どうしたもんか 村上春樹 - 地球のはぐれ方の感想

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地球のはぐれ方

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どうしたもんか 村上春樹

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目次

「作家が発信する異文化紹介本」の最後

まさに本書が発行された2004年という年は、情報発信は出版社やテレビ局、作家やタレントから一方的に行われる、という図式の終末の扉を開こうとしていた年と言っていいだろう。

時代的にはスマートフォンまだ認知は少ないものの2008年にiPhoneが発売がされ、これを皮切り大爆発する直前だ。社団法人日本観光振興協会の発表によれば、旅行情報源の調達の仕方として「るるぶ」や「まっぷる」などを代表する旅行ガイド本をインターネットが上回ったのが2006年。さらにそれから10年程たった今となっては異文化紹介そのものが作家ではなく地元のwebライターが日本人共通の目線を持ちつつ、住民しか知りえないディープな情報を無料で発信しているので、このような本が一気に無力化してしまった。知ってか知らずか商業的には滑り込みでセーフを拾った書籍と言ってもいいかもしれない。

2008年には文庫化もされたようだが、この時点では既に情報自体も古くなっており、実際村上春樹人気に乗っかっただけの本とも言える。2010年代も積極的に活動している都築響一はともかく、雑誌にエッセイを載せたり、スタイリストとして一部では名がしれている程度の吉本由美の名ではこの本は大して売れなかっただろう。

愛知県民にケンカを売ってるのか?この人たち

読む側のカタルシス的には、地元の人がやや自虐的に「我が町の笑えるところ」を紹介するのは許せる。しかしこの本はどうだろう?都会から来たオシャレぶったおっさん、おばさん(しかも「ベストセラー」作家とか「伝説のスタイリスト」の称号を持つ)が地方を小馬鹿にして歩きまわっているのだ。名古屋の記述など見ると、大盛文化や味の掛け合わせの冒険などを紹介しているのは良いとしても、名古屋圏に住む人のアイデンティティがどうとか、若者がデートする姿が想像できないとか、明らかに「地域」を小馬鹿にして上から見下ろしている。しかもそれを3人でやっているので、相乗効果でヒートアップしていくのだ。

しかも彼らの団体名が「東京するめクラブ」。書かれた側は「どうせ東京からみればこちらは田舎ですよ、すいませんね」と卑屈になるだろう。

まさに今でいう「ヘイトスピーチ」だ。食文化が「東京と違う」、道路事情が「東京と違う」などの根拠で、そこの地域を貶め、住民を貶めている。まるで「東京」にあらずんば人にあらず、とでも言いたげだ。

村上氏はこの数年前にオウム真理教による「地下鉄サリン事件」に関連した事件を調査している。彼はたまたまその事件に遭遇して、いわれのない被害を受けたたくさんの人たちを取材したはずだ。何故その彼をしてこの文書を読んだ愛知県民が嫌な気分になるだろうと想像できなかったのだろうか。世界で数千万人(数億人?)の読者がいるから愛知県民750万人など取るに足りないのであろうか?冗談と言えば済むと思っているのだろうか?

更に自分が世界に名だたる著名人であり、発行された本が何十年にわたって何万部も売れると知っているはずだが、その点は考えなかったのだろうか。

作家は書きたいことを書くのが仕事かもしれない。しかし、彼らが見たのはちょっと変わった食文化や東京のようにごみごみしていない広々とした道路だ。それだけでそこの住民の特性を語るのは稚拙すぎる。若者が集まる場所が無いとか、デートする場所が無いとか、勝手に言っているが、その想像の根拠は全く記述されていない。調べたのか?違う。そう思った、という程度だ。しかも風俗的なことまで安易に記述している。

ひどい話だ。こういう人がカルト宗教の悪を書く権利があるのだろうか。ノーベル賞候補という話もあるが、こんな人にそんな賞をあげてもいいのだろうか?

さまよえる村上春樹

村上氏の紀行文と聞いて「遠い太鼓」のようなものを想像して入手した方もおられるだろうが一様にがっかりされたのではないだろうか?あれは村上氏の単独行であったことと我々がほぼ見知らぬ地であったギリシャやイタリアを中心とした作品であったことから、少々シニカルでもポップな文体の村上エッセイワールドを存分に楽しんだ。

しかし、今回は共著であり、村上ワールド全開という訳でも無い。

冒頭のメンバー紹介のページで村上春樹については「ベストセラーノルウェイの森」とかいうこれまでの村上氏からは想像もつかないような紹介がされている。正直この本を手に取る人の中で村上春樹を知らない人がどの程度いるだろう?「言われんでも知っとるわい、自慢かい?」と思える。出版サイドが勝手にいれたのかもしれないが、以前「ノルウェイの森」などで本の装丁までチェックしている、と記述していた村上氏、先のような記述を知っていてスルーしたとしても知らずにいたとしても、大ブレイクするとはこういう事か、と思わせる。正直がっかりである。

「最新作アフターダーク」とかいう記述まであり、「買ってね」、という事なのだろうが、あざとい感じが残るのみだ。「ベストセラー」作家なんだからこんなマイナー狙いの本に書かなくても書店に平積みされてるだろう!と突っ込みたくなる。

彼はこの地方批判本で、金銭以外の何を得たのだろう?名古屋訪問から「アフターダーク」のラブホテルのヒントを得たとは本人も記述している。また、この体験は「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」に役立っているのかもしれない。しかしそれは作品のメインアイデアではない。あくまでも小道具やいろどりの部分だ。

このころの彼の作品を見ると非常にわかりにくい割に、以前の作品で記述した小さな表現を広げて伸ばして書いているようにも見える。

彼自身が書いた「ダンス・ダンス・ダンス」に登場する「牧村拓」のように作家として枯れているのに文壇の周りをうろうろしている、などという事にならない事を切に願う

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