ひとつの答えがしっかり受け取れる作品 - 悪意の手記の感想

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悪意の手記

3.803.80
文章力
4.00
ストーリー
3.50
キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
4.00
感想数
1
読んだ人
5

ひとつの答えがしっかり受け取れる作品

3.83.8
文章力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

動機のない殺人はどのように起こるのか

この本を読み進めていくにつれて、夏目漱石著作の「こころ」を思い出していた。「こころ」に描かれていた親友もまた、Kというイニシャルのみでの表記で描かれており、主人公が独白するかたちで物語が進んでいる。だが、この本と決定的な違いは「こころ」のKは自殺したのであり、この本の主人公はKを殺しているという点である。

主人公は15歳にしてTRPという80パーセントの確率で死んでしまう病気になり、ほとんど生きる望みのない闘病生活を送る。その生活のなかで死の恐怖から逃げるために、彼は独自の考え方で死ぬ覚悟をする。死ぬ覚悟ができた主人公は奇跡的に助かってしまったために、「生きる」ということに苦悩し自殺を図ろうと公園に行ったところ、親友のKに偶然会い衝動的に殺してしまう。

ニュースで動機もなく殺してしまったというような事件を見るたびに、そのように人が殺せたりするものなのだろうかと信じられずにいたのだが、主人公が殺人に至るまでの心情を読んでいくにつれ、わたしにもこの犯行動機のない殺人が自然な流れのように感じた。

「人を殺す」ことでなにが変わるか

このような重いテーマ、あるいは哲学的な問いを扱っている小説は、読者に読み進めることを躊躇させるような負担をかける場合が多く、仕事に疲れながら読むものではないと敬遠していたのだが、この本は読者に負担をかけることなく、作者がその重さをすべて背負ってしまうように感じられるので非常に読みやすい。作者が死んでしまうのではないかと不安になるほどに、「人はなぜ人を殺してはいけないのか?」という重い問いを読者に預けずにちゃんと言葉にしてくれている。

悪意とは考えていたよりも激しく、衝撃的だった

人を殺すという罪を背負って、あえて遠いところへ、不幸になろうともがく主人公は滑稽で痛々しいが、そうしないと生き続けられない感じがずっとしているのが良かった。「あなたが何をしたかは知らないけれど、どんな罪でもわたしが許しましょう」と神様のような女性の善意に触れて主人公がその女性から逃げるところがあるが、例えばその善意に甘えて主人公が少しでも幸せになってしまうほうが「悪」なのではないかと感じた。だからわたしには、彼は親友殺しの罪を犯してしまったけれど、その後はずっとその罪の背負い方を必死で探しているように感じたから、共感できたのだと思う。警察に捕まって刑を受ければ、殺人は許されるのか。猟奇的な殺人を犯すということは、普通の殺人とどう違うのか。そのようなことについて深く考えさせてくれる素晴らしい機会になった。

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