フルCGによるアニメ作品はゲームのような印象
フルCGアニメの意欲作
今後、こういったアニメ作品が増えてくるものなのでしょうか。正直な感想ですが、ゲームのオープニング映像をそのままアニメ作品にした印象が強く、ガッカリさせられます。普通にアニメ作品として、制作した方が面白かったのではないか、と思います。またキャラクターの表情描写も違和感があります。
制作スタッフも分かってやっており、意欲的に挑戦する姿勢をもって制作に取り組まれていることは間違いないと思います。その心意気は立派だと感じますし、新しいチャレンジがなくて、新しいジャンルは創造できないものでしょう。今のCG技術で、どこまでのアニメ作品が作れるのであろう、ということに真摯に向き合った結果なのだと思います。
しかし、この取り組みで明確になったことは、今のCG技術による描写では、アニメ作品の描写に及ばないという事実だったのではないでしょうか。しかし、この10年ほどでCGの技術も進化しており、この作品が20年前に制作されたものであったら、もっと酷い作品になっていたことでしょう。また20年後に、同じようにフルCG作品が制作されたら、映像の完成度は「ベクシル2077日本鎖国」より遥かに高いものに仕上がると思います。技術進化の過程で、過去より未来に描かれる線の中に、こういったアニメ作品がある、という考え方をすれば、良い印象の受け取り方ができます。
まだまだ発展していく技術の過程で、制作されたアニメ作品として、評価されても良いのかもしれません。
今後の課題として、表情の描写を現実の人間にもっと近付けることでしょう。そして、身体の動きにも違和感があるので、もっと追求すべき部分なのではないでしょうか。
こういった作品が目指すべき先にあるのは、アニメ作品なのではなく、役者が演技することで制作される映画やドラマ作品のように思います。こういった映像技術が増えることで、カメラを回して制作される映画やドラマの製作費が抑えられるのでしょう。そして、もしかしたら役者という仕事が完全になくなることはないでしょうが、減っていくことは間違いないのではないでしょうか。芸能界という仕事や世界にも、イノベーションをもたらす技術革新なのだと思います。話を飛躍させ過ぎているかもしれませんが、そんな遠い未来の映像技術と映像制作を想像させてしまう意欲作といえるでしょう。
相反する作品タイトルと内容
2077年というのは、明らかに未来を意味する表現です。しかし、「日本鎖国」というのは過去を示唆する表現のように思います。それら相反する言葉をタイトルにつけていることが、世界観の入り口として魅力的に感じます。そして、内容そのものも世界観が明らかに戦後の日本に近いことも面白い部分のように感じます。そして、「大和重鋼」という存在も、戦前の財閥グループを示唆しているように思います。日本という国の歴史の中で、一つの時代ではなく、色んな過去の世界観を組み込んでいることも印象的です。「鎖国」ということから読み取れる江戸時代、そして財閥の存在から感じる戦前時代、さらに戦後の闇市場を印象づける世界観、少なくとも3つの時代を感じさせます。
そういった背景であるのに、プロテクターや乗り物といったオーバーテクノロジーの要素がアニメ作品の展開に面白みを加えています。
アンドロイドという存在
生身の人間にウイルス注射をすることで、徐々に身体がアンドロイド化していくという設定が恐ろしさを感じさせます。自分が自分でなくなる、という恐怖は、「死」を意味するのではないでしょうか。そして、正気の人間であっても、いつ正気を失うか分からない、という要素は、常に観ている側に緊張感を持たされ、画面から目が離せなくなってしまいます。こういった物語構成上、根本的な部分の設定が、作品自体の面白みとして大きく作用しています。
そして国民にウイルス注射を強制していること、また、人体実験という倫理的に許されない行為が「大和重鋼」という悪役を強調させます。正に、やりたい放題の巨大組織であり、放置できない存在であることを自然に示唆しています。主人公たちが立ち向かっていく展開が自然であり、仲間の仇打ち、仲間の救出という要素がなくても、充分に成り立つ動機を形成しています。
こういった設定の作り込みに、とても時間をかけて練り込んでいることが伺えます。
また、「大和重鋼」の「大和」は、アニメ作品では「だいわ」と呼称されていますが、「やまと」と読むことができます。「やまと」は日本国の始まり、ヤマト王権を指しているものと考えられます。日本国家というものがなく、「大和重鋼」が成り代わっていることを印象づけているのでしょうか。こういう部分でも、日本の歴史を感じさせる4つ目の要素として考えることができるのかもしれません。
脚本や物語は非常に面白いので、改めて、実写での映画化やドラマ化、アニメ化されたら面白い作品なのではないでしょうか。倫理観や国際ルール、国家規模となった組織・企業の暴走と危険性に警笛を鳴らすものであり、強いメッセージ性も感じられました。
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