人を疑うことでおこる現象 - ビースト・クエスト 4 馬人テーガスの感想

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ビースト・クエスト 4 馬人テーガス

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人を疑うことでおこる現象

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目次

子どもの話を信じない大人たち

トムは牛を襲ったとして、町の人たちに牢屋に入れられてしまいます。いくら話をしようとしても大人たちは嘘をついているとして聞く耳を持ちません。ではなぜ大人は子どもが嘘をついていると決めつけてしまうのでしょう。それは質問したときに相手からの答えをあらかじめ予測してしまうところにあるでしょう。そしてその予測した答えと違っていたり、相手が出した答えが自分にとっては都合の悪い答えであったりすると、嘘だと思いたくなるのでしょう。それが自分と同じ大人の場合はまだ「嘘だと思いたい」というところで止まるのでしょうが、子どもの場合だと「嘘だ」と言って信じることを拒否してしまうのかもしれません。いたずらで牛を驚かそうとしたら、たいへんなことになってしまったとでも言ってほしかったのかもしれませんね。

 子どもの言うことは時として大人には耳が痛いと思うことがあるでしょう。そのため話させないように大きな声を出したり、力ずくで黙らせたりしてしまうことがあります。そこには自分たちが認めたくない・聞きたくない何かがあるからでしょう。この場合はトムたちが無実だとまた犯人を捜さなければいけなくなるのと、トムたちを疑ったことを過ちだと認めなければならなくなります。しかし一番認めたくないのは、話を聞かなかったことではないでしょうか?「人の話はちゃんと聞きなさい」子どものころよく大人たちから言われてきました。そしてそういう大人を見て「自分の方こそ話を聞いていないじゃないか」と思った人も少なくないと思います。そういう大人に自分もなっていることを認めたくないという思いがあるのでしょう。しかし話を聞くと自分が聞きたくない話を聞くことにもなりかねません。そこで子どもの話を「嘘だ」と決めつけることで、聞いたけど嘘だと思ったという態度をとろうとするのでしょう。

 見ず知らずのものを疑う利点

 トムは町の人にとって見ず知らずの者です。そういった立場でも牛を襲った犯人だとするにはうってつけだったでしょう。見ず知らずの者が犯人であれば、よく知っている町の人を疑う心配がありません。ここでは結局犯人は、トムでも町の人でもなく魔法で操られている「馬人テーガス」だったのですが、ビーストの存在を信じていない町の人たちにとっては、考えも及ばないところだったのでしょう。

 よく知っている人を疑う場合、いろいろなことを考えなければなりません。相手を疑っているということを知られただけでもその人との関係性が壊れてしまうかもしれないからです。相手が犯人でなかった場合、疑われた方は疑った人から自分は悪いことをするような人間だと思われていたと感じ、今までのような付き合い方ではなくなってしまうでしょう。そのためその人以外に犯人だと考えにくい、またはその人が犯人だという確実な証拠がない限り疑うこと自体難しくなります。しかし、見ず知らずの者であればそれらのことを考える必要はありません。疑う理由は「どこのだれかわからない人」というだけなのですから。町の人の中にそんな悪いことをするものはいないからよそ者が犯人だという考えです。

 罪悪感がうむもの

 トムたちが牛を襲った犯人でないことがわかると急に態度を変えます。一方的に疑って牢屋に入れたのが、悪いことをするどころか牛やビクターを助けようとしてくれた恩人だったとわかったからでしょう。自分たちが間違っていたことはわかっていても、疑ったことに対して謝ることができず、かといって疑っていた時と同じ態度をとることもできません。その結果、トムたちの希望を叶えることで自分たちがしたことを帳消しにしようとしたのかもしれません。

 罪悪感を持った場合、人は3タイプに分かれます。それは罪悪感を早く手放そうとするタイプと、罪悪感を持っていることを感じないようにするタイプと、罪悪感を持ったままにしておこうとするタイプです。手放そうとするタイプは、自分が悪いことをしたと思いその原因を解消することで、罪悪感を軽くしたり手放そうとしたりする努力をします。町の人たちの行動は、罪悪感を軽くしようとする行動だと言えます。持っていることを感じないようにするタイプは、心の底では自分が悪いことをしたと思っているのですが、それを認めたくないため誰かのせいにしたり仕方なくしたのだと言ったりします。罪悪感を持ったままにしておこうとするタイプは、必要以上に自分を責めることで周りから「あなたは悪くない」という言葉を言ってもらおうとします。トムたちも本当のことが言えない・嘘をついているという罪悪感を少なからず町の人たちに抱いているようです。しかし、それを認めてしまうと自分たちは使命のためとはいえ、悪いことをしているのではないかと思ってしまうため、ビーストたちを呪いから解放し町の人たちの生活を取り戻すことで、罪悪感を帳消しにしているのかもしれません。

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