孤独な魂との出会い
キャルは私の分身
今から40年ほど前になってしまいますが、当時ジェームス・ディーンは「理由なき反抗」のイメージでツッパリ中学生のアイドルでした。真面目な中学生だった私は、そんなイメージからジェームス・ディーンに興味がありませんでした。
ジェームス・ディーンと初めて出会ったのは、当時佳作座で上演されていた「エデンの東」を観たときでした。高校生のとき友人と2人で行ったのですが、余りの感動に上演後も席を立つことができず、友人には先に帰ってもらい、もう一度次の上演回も観ました。当時の佳作座は上演回ごとの入れ替え制ではなく、そんなことができました。
それほどに、感動したのは、「私の気持ちを知っている人がいた!」との思いです。ジェームス・ディーン演じるキャルは、厳格な父が自分を受け入れてくれないことに、孤独感・寂しさといらだちを感じていました。それは、厳格な両親と甘え上手な妹という家族の中で、居場所がないと感じていた当時の私の気持ちそのものでした。誰にも打ち明けることがなかった自分の思いを知っている人との出会い。それは、忘れられない出会いとなりました。
主題曲の素晴らしさ
しばらく前まで「人気映画音楽ベスト10」というと、必ず「エデンの東」の主題曲が1位になっていたことを覚えています。あれは、何年前になるのでしょうか。
美しくやさしいメロディーに始まり、もの悲しいメロディーへ、そして明日への希望を思わせる明るい旋律でこの主題歌は終わります。それは、映画の印象そのものとも言えます。この曲を聴くと、ジェームス・ディーンの切ない愛を求める表情が思い出され、そして暖かいエンディングに励まされた記憶がよみがえります。映画と音楽がこれほど結びついた映画はめずらしいと思います。
英語に興味を持つきっかけに
最初に映画館でこの作品を観たとき、字幕スーパーでの上演でした。それは、生きた英語との出会いでもありました。
ジェームス・ディーンの生の声が聴けたこと、その英語のニュアンスは、また鮮烈な記憶となりました。これは、日本語吹き替えでは決して味わうことのできない醍醐味です。
この1つの作品でたくさんの英語を習得したと言うわけではありません。それどころか、たったひと言の記憶です。でも、それは私にとって英語に興味を抱く大きなひと言になりました。
場面は、キャルの母親ケートが経営する酒場。そこで働く若い女の子に、ケートの居場所を教えるようにせがむキャルが言ったひと言です。「Come on.」。学校では、「こちらに来なさい」、「おいで」などの意味を習いますが、このときキャルは女の子の間近で内緒話をしているのですから、その意味ではなかったのです。字幕では「言えよ」のような訳だったと記憶しています。催促するときにも「Come on.」を使うと初めて知りました。そして、女の子が断ることができないようなキャルの魅力的な口調にも、たった一言にこんなにニュアンスを込めることができるのだと魅了されました。
映画館で観たい作品
この作品に大きな衝撃を受けたのは、映画館で観たからだと思います。暗い映画館に映し出される映画の世界に没頭するひととき。その中で、ジェームス・ディーンと本当に出会った思いになれました。
今はDVDで簡単に観ることができますが、作品から受ける印象はかなり違ったものになるでしょう。「佳作座」というリバイバル作品専門の安い映画館の存在は、当時でしか味わえない貴重な経験にとどめておくには惜しい気がしてなりません。
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