どうしてこうなった!の一言に尽きる。
柴咲コウの美しさ、海老蔵氏の貫禄、伊藤英明の演技は素晴らしい…が。
「四谷怪談」がベースになっているジャパニーズホラー。劇中劇と現実を交互に繰り返し、現実と虚像の入り混じる独特な世界を描いているこの作品。
主演の柴咲コウ氏は艶と哀愁をまとう有名女優役。初めから最後まで超絶美人で心が奪われました。市川海老蔵氏もさすがと言わざるを得ない、演技の幅の広さ。伊藤英明氏は盲目の按摩役、ハマり方が素晴らしい。まさしく怪演。
と、個性豊かで実力のある俳優陣を集まっているし、三池監督だし、劇中劇の舞台セットの造りや演出の凝り方も一切の妥協がないと思う。
だがこれは駄作だとわたしは捉える。1割くらいはわたしの理解不足なのかもしれないが。
そもそもあらすじを振り返ると、
舞台「真四谷怪談」の看板女優である後藤美雪(柴咲コウ)の推薦により、売れない新人俳優の長谷川浩介(市川海老蔵)が見事に伊右衛門役を射止めた。
とあるが、作品の中で上記の説明は一切ない。柴咲コウ扮する美雪が有名女優で、それなりの地位や名声をもっていることは劇中で察することが出来るが、長谷川氏に関しては「こいつ、ダメな男だ!」という印象しかない。
そして、「売れない新人俳優が口添えで大役を得た」という設定の信憑性のなさ。
なんせ市川海老蔵の劇中演技がうますぎる。こなれすぎていて、とても口添えで役を得た新人には見えない。例えば舞台に関する無知さ、演技への情熱の希薄さなど何かあればよかったが…海老蔵氏の演技の目が本気すぎて、その設定は破綻したように見える。(むしろ海老蔵氏が本職なので、劇中劇の中で柴咲コウの演技が浮いてしまうように感じた)
一言でいえば「ややこしい」
現実と劇中劇を繰り返し、現実と虚構をいり交ぜて魅せる…のがテーマなのは本当に良く分かるのだが、じっくりしっかり向き合っていても不明点が首を傾げるところが多すぎて残念。伊藤英明ももう少し作中に絡んできても良かったのでは?というくらい存在感がない(劇中劇では素晴らしいが)
劇中にほとんど現れていない美雪の心理状態+進行をわたしなりに整理すると
・美雪、長谷川の浮気に気付くも受け入れようと努力する。「最後にここに戻ってきてくれればいい」と。それと同時に、「子どもが出来れば、ここに帰ってきてくれるのでは」と思うようになる(これは劇中劇の、【子どもがいることで夫との関わりは消えない】と縋りついているお岩の心理が反映しているものと思われる)→(そしてお岩の心理状態がここまで影響してしまったのも、小道具の櫛を盗んだことによって何かしらが同調した可能性)
・直後、妊娠検査薬を大量に購入。しかし結果は陰性で、焦燥感と虚無感からどんどん疲弊していく。そして追い打ちをかけるように、長谷川は浮気相手(劇団の新人女優)と仕事だと偽って旅行へ行き、美雪に「帰れない」と連絡。
・その言葉が切っ掛けだったのか、美雪の精神が崩壊→ある雨の日、車に乗り信号待ちで止まっていた長谷川を殺害。
それ以降の器具を使っての擬似堕胎シーン、美雪殺害シーン、劇中劇での出来事は全て長谷川の妄想…というか、彼自身が死んだことに気付かず劇の稽古を熱心に(?)繰り返し、地獄のような虚構に飲まれていったものだと捉えている。
長谷川が現実として過ごす描写が段々と希薄になっていき、劇中劇や崩壊した美雪(お岩)の描写が鮮明になっていく描写が見受けられるが、これは長谷川にとっての「現実」が死に「虚構」へとすり替わっていく様を示唆しているのではないか。
(そして【虚構の劇中】でお岩(美雪の生霊)の手にかかり死を迎えたことによって、彼は完全に死んだ)
ジャパニーズホラーは「理不尽に降りかかってくる逃れられない恐怖」が根底にあるからこそ怖いものだと思うのだか、今作は「殺されても仕方ない人だった…」と思ってしまう上、お岩に感情移入をしてしまうので、普通に愛憎からの復讐劇を見ている気分。
演出、描写、メイクなどホラー要素は満点だが、ホラー映画ではないなという結論。
全てにおいて勿体なかった。せめてあと20分長ければ。
本編は約90分と短めの映画になっている。90分でも良作の映画は沢山あるが、喰女に関してはなんとも中途半端な印象。
せめてあと20分ほど長くし、作中での心理描写などを増やすべきだったのでは。そもそもの設定がうまく反映していないことから、キャラクターも上手く描き切れておらず薄っぺらい印象になってしまっている。伏線としても回収出来てないところ、不明瞭すぎて納得が出来ないところが多すぎて作品として未完成さすら感じる。
描き切らないことがホラーとしての味、受け取り手の想像に任せたい、という主張があるのならもちろん結構だが、ここまで美術や演出に凝った映画が「よくわからないからつまらない」と一蹴されるのは悲しいものがある。
全体を通しても、勿体ないという言葉が先に出てしまう映画。駄作と言いたくはないが、良作ではない。残念。
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