映画製作を思う
役所広司のダイワハウス感が光る
本作は役所広司の可愛さが最も光る作品だと言っても過言ではない。役所広司が出ているダイワハウスのCMのダイワハウチュの時の可愛さがそのまま惜しみなく出ている。役所広司は幅広い役をこなせる一流の俳優であり、すでにダイワハウスのCMで可愛さは発掘されているので、別段本作に関して彼の役どころは目新しいわけではない。しかし、不思議なほどに癖になった。これは恐らく物語が成せる技であろう。
役所広司が演じる主人公は妻に先立たれ、男手一人で息子を育てている。とても不器用そうだが、職場や住民からの人望は厚い、田舎の良きおじさんである。そんな彼は大きくなった息子との接し方に悩んでいたところ、息子と同じ名前の新米監督に手を差し伸べる中で、生き生きとしてきて、息子とも和解するようになった。このような物語の流れとキャラクターの下、起こしていく行動が愛らしく、役所広司がそれにマッチしているのである。
個人的にお気に入りのカットが、新米監督がエキストラの少なさに悩んでいるところ簡単に「呼ぼうか」と言ったカット。あの気さくな表情といい、屈み具合。そして押し付けのない物言い。良き田舎のおじさん具合が最高に表現されていた。また、新米監督からの目線のショットだったので、新米監督の気持ちになって観ることができ、頼りたい、助かったという気持ちが自分の物として感じられた。私自身が小規模だが映画の監督をした際、このエキストラ問題といい、周りがなんだか敵なような気持ちを味わったことがあるので、その為このおじさんの「呼ぼうか」はより胸に刺さったのも確かである。
その他にも、監督の椅子を作ってしまったり、仕事を休んでスタッフ業に徹したりと、心くすぶる愛らしい行動が積み重ねられていくのである。言葉よりも行動こそが真実だとか言われる映画において、本作は実に考えられた行動が練り込まれており、その一つ一つがとても愛らしかった。そして、これを役所広司が演じていたのがとてもマッチしており、存分に良さが表現されていた。映画紹介で、ほっこりする映画と評されていたが、納得である。
映画現場は男社会か
本作は映画の現場を舞台にしているわけである。ひ弱な監督、それを支えるベテランの助監督とムードメーカにもなりえる頑張り屋の助監督。淡々と仕事をこなすカメラマン。どの登場人物もあるあるであり、とてもリアルであった。また、シーン一つ一つもリアルな運びであった。娘と父親が秘密を話すシーンを撮影する下りは一つ一つ揺るぎなく本物の痛さがあった。この空気の悪い現場を観た後で、竹やり隊のシーンで周りが意見を出し合う光景が観られたときには実にほっとした。そうして、始めガタついていた現場が向上していき、ラストでのクランクアップの爽快さは実に気持ち良かった。
映画現場をちゃんとリアルに表現しており、文句なしなのだが、気になってしまったことがある。それは女性の存在である。別段恋愛ものではないので、女性の印象が薄くても自然である。しかし、この女性の存在感の無さが、映画現場が如何に男社会なのかということの表れに感じてしまった。現場のシーンで、女性スタッフの姿は何人か見受けられたのだが、その中でセリフがあったのは、「監督どいて下さい」と言った大道具を運んでいる女性だけであった。折角ならもっと他の女性スタッフもきっちり描いてほしかった気持ちがあり、物足りなさを感じた。しかしながら、沖田監督が描かなかった背景にはやはり女性が現場には少ない、または発言権がない為にキャラクター像が思い浮かばない、無理に作ったら嘘くさいなどで、描くことができなかったのではないだろうか。そう思うと、映画作品自体の物足りなさというよりも、現実の映画社会の課題への思いが勝った。次回このような映画現場を舞台にした作品に出会うとき、生き生きとした女性の登場人物を拝みたいものである。
助け合いがあってこそ
低予算、小規模な映画製作が住民の温かな協力を経て盛り上がっていく。沖田監督の実体験なのだろうか。とても温まる光景を魅せられた。
昨今の映画業界はデジタル技術の導入によってフィルム時代に比べて格段に映画製作をしやすくなった。その為なのか簡単に企画が持ち上がるわけである。そして、その中でエキストラを大勢呼ぶ、大きなセットや凝った小道具を使うなどの映画製作はごく一部で、ほとんどが本作のような状態である。こんな中大事なのは人脈、人の助け合いである。このことを本作はとてもストレートに表現し、二方向に対する働きがあると感じた。まず、映画の視聴者、観客に対して、これからの映画製作には皆様の力が切に必要である、と呼びかけるようである。もう一つは、製作サイドに、本作のように地域と協力し、そこ独自のエネルギーを利用した、そこならではの一本を製作できるのが理想であり、その見本を示したようである。ある意味このことは当たり前かもしれないが、改めて思い直させる一本であった。
映画一本一本どんな人達の助けがあって出来ているのかを見るのも面白いのかもしれない。エンドクレジットは要チェック。
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