グンの激走はいまだに燃えるし、歩惟の成長はいまだに泣ける
あえて第三部のみ語りたい
ヒデヨシが死んだ第一部は衝撃だった。二部の星野との闘いや歩惟へのプロポーズも語りたい。しかし、あえて三部のみに絞る。8年間の連載の全てを語るのはあまりにも困難だし、ヒデヨシについては十分語られているだろう、という考えだ。
三部に入る前にちょっとだけ書いておくが、これを書くために再読すると、一部の前半は結構読みにくい。1980年代前半、30年以上前でしかもラブコメっぽさもあり、現代の若者の恋愛とのギャップ、「不良」という存在の受け入れ方の違い、などが目に付く。さらにしげの氏の絵も正直言って上手くない・・・
だが、これが二部、三部となると完全にモータースポーツものとして洗練されていく。
何といってもキャラとともにしげの氏の画力も上がる。1巻のみ読んで最終巻見たら歩惟はどこに行ったんだ?誰だこの美人は?と思うだろう
そんなわけで、以下三部の魅力を語る
何といっても歩惟の成長がすごい
二部の終わりでプロポーズ、というのも結構びっくりした。週刊少年マガジン、バリバリの少年誌だ。当然恋愛は描かれるが普通は「彼女になる」が少年誌的にはゴールである。かの名作ドラゴンボールやジョジョは主役が結婚した上に子供もできるが、本作のような恋愛を描いているわけではない。
当然連載当時少年であった私は非常に戸惑う。三部は婚約した状態で始まるのだ。
今であれば第二部終了時点で青年誌へ移動、となったかもしれない。しかしそのまま少年誌に連載し続けたうえ、はっきりと二人が性的意識を持ち始める。ある意味三部前半はレースシーンよりもこここそが見どころだ。レースはまだ500ccでのレース展開になれないグンが世界の壁に苦戦する、というシーンが多い。で、衝撃的なことにちゃんと最後までいっちゃう。さすがに少年誌なので生々しい描写はないものの、波の音と歩惟のかすかなあえぎがかえってドラマチック。けっこう少年漫画の恋愛描写としては秀逸なのではないかと今でも思う。
そしてここを境に、歩惟のビジュアルは別人になっていく。最終巻なんてもう完全に大人の女性って感じ。メンタルも大人に成長して、見てるだけで幸せ、みたいな第一部からは考えられないような、二人ですべてを乗り越えていく、という関係になるところもいまだに感動する。少年誌でありがちな、主役を励ましたり心配するだけの人形キャラではない。身体だけでなく、本当に支えあっている。こんなすごい成長をしたヒロイン、少年誌で他にいるだろうか?あだち充作品はヒロインの魅力が際立っている。例えばタッチ、達也はいろんな意味で成長するが南は連載開始時点でほぼ人間性が完成している。成長まで合わせて描いたものでは歩惟より魅力的なヒロインを思いつけない。
ラグナセカでグンを守る歩惟、日本での最終戦でただ一人グンを理解している歩惟。やっぱりいまだに泣ける。
レースは相変わらず無茶なことが多い・・・でもやっぱり面白い
三部前半で一番好きなのは西ドイツ・ホッケンハイム、けがを押して走るグンを息遣いだけで表す描写がリアルでかっこいい。この時点で勝てないのも演出的にはすごくナイス。
こういう部分も第一部であれば「くっそー、ケガがなけりゃあ!」的セリフがあったのではないかと思う。グン、歩惟と一緒に作者も成長している。
実在のレーサーをじゃんじゃん出す展開もちょっと驚くが、物語的にはライバル設定がしにくかったのだろう。架空の天才キャラ:ラルフ・アンダーソンが出たときにはちょっと安心もした。ドカベンプロ野球編でもやってたけど実在キャラと並行して架空のキャラを出すにはもう少しリアルな雰囲気が必要だと思う。バリ伝の場合はモータースポーツものでありながらも天才ライダーグンの成長ヒーローものでもあるので、やはりぶっ飛んだ敵キャラは必要だ。そこでポールリカールの死闘だ。まさにマンガでしかできない、よくわからんけど燃える死闘、バイクなのに殺し合いか?とツッコミたくもなるし、そんだけ遅れて追いつくかよ、というのは一部からの伝統芸。でもやっぱり優勝するのあたりはリアルスポーツものではなくヒーローもの特権だ。つべこべ言うな、面白ければそれでいい!
最終戦で野生に帰る:少年マガジン伝統のあしたのジョーパターン
世界レベルになり勝ち続けると、当初の野生児もマスコミ対応とかさせられて・・・まさに矢吹ジョーのパターン。グンの場合はプレッシャーで持ち前の闘争心が削られるが、年間優勝が懸かっているのに、試合じゃなくラップの速さで勝ちたい、というところも矢吹ジョーに置き換えれば勝ち負けはどうでもいいけど燃え尽きるまで戦いたい、というのと似ているかもしれない。レース後半もグンやラルフの心理描写は少なく、歩惟の感情表現、観客の興奮、大田の奇妙な関心、そういう描写が前述のホッケンハイムより更に際立つ。8年も連載した作品の最後、作者も感慨深いものがあったのだろうが、終盤の扉絵でセーラー服を着てるのは誰なんだ?歩惟?全然似てないぞ!もしかして自分の彼女でも書いたのか?とか言ってるうちに感動の優勝シーン。梅井と一緒にガッツポーズしたくなる。
正直これほどの傑作なのにあしたのジョーほどには殿堂入り扱いされていないのはやはり前半のチャラさか・・・まあ、それも含めて俺たちのバリ伝なんだけどね
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