観的でなく淡々と記されている。そんな姿に、我々は惹かれてしまうのだろう。キルドレであることは、決して喜ばしいことではない。最後はカンナミも草薙も壊れていく。だが、その壊れていく姿さえも美しく思えてしまうのが、この世界の魅力なのだろう。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

なぜストーリーが破綻しているのか

シリーズ名の看板にして、問題作まず初めに、この小説はシリーズものであることを示しておく。このスカイ・クロラという小説、これ一つでも成立はするが、その話の真相はナ・バ・テアから続く一連の作品を読まなければわからない。もしこれを読んでいるあなたがスカイ・クロラしか読んでいないというのならば、これ以降の文章はわけがわからないことだろうとだけ言っておこう。さて、このスカイ・クロラシリーズ全てを読んだ人にとって、この作品ほど厄介なものはない。クレイドゥ・ザ・スカイも難解だが、あちらはわかってしまえばただの叙述トリックのようなものである。あれは主人公が草薙であることを意図的に栗田のように見せることで、混乱を誘っていただけだ。初めからこれは草薙水素だと思って読めば、実にすんなり理解できる。ちょっと違うっぽい?と思う文章は、作者の騙しなのだ。しかしこのスカイ・クロラは、そう単純ではない。スカイ・イクリ...この感想を読む

4.54.5
  • ダブルピースダブルピース
  • 8489view
  • 4300文字
PICKUP

感想をもっと見る(4件)

関連するタグ

スカイ・クロラを読んだ人はこんな小説も読んでいます

スカイ・クロラが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ