元祖ドクトル・コメディ
その名は“チョビ”!
この名前、自分のペットに付けちゃった人は正直に手を挙げなさい(^O^)/ハーイ! たはは…それほどブームだったんですよねぇ。ホントに楽しい作品でしたよ。農業大学の『もやしもん』に農業高校の『銀の匙』、これらの作品は果たして、動物のお医者さんなくして描かれてたでしょうか?
佐々木倫子作品の登場人物は一風変わっています。非常に醒めた性格で、真顔で実に変なことをやってしまう。結構な毒舌を吐いているんですが、ギリギリ下品にならない、ある種絶妙な一線に留まっているんですよ。当時の担当者により『動物のお医者さん』というお題のみを与えられ、困り果てた佐々木氏が、動物ネタを掲載誌を通して、広く読者から公募したのが事の始まりだったようですね。それによって確立されたスタイルは佐々木氏に合っていたようで、以降、独特のコメディ作品を発表されることになります。
年齢性別問わずファン層が厚く、シベリアンハスキーブームに獣医学部志望者増加現象を巻き起こし、とても影響力の大きかった作品なのですが、この佐々木氏、頑としてメディア出演に応じたことがないようです。漫画賞も辞退され、後に話題となった『おたんこナース』でも、原作者のみのTV出演に留まっています。ハスキー犬は、捨て犬問題も起こしてしまいましたからねぇ(-“-;) H大学の方も受験者が増えたのはいい事だったのかどうか。これはもやしもんや銀匙でも同様の問題がありましたから、何とも難しいですが、いずれもブームは去って落ち着いた事でもありますからね。
H大学の楽しい日々
ちょっと眉間に縦ジワな話題は置いておいて、本当に万人に受け入れられた作品です。とてもドライな作風で、登場人物はスラリとして平均的に美男美女風なのですが、まずラブロマンス展開になることがありません。構成は一話完結方式で、エピソード毎に発生する事件に、学生や教授たちが右往左往する様がコミカルに描かれます。うん、やはり戯曲作家の脚本に近い気がしますね。スラップスティックコメディ映画に近いものがあるんじゃないでしょうか。
舞台が大学なせいか、とにかく登場人物・登場動物が多いですね。物語の中心人物は主人公のハムテルこと西根公輝と友人の二階堂昭夫、お婆さんのタカ、犬のチョビ、猫のミケ、鶏のヒヨちゃん、先輩の菱沼聖子。そして忘れてはならない、ハムテルにスナネズミを押しつけ、将来ある青年の運命を無理やり変えてくれた漆原教授……。アカン、主要人物と動物が多すぎるっ、よくこんなのさばけたなぁ(・_・;)
比較的真面目な性格のハムテルのおかげか、ストーリーの要点はブレません。綿密な取材によって、マイナー分野であった獣医学の内情が理解し易く描かれたこともあり、多くの読者の興味を引いたのでしょう。過去に医療ものや動物園漫画はありましたが、どうやら無自覚に新しいジャンルを立ち上げてしまったようですね。牛の肛門に直に腕を突っ込み触診する直腸検査は衝撃で、この作品から後続作品へと受け継がれた感があります。ええ、まるで絶やしてはならない伝統のように、もやし・銀匙でも主人公によってきっちり行われました。なんでやっ(^_^;)
獣医さんは変人ばかり?
一見上品でストイックな外見の登場人物が、コロッと可笑しなことをやってしまうギャップが面白いのですが、中でもハムテル・二階堂の師となる漆原教授は強烈でした。強引かつマイペース、傍若無人で周囲を振り回す、何ともハタ迷惑な人物で、モデルが実在するのがまたオソロシイ。よくよく考えると医療分野のドクターでもある、ちょっと敷居の高い世界の人々ではありますが、この作品のおかげで親近感さえ湧きましたね。流行に影響されて、それまで見向きもしなかった業界に殺到する若者に対し、世間は眉をひそめる傾向があります。でもこういった作品が足掛かりになってくれることは、そう悪いことでもないと思うのですよ。きっと何割かはその道のエキスパートになってくれるでしょうから。
学生達は愉快な日常を送りつつ課題をこなし、動物や菌と戯れ、実習に翻弄されながら、実にドライに学び舎を巣立ちます。同期がそれぞれ進路を決めて大学を去る中、ハムテルと運命共同体を決め込んだ二階堂は、もうしばらく大学に残って漆原教授にしごかれることになります。そして一足先にやっと研究職に就職できた菱沼さん、今で言うリケジョの走りだったんですね(-_-;)
物語の締めは、ハムテルが獣医になることが示唆されてゴールとなります。与えられた題材を、佐々木氏は実に上手に畳まれました。温室育ちのハムテル青年も、漆原教授に揉まれて鍛えられました。開業の目途もたち、生涯の押し掛け親友・二階堂と共に、いや、どうかすると先輩後輩、漆原教授までもが押し掛ける、賑やかな動物病院を経営することになるのでしょう。
不思議に癒される空気を持ち、今でも読み継がれる作品となった『動物のお医者さん』は、こうして大絶賛のうちに幕を閉じたのでした。
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