私のバイブル - 砂時計の感想

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漫画レビュー数 3,136件

砂時計

4.334.33
画力
4.33
ストーリー
4.50
キャラクター
4.33
設定
3.83
演出
3.67
感想数
3
読んだ人
6

私のバイブル

5.05.0
画力
4.5
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
3.5

両親の離婚を機に母の故郷へと引っ越してきた主人公、杏は慣れない環境の中で大吾と出会います。田舎で暮らすことにも田舎の人たちの距離感にも慣れないのは杏も母親も一緒だったと思います。杏の母親はとても美人で小さな田舎ではちょっとした有名人でしたが、そんな対応が彼女はずっと苦手だったみたいです。運命の男性に出会って上京する夢が叶った女性が嫌いな故郷へ、しかも離婚して帰って来るなんて恥ずかしさも悔しさもあったと思います。もとから繊細だったこともありますが精神的に不安定になった母は自分の人生の重荷に耐えられず自ら命を絶ってしまい、これは漫画のストーリーの中で一番大切な事件となります。この事件がなく母親が生きていれば杏は何事もなく大吾との愛を育み、幸せに暮らしていたと思います。

母親が死んでしまい、まだ小さい杏は一人きりになってしまいました。これからどうしていいかもわからないとき、大吾はずっと一緒にいる、と約束をします。このとき大吾が言った言葉に嘘はないのですが、この言葉は2人にとって呪いのようにつきまといます。杏と一緒にいると言ったから一人にしてはいけない、と思い大切に宝物を扱うかのように杏を扱います。杏は杏で母親に似ている部分があるので好きすぎる気持ちが大吾を壊してしまうのではないか、母親と同じように私の前から居なくなってしまうのではないかと不安になりなかなか上手きません。大吾に支えられて前を向いて歩こうとする杏ですが母親の存在はとても大きく、杏が悩むと心の中に母親の弱さが表れます。大吾はそんな杏を一生支える覚悟をもちますがその愛情さえも杏は信じられず拒否してしまう。そんな杏の対応に腹が立ちながらも自分を責める大吾。そんな不器用な2人の20年にわたる切なく最高のラブストーリーです。

私がこの漫画が大好きな最大の理由はキャラクターの愛くるしさです。みんながそれぞれの境遇があり不安をかかえ、それでも一生懸命に生きています。藤くんは自分が隠し子であると誤解をして長年生きていますが実際には椎香ちゃんが隠し子で、彼女はそれを祖母から聞くことになります。お金持ちの家に生まれ何一つ不自由のない生活をしてきた二人ですが、自分は何も持っていないと自分に自信がありません。杏と大吾の仲は特別で入る隙間はないとわかっていてもそれぞれ恋心を抱いてしまう。いけない恋とわかっていても恋心は止められずあんなに仲の良かった四人はバラバラになってしまいます。大吾の真っ直ぐに杏を好きな気持ちに椎香ちゃんは恋をしてしまう。藤くんは素直な杏にずっと片思いをしています。この二人の兄妹はとってもいい子なのですが一番そばで大吾と杏を見てきたからこそ、自分の気持ちを押し殺して二人の幸せを願います。この二人がとっても切なくて愛しいです。

この作品は一人一人の気持ちが繊細にかかれていて決して主人公の味方をしているわけではありません。私を含め女性は少女漫画の主人公に自分を投影することが多いのでライバルの子イコール悪者、本命の男性以外は邪魔者に見えます。この漫画では杏のことが大好きな藤くん、大吾のことが大好きちゃん、この4人を中心に出てくるキャラクター全てに大切な人がいます。上手くいく人がいるなら必ず上手くいかない人もいる、だからこそ大好きな人と両想いになれたのならその人を大切にしなければならない、と教えてくれるような漫画です。

私が最も好きなシーンはやっぱりラストシーンです。大吾と杏は心のすれ違いがあり一度終わりを告げます。大好き同士が別れるのでお互いを忘れられずにずっと思い続ける煮え切らない状態がかなり長く続きます。全10巻なのですが比較的早い段階で2人は別れてしまい、別れたあとにもそれぞれに運命の人だと思わせるような人々が現れお付き合いをするので、実際に私もこの漫画は視聴者が思っている展開ではないエンディングが待っているのか?と騙されました。婚約破棄をされた杏は直接的な表現はないものの母と自分の故郷に帰る途中で自殺を図ります。この時の気持ちはどんなものなのかわかりませんが、きっと全てに疲れたんだと思います。身を削って人との関係を築いても一瞬でそれが壊れてしまった杏にはこれから先の未来を考えることが嫌だったんでしょうね。私も似たような経験があるのでわかります。しかし故郷へ帰る途中で自殺しようとしたということは大吾に構って欲しかったのかなー、という最後のあがき感も否めません。

実際にそれに気づいた杏の祖母は大吾が病院に駆けつけると大吾に向けて謝罪をする場面があります。娘を亡くしたおばあちゃんには孫の行動も、心理もわかっていたんでしょう。杏のお母さんと杏の決定的に違うところは杏はやはり強いです。それはとても杏を大切に思うおばあちゃんの気持ちに気付けたからだと思います。そしてそれに気づくことができたのは大吾に出会って、恋をしだからだと思います。運命の人、赤い糸という言葉がぴったりの、愛の溢れる漫画です。

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他のレビュアーの感想・評価

絶望の中の、暖かい心の拠り所を感じる作品。

独特の作品感。この作品は大好きで、これまで何度も読み返していますが、このレビューを書くにあたって改めて全巻読み直しました。私はもうすぐアラフィフの主婦で、小さい頃から漫画が大好きなのですが、アラフォーの頃から、もう若い世代の漫画家さんの漫画は読む事が無いだろな・・・と思っていた矢先に出会った漫画で、また年齢や世代ギャップの違和感無く、すんなりのめり込めた作品です。作者の芦原妃名子先生の作品はこの「砂時計」しか読んだ事が無いのですが、独特の作品感のある漫画を描かれている漫画家さんなのだな・・・というのはこの一作を読んでもよく分かります。物語はとても暗くて、とても深い人間の心の傷やトラウマや痛みが描かれているのですが、時折ギャグっぽいシーンが入る事によって、昼ドラ的なドロドロも、読んでるこちらも悲しくなるようなそれぞれの登場人物の痛みも充分に伝わってくる反面、くすっと笑う事で痛みがやんわり...この感想を読む

5.05.0
  • Toatch21Toatch21
  • 558view
  • 2949文字
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母親は安らかに眠りにつけたのだろうか

この作品は一貫して、母親が自殺したのを「理解できない」という感じで描かれている。どの登場人物も、「母親も辛かったんだろう」なんて同情している空気がまったくないのが、少し不自然だ。旦那は借金して離婚、悪い噂をすぐ流される田舎で、働きすぎて倒れても小言を言われ…母親の状況を考えれば、ナイーブな人なら自殺するのも仕方ないのではと思う。当時12歳の子供の立場になってみれば、わからないのも無理はないが…おばあちゃんや近所の大人も含め、結局は「弱いのが悪い。子供を置いていくなんて」と、残された側の言い分ばかりで母親が可哀想になってくる。最終章でようやく、置いていかれたのは「あれはお母さんの優しさだった」と言った主人公に私も少し救われた気分になった。主人公は10年以上かけて母親の死を乗り越えたわけだが、他のおばあちゃんや父親は立ち直りが早すぎやしないか?とも思う。母親を弱らせた原因を作った父親や、とどめ...この感想を読む

3.03.0
  • もんぷちもんぷち
  • 309view
  • 538文字

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