映画らしい映画
気持ちいいスカッとしたアメリカらしさ
計算されたカットのつなぎによってハラハラドキドキさせられ、ラストの逆転勝ちには気持ち良さがあった。さすがアメリカ映画である。振り返ってみると、そうだったのかと思うことが沢山ある。例えば、下見の際にマンホールを二つ確認していたカットがあり、これが後に主人公のニックをたすけることになるのであり、あの序盤でしっかりと伏線を張っていたことになる。また最後の逆転劇を魅せるのに、ニックが金庫を開けた後に宝をしまうカットを入れずに、すぐに警備員たちがエレベーターに乗っているカットにつないだのが絶妙である。私はジャック同様に思わず騙されてしまった。ジャックに渡した袋に宝を入れた絵が映されていなかったのに不思議とその中に宝が入っているものだと思ってしまったわけである。盗みに入ったシーンではこのカットのつなぎ方以外でも全体にわたって短くサクサクとカットがつながれ、それによってとてもハラハラドキドキさせられたわけである。
もしかすると、アメリカ映画に見慣れている人にとってはこの展開とそれを魅せるカットのつなぎ方は当たり前すぎて先が読めてしまうかもしれない。しかし、フランス映画を観るときのテンションで観ると素直にハラハラドキドキさせられる。なぜなら、フランス映画特有の後味の悪さを想像するためにラストの逆転劇は期待できないものだと観るからである。つまり、マックスの怖いという予言どおりあの盗みの途中で捕まってしまうかもしれないと思い、ハラハラさせられた上、ジャックに宝を奪われて終わってしまうのかと思い、残念な気持ちになりかけたところ、逆転劇を魅させられて、気持ちの良さを味わうわけである。また、こういったテイストの物は筋が分かってしまうと二度も観る気にならないが、フランス映画を観るときのテンションで観たおかげで、ラストに至るまでの伏線の張り方、カットのつなぎ方を確認するために見直したくなった。
悪いことをしていてもいい人に見える方法
主人公のニックは盗人である。つまりは犯罪者である。しかし、いい人に見える。怪盗もののストーリー、例えばルパン三世などといったものは盗むという行為が悪いことでもヒーロー的に扱われ、それが受け入れられるのはごくごく当たり前なことである。なので、本作もニックが悪者に見えなくても別段ごく自然なことであるが、あえてニックがどうしていい人に見えるのかを分析したいと思う。
まず一つはニックが盗人から足を洗いたいと悩んでいるからである。そろそろ捕まってしまうかもしれないという恐れも勿論あるのだろうが、何よりも大事なのは全うに生きたいという意志が彼に芽生え始めたことであろう。この芽生えと、どうしようかと葛藤する姿が実に観る者にとっては近いものになり、一概に悪者に見えなくなるのである。
次に役者の存在が大きい。ロバート・デ・ニーロが文句なしにかっこよく、全く悪者に見えない。ニックの徹底したプロ意識や自分の住処では盗みをしないなどの流儀といったキャラクター性はかっこよく、並みな役者では単に背伸びをしたかっこつけに見えてしまっていただろう。しかし、ロバート・デ・ニーロは適役で、偽りなくニックというキャラクターを受け入れられるのである。
そして、もう一つは悪役のジャックの対比が利いていることである。ジャックの危ない橋を渡ろうとする無謀さはニックに比べてガキくさいし、また障害者ぶるなどはよろしいことではない。そうしたイケなさがあり、さらにラストの裏切りで彼は決定的に悪者になった。ニックの悪ぶりのおかげで、正統派で且つ陥れられたニックはいい人に見えるのである。
こうして分析してみるとそれぞれのキャラクターの役割や物語の筋書き、そしてそれを生みだす俳優など、どういう掛け算が行われていい怪盗という回答が生まれたのかを考えることになるわけであり、本作の式と回答は本作の物であり、他の作品では違う掛け算をしているだろう。なので、当たり前のことも改めて分析してみると面白いものである。
筋は確かに薄いかもしれないが
本作は内容が薄いと言われても仕方ないのは確かである。なぜなら、簡単に一文で物語を説明できてしまうからである。主人公ニックは盗人であるが、今回の大きなヤマを機に足を洗うと決意し、裏切りに遭うものの見事に盗みに成功し、最愛の人とめでたく一緒になれた、こういった具合である。しかし、内容が薄いからダメかというとそうではないと思う。本作は先ほども述べたようにカットのつなげ方や伏線の張り方は見事であるし、俳優も素晴らしい。また、シーンごとの魅せ方も素晴らしい。個人的にニックが相棒にやめた方がいいぞと勧告されるシーンでの夕暮れをバックにした車の絵と、寂れた室内プールともいうのか、マックスがそこで一人落ちくたびれている絵は印象深い。このように素晴らしい映像作品だったので、物語は深い物ではなかったが、十分に楽しめた。
内容の濃さを求めすぎなのが現在の特徴であるが、こういった映像の魅せ方というのが本来映画での勝負所ではなかったのかと思えば本作は花丸である。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)