何度再発行しても買ってしまう、恐るべし妖女伝説 - 妖女伝説の感想

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妖女伝説

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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何度再発行しても買ってしまう、恐るべし妖女伝説

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.0

目次

今は少ない短編SF=星野之宣の真骨頂

本作は1979年から80年代後半までに発表されたSF短編集だ。私は68年生まれだが、60年代から70年代のSF短編といえばやはり誰しも手塚治虫を上げるだろう。いまだに再編集されコンビニコミックなどでも出続けている。巨匠の名前の力も恐ろしいが、40年前後たっても色あせないが故に「巨匠」なのだろう。同世代では藤子不二雄も意外とSF短編を出しているがこちらも「ドラえもん」もイメージと大きく違っているところなどでフィーチャーされる。どちらもやはり面白いからこそいまだに取り上げられるんだと思う。

さて、星野之宣。手塚賞を受賞してデビューしただけあって、日本のSFマンガ界を背負って立つ人に成長していく。本作はまさにその途上、デビューから3年の時期に書かれている。

当時は単行本売り上げより雑誌売り上げが重視されていた時代でもあり、今のように50巻くらいは当たり前、10巻程度なら短編扱いという状況とは大きく異なる。どのマンガ家にも1話完結とか1回限りの短編を書く技能が必要だったのだ。

短編はとにかくネタ勝負。特に説明が長くなりがちなSF作品はある意味かなりハードルが高い。長編であればキャラクターの魅力で引っ張っていくうちにボチボチとSF的説明を織り交ぜればよいが、短編ではそうはいかない。

歴史上の有名な女性やだれもが知っている神話をモチーフにする構成は面倒な設定を最小限にできるという意味で、本作は高いハードルを易々と超えている。これを踏まえて再読してほしい。

特に「月夢」は日本人なら知らない人はいない、竹取物語をモチーフにして数百年の時代スケールをこのページ数で無理なく語っている。描写テクニックや表現の自由度が圧倒的に上がっている2000年代でも全く色あせない。

正直なところ手塚治虫の時代にはマンガは子供のもの、という認識が高かったこともあり、彼は意図的に10代読者を意識しているが、本作はどんな年代でも読めるという意味でも、ある部分では手塚治虫を超えていると私は思う。 

雑誌掲載時大好きだった「蜃気楼―ファタ・モルガーナ」

私は発表当時12歳の小僧だったが、ガンダムなどを見て大人の仲間入りしたような気になっていたのだと思う。弱くて女々しい主人公フィンに非常に惹かれた。しかし今見るとちょっとファタ・モルガーナの人間形態(この表現でいいのだろうか?)がぼんやりしすぎている気がする。もうちょっと人間味を持たせるか、非人間的にするか、とにかくどっちかに寄せたほうがテーマが際立つかもしれない。

また、アムンゼンおじさんの頑張り具合と、イタリア号登場シーンのバババーンというスケール感、それとフィンの女々しさがミスマッチな気もしてきて、結構この短編集の中では作品としてはまとまりに欠けるのかな、と思う。しかし、この時代には衝撃的だった。SFというよりファンタジーっぽさもあって同氏の「ブルーシティ」や「巨人たちの伝説」のような力強さがないのも自称星野之宣マニアだった私の心を揺さぶった。 

みんな大好き「砂漠の女王」

書かれたのが70年代末期、その頃は子供だったので知らなかったが、アフガン侵攻するソ連に対してアメリカ押しの日本が制裁を課したり、はたまた戦後復興を果たした日本が輸出で利益を上げすぎ、と責められた時代でもある。そんな中で「キリスト教ってホントのとこどうなの?」と語ることが本作品の醍醐味だったのだろう、と今にして気付く。

キリスト教のあるところ戦争が絶えない、というメッセージは今では珍しくないが、当時の子供には衝撃的だった。マクドナルド、スターウォーズ、コカ・コーラ、あらびきウインナー、ロックミュージック、当時はすごいものはなんでも欧米から来ていたのだ。その欧米の文化の源泉ともいえるキリスト教を実は害をなすもの、と断罪するシーンが目に焼き付いている。

加えてクレオパトラ=サロメが魅力的なのでいくらでも話ができる。

クレオパトラ憑依前のサロメのかわいさ、憑依後の今で言う「悪堕ち」っぷり、書いていてこれって本当に短編5本くらいの内容なのか?と思う。

ノアの箱舟のパロディ部分はかなり控えめに書いてあるが、書き込めばすごい酒池肉林シーンなんだろうな、と想像するのも楽しい。

と思うのもつかの間、イエスとの対峙シーンでは「悪」の成分は影を潜め、本性を暴きたい、というモードに移行する。この男の主張を認めることは、今まで欲望のままに生きることを良しとしてきたクレオパトラとしては自己否定になってしまうのだろう。

「悪魔の女」として刺されるシーンは「妖女伝説」としては必須なのだが、もう一度よみがえる、と執念を燃やすシーンもまた見事。

しかし8年の歳月を経て書かれたゼノビア編はちょっとタッチも変わって自分的にはイマイチに感じた。とはいえ出版社、装丁、掲載内容を若干変えつつ、「妖女伝説」は3タイプ私の本棚に並んでいる。

何度も再版される本作品、日本マンガの巨匠といえば今でも手塚治虫なのだろうが、日本SFマンガの巨匠という呼び名なら星野之宣のほうが既にふさわしい。

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