未来を変えてハッピーエンド
起源である恋愛アドベンチャー
過去や現在・未来を行き来して、未来を変えるのが物語本筋となっています。
ゲームコンテンツからアニメ化されたOVA作品であることを強く感じられるものではないでしょうか。様々なミッションを達成して、未来を変え、好きな娘を守るというゲーム内容を容易に思い浮かべることができます。
また、女性キャラクターの描写が恋愛アドベンチャーゲームそのものであり、真正面から女性キャラクターを映す場面は、ゲーム画面そのものを想像させるものです。あまりにそのままの場面だったので、これには笑えてしまいました。きっと、意図的に作り出された演出だったように思えます。
ラブコメ要素の強いアニメ作品は多いですが、女性キャラクターを真正面から映す場面は案外少ないように思います。だからこそ、この「夏色の砂時計」というOVA作品の画が印象的です。
また、「夏色の砂時計」ヒロインである芹沢 香穂(せりざわ かほ)の存在も、恋愛ゲームならではのキャラクターデザインだと思います。
こんな性格な女性は、現実社会にはお目にかかれません。
父親に外出することを制限されており、アニメ本編では、鳥籠で飼われていると表現されていました。典型的な箱入り娘であることを表したものだと考えられます。また、性格面においても、ツンデレや天然系・お姉さま系・妹キャラ系には分類できず、男性目線からの理想の女性像というものを強く感じさせるものだと思います。
こんな女性、現実には絶対いない、というキャラクターデザインであり非の打ちどころがありません。弱点、悪い面が一切ないのです。香穂の存在にリアリティーを感じることができないことが、恋愛ゲームのヒロインならではのキャラクターデザインだと思えてしまう部分です。
丁度良い時間配分
「夏色の砂時計」はアニメ本編をDVD2巻にまとめられたOVA作品であり、全編を観通しても約60分と短い部類のものだと思います。
短編アニメとしては緊張感やハラハラさせる演出があり、物語そのものに面白さがあるOVA作品だといえます。手軽に観るには、丁度良い時間の作品であり、内容そのものにも観終えた後の充実感があります。
そう思える理由に、物語本編に流れる時間があるのではないでしょうか。
「夏色の砂時計」における主人公、牧村 耕太郎(まきむら こうたろう)の夏休みに期間が限定されています。アニメ本編で経過する時間が短いことから、OVA作品のボリュームとしても適した時間枠に納まっているとだと思います。
そして、耕太郎が不規則にタイムスリップしてしまうのも、展開を早くしている要因になっているのだと思います。その恩恵として、無駄な時間を一切描くことをせず、物語展開が非常に早いです。
間延びさせられることがないのは、アニメ本編の魅力として大きいです。
そして、物語展開におけるペース配分が優れていることも、OVA作品の魅力として貢献しているのだと思います。OVA第一巻では「起承転結」の「起承」部分、OVA第二巻で「起承転結」の「転結」部分が描かれており、無理なペースで構成されていません。
観る側を焦らす為に展開を遅らせること、そして、不要な展開をさせることを意図的にしているアニメ作品は多いです。そして、アニメ本編における時間が長ければ長いほど、その傾向は顕著に表れます。
約60分のアニメ本編であり、二巻に分けられている構成が、物語の展開における上手いペース配分を実現できているのだと思います。
未来を知りたい
未来を知ることができたら、それだけ有利に人生を進められるでしょうか。
そんな夢が詰まった物語だと思います。このままでは死んでしまう香穂を、死なせたくないことから物語本筋が成り立っています。こんなことが実現できれば、それだけの命が救われることでしょうか。
そして、生死だけにかかわらず、それだけ幸せな人生を歩むことができるでしょうか。
そんな夢物語が、「夏色の砂時計」というOVA作品なのだと思います。
しかし、夢物語で終わってはいません。アニメ本編の最後で、耕太郎は安易に未来を知りたいと考え、リージェンに問います。しかし、リージェンは「本当に知りたい?」と神妙な面持ちで問いを返します。この最後の場面が、「夏色の砂時計」というコンテンツそのもののメッセージ性なのではないでしょうか。
未来を知ることは、必ず良い方向に作用するものではないです。
不幸な未来を知ってしまったなら、良い気はしないのではないでしょうか。そして、その未来が変えられないようであれば、待っているものは「絶望」だと思います。未来を知ることは、有利に働くのかもしれません。
しかし、大切なのは生きている今を一生懸命に生きることなのだと思います。
後悔をしないように、今できることに最大限の努力することなのだと思います。
そんなメッセージ性が感じられ、時間を大切にしなければいけないと、改めて感じました。いつ不幸な事故に巻き込まれ、人生に終わりが来るのか、未来は誰にも分かりません。
その瞬間、その時間を一生懸命に生きていれば、後悔はないのかもしれませんね。
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