獣医学部をクローズアップしたほんわか漫画
獣医学部の日常漫画、大学生や農学部出身者は共感度UP?
「動物のお医者さん」は獣医学部の学生ハムテルと愉快な仲間達の織り成す大学生の日常系漫画である…のだが、日常風景の描写がどことなく間が抜けており、全体としてのほほんとしている。連載当時の漫画はこんな雰囲気の作品が多かったのだろうか。バブルの頃の漫画だからか、登場人物たちの服装が派手だったりする。読む方には時代の流れを違う意味で感じたりもする。まぁ一番派手な格好をしているのは漆原教授なのだが。
他にもバブルの頃は10社面接を受けるまでもなく就職出来たのだろうか?今なら転職で「自分の年齢分くらいの数は受けましょう」なんて言われることもあるようだが。今の時代ならウナギもおごれないだろうし、フロッピーを見せても若い人には分からないだろうし。
個人的には漆原教授のアフリカネタで単行本一冊分の話が出来そうな気がするが…。ちなみにアフリカで相手を呪う行為は今後も衰退することはないくらいポピュラーな行為らしい。ウィッチドクターの話は事実であるらしい。そういえば過去にはアフリカで産まれたアルビノの赤ちゃんを呪術に使うとかでさらわれた話があったようだ。さすが暗黒大陸はスケールが違うといったところだろうか。インドあたりも似た匂いがする。
少々イヤなことを書いてしまったが、「動物のお医者さん」は雰囲気がいいので子供にも安心して読ませられる作品だろう。本棚に並べておいたら女性ウケがいいかもしれない。
作者は絵が上手い、しかし動きが感じられない
作中の人物や動物の描写は上手い。内容が大学の獣医関係の話が半分、動物関係の話がもう半分といったところなので当然動物がそこかしこに、それも様々な種類が登場するのだが、全編を通して全ての動物がうまく描かれている。中にはカンガルーやモモンガやアザラシ、家畜ならウマやウシやヒツジ等も、普通の人間であれば日常で目にしないような動物もすごく上手に描けている。今の時代ならGoogleの画像検索なんかでいくらでも資料用に画像を探せるだろうが、本作の連載当時にはそんな便利なものは無かったのは当然だから、佐々木先生は連載当時は資料用の写真や写真集などを大量に所持していられたのではないだろうか。オマケ漫画でそういうことが描かれていたから、家には動物の写真だらけだったことだろう。そういえば作中の動物たちの中では唯一ブタだけがあまりリアルっぽくない描かれ方をされていたが(特に目がリアルっぽくない)、何故だったのだろうか。
あとは瑣末なことかもしれないが、絵に動きが感じられない。キャラたちが激しく動き回るバトル物ではないから別にいいかもしれないが…。ハムテルと二階堂が乗馬クラブに行った回が何回かあったが、馬の描かれ方が動いていない感じ。他にはモモンガのモモちゃんの回で、モモちゃんは眠っているところにかけていた布を取られて自分の手で布を被せなおす場面があるのだが、動きがよく分からなくて一連の流れが理解出来ずコマを少し見返してしまった。佐々木先生の他の作品もそうなのだろうか…。
獣医になるのは医者になるよりも大変?
医者が診るのは人間、獣医が見るのは動物である。それは当然だが、この場合の“動物”とはいったい、どこからどこまでを意味するのかを考えたことはあるだろうか。
家畜専門の獣医もいるかもしれないが、近年は一般的なペットというとイヌネコだけでは当然なく、小鳥も古くから人間に飼われてきたペットだし、もっと言うとカメやトカゲやヘビのような爬虫類、熱帯魚に到っては淡水も海水もいる始末である。イヌネコなら昔は去勢手術や予防接種が主な治療行為だったかもしれないが、現在はイヌネコは肥満が問題になっているとも聞く。病状が変化しているのだ。鳥なら小さいものはカナリアや文鳥もいるし、最近は猛禽を飼う人もいるのでフクロウやハリスホークも診られないといけないかもしれない。しかもカナリアのような小鳥と猛禽はそもそも同じ鳥類とは言えないのは分かるだろうが、実はフクロウとハリスホークも猛禽としての性質や必要な環境まで何もかもが異なる。
こういうことを挙げていくとキリがないが、要は動物を診る獣医というのは扱う対象があまりにも広くなりすぎるということだ。人間で言うと外科、内科、神経科、泌尿器科、産婦人科…という具合に人間という一種類の存在でも診療する科がたくさんあるところに、動物の場合はさらに存在そのものが多種多様であるのだ。
ところで筆者は動物を飼育してかなり長い年月が経つが、ある本に(たしか爬虫類の飼育書に)こんな一文が書かれていた気がする。「基本的に動物を飼うのなら医者の世話にならないように飼育することです」、というふうに。動物を飼うのは楽しいことだが相応の責任を負うわけだから、自分の動物に何かあったら基本的に飼い主が問題を解決出来なければいけないということだ。本来動物を飼うのは安易に手を出すべきではない、とても厳しいことなのかもしれない。
なぜ獣医・農学部の日常系が流行るのか?
北海道のH大を舞台に描かれる本作だが、内容が似ている作品が他に「もやしもん」、「銀の匙」が挙げられると思う。農学部と獣医学部は共通することが多いので同じキャンパスになるのだが、なぜ人気漫画になった作品にこういった共通点が見られるのだろうか。「動物のお医者さん」でいうなら動物が出ているし、絵も上手いから人気が出るのは分かる。テレビ業界でいうと食べ物・子供・動物が出ると視聴率が出るという話があるが、かたや動物を扱う獣医学部と、かたや食べ物を扱う農学部だから人気が出たのだろうか。話によっては両者が混ざることもあるだろうし。
実は筆者は農学部出身の人間であるが(作物関係の)、確かに農学部だの獣医学部だのはキャラが立つ大学であると思うし、こういう大学は普通の大学とは何もかも違う。畑はあるし動物はいるし(家畜から少し変わった動物まで)、医療施設や研究施設もバリバリ敷地内にあるのが私の大学だった。もっとも、こういった施設や敷地は広い土地のある郊外しか確保できないので通うのは大変になる場合が多いのだが。大学祭になると食べ物関係の施設や学科も多いので(学校で肉も野菜も作っている)、出店の食べ物が美味しかったり本格的だったりしたので楽しみの一つだった。人間の食への関心や動物を愛する心がこれらの作品を人気たらしめているのかもしれない。あるいは都会人が失われたオアシスを求めて大自然への憧れを欲するのかもしれない。
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