歌と写真のコラボが心地よいエッセイ
子育て中にピッタリ
歌人である俵万智が、子育ての中で子供に対する思いをつづったエッセイ。歌人としてではなく、1人の母親としての心をリアルに綴っているので、読みやすくてわかりやすい、さらに共感もできるエッセイです。
特に、子育て中というのは、自分の育て方に自信が持てない事や、子供の行動や言動に、どう対処していいのか、わからない時があるので、「たんぽぽの日々」を読むと安心できます。
歌人である俵万智さんの感じたものは、たんぽぽの種が飛んでいく様子を、いつか飛んでしまっていくわが子に重ねたこと。その感性は、さすが歌人だなと思わずにはいられませんでした。日々煮詰まってしまいがちな、子育てを客観的に見ることができ、今ここにいるわが子がいつか大人になり、成長していくことを思い描かせてくれます。
子育て中というのは、とても大変で目の前の出来事しか感じられません。「たんぽぽの日々」のように、違う角度から自分を振り返ることで、子育ての時期が、大切な時間だと言う事を改めて認識させてくれます。
違った視点から見る子供の成長
子供の成長は、親として気になるところですが、子供の成長や、言動に触発された歌がつづられています。歌なので、とても短い文章なのですが、短い文章だからこそ、その中に盛り込んだ心を感じとることができますね。
私の気に入った歌は、「ドラえもんのいないのび太を思うとき 贈りたし君に夢の木の実を」です。夢という言葉は、嫌いなのですが、作者は「夢みる力」を木の実とたとえ、「夢みる力」こそが、自分自身の支えになってくれるのだと歌っています。夢は叶える事が目標だと、信じている人は大勢いますが、目標にたどり着かなくても、夢みる力さえあれば、生きていけるのだと思いました。
「母さんはいつもいつでもビリだった ビリにはビリに見える青空」この歌も好きです。教訓めいた言葉や歌よりも、弱い所をさらけ出す方が、説得力があると感じます。私もビリが多かった方なので、コンプレックスを持っていました。そのせいなのか「ビリにはビリに見える青空」という、部分がとても気に入っています。
正しいと、押し付けがましさもあり
子育てに奮闘する作者の心のあり方が、とてもよく描かれている「たんぽぽの日々」なのですが、共感や納得できるエッセイがある一方で、少し押し付けがましいなと思う、エッセイもあります。それは、1人1人の考えが違うので仕方ないのですが、ある意味エッセイや歌というのは、他人を気にせず、思いっきり自分の思った事や、感じた事を書きとめる書物に過ぎないのだなと、感じてしまいました。人の考えを知りたいと思う時には、作者の気持ちや考え方を知るのには、いいのですが、ただそれだけなのです。自分の考えや感じ方とは、作者と異なっていると感じると、意味の浅い本になってしまいます。
歌人でも、子供は牛耳れない
歌人である俵万智は、高校の教師をへて、歌人となった方です。様々な本を書き、知識も豊富な方なのですが、「たんぽぽの日々」を読んでいくと、俵万智氏も、普通のお母さんなのだなと、思います。特に、お子様である息子さんを牛耳ろう、自分の考えを息子に伝えようと思っても、子供というのは、なかなか牛耳れないものだなと、実感しました。
例えば「日本語をまずお前に贈る」と意地を通して、息子に英語を与えなかったのに、息子は、意に反して英語を覚えたがったり、使いたくなったりしてくるようです。歌人である母親を持ちながら、息子は英語に対して興味津々というのは、なんと面白いシュチエーションなのでしょう。歌人の息子に、どんな未来が待っているのか、知りたくなりました。
文字好きは、遺伝だと実感
親子の遺伝というのは、細部にも渡って遺伝していくのだなと、思いました。特に、本の好きな作者の息子も、また本が好きになるのですね。もちろん、本好きな母に、育てられたのだから、本が好きになったように思えますが、それだけではないと思います。お腹の中で育ったわが子には、同じ本好きな遺伝子が組み込まれるのでしょう。それだけ、親子の絆は、奥深い所にあるのかも知れませんね。
ただし、俵万智は、本好き以外にも、片付け下手という遺伝子が組み込まれているそうです。そして、片付け下手な遺伝子は、もちろん、お子様にもしっかりと受け継がれています。良くも悪くも、自分の何かが、子供に受け継がれていくのは、素敵だなと思います。自分の中にも、母親や父親、祖母祖父のどんな遺伝子が受け継げられているのかな?と知りたくなりました。
写真と文字のハーモニーに癒される
この「たんぽぽの日々」は、歌やエッセイを楽しむだけではなく、写真を楽しむという項目も用意されています。文章を読みたくない時、疲れてしまった時などには、こちらの写真を眺めだけでも癒されますね。写真は風景や自然の美しさを描写しているものがほとんどで、短歌ともマッチして絵になっています。風景と言葉で、お互いの存在を高めあっているのが、素敵でした。文字をじっくりと読まなくても、歌と写真だけで癒されます。
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