子ども向けアニメ媒体としては過激すぎるような
矢吹丈は最初から強い主人公
ヤクザ相手に喧嘩しても勝ってしまうし、破天荒でメチャクチャ、やりたい放題というキャラクター設定なんですよね。しかし兄貴分としては、面倒見がよく、自分を慕ってくれる子どもたちの面倒見は良いようです。でも主人公、矢吹丈はどこか掴みどころがないキャラクターとして描かれているように思います。
親に捨てられ、孤児院で育ってきた、という設定がしっかりキャラクターに反映されていますね。冒頭部分を観ていると、この作品はボクシングに向かっていくのか、よく分からない展開になっていくのが印象的です。やりたいようにやって、ヤクザにでもなるのか、とすら思えてきます。また暴力の描写が、今のアニメでは絶対に有り得ませんね。この作品が子どもの観る時間に放送されていたら、今では大問題になる気がします。放送局に批難、問い合わせなど殺到しそうで、特にPTAとか非常にうるさいのではないでしょうか。
ヤクザと喧嘩、その上で喧嘩相手は刃物だすし、その上で警察署の中で暴れて脱走して立て籠もる、というのは少し昔の赤軍派を彷彿とさせる内容です。そして少年院へいく主人公なんて、今の子ども向けアニメじゃ有り得ない設定でカオス過ぎます。
しかし放送当時は子どもたちが食い入るように観ていた、と昔話で伺ったことがあります。たしかに現代社会になって、今ではこんなこと有り得ませんが、これが当時の時代背景だったといえると思います。昔は日本も貧しかったし、暴力団やその関係者も多かったのでしょう。また貧富の差も激しかったことが伺えますので、良い・悪いは置いておいても、そういった意味でも良い勉強になるのかもしれませんね。
しかしあれだけ無敵を誇った矢吹丈を最初に叩きのめしたのは、丹下段平で、この展開には驚かされました。冒頭から丹下段平はどうしようもない酔っ払い・アルコール中毒の汚い浮浪者のような様相です。元プロボクサーという肩書きがあっても、それだけで矢吹丈に勝てるワケがないと思ってしまいますよね。
その意外性で、作品そのものに引き込まれたものは大きかったように思います。
少年院という斬新過ぎる場面
子ども向けのアニメ作品で少年院を描いたのは、後にも先にも「あしたのジョー」だけではないでしょうか。それだけ印象に残る大きな場面だったように思います。しかも矢吹丈は、少年院の中でもやりたい放題で敵なしというのも、この先どうなっていくんだろうという展開にドキドキさせてくれるものがあります。
未だに有名な場面といえば、「パラシュート部隊」と名付けられたリンチの場面ですよね。しかし元々は戦時中の軍隊などで行われていたリンチのようで、ゾッとさせるシーンです。今では子どもが真似をして危険などで、絶対に放送できないでしょうね。
力石徹という魅力的なキャラクター
少年院生活で、やりたい放題だった矢吹丈を叩きのめしたのが、同じく少年院生活を送っていた力石徹です。彼のカッコ良さは、今になっても、色あせることがないのが凄いことだと思います。そして現実に葬式イベントが開催され、多くの方がそのイベントに参加されたと伺ったことがあります。現実にそれだけ、影響力があったアニメキャラクターというのは凄いことですよね。
本来、少年院にいることが分からないくらい紳士的なキャラクターです。プロボクサーで試合中に、観客の汚い野次にカッとなり、その観客を殴ってしまったという理由だそうです。紳士的なのが信じられなくなってきますが、少年院で生活して更生したということでしょうか。
力石徹や矢吹丈の男同士の友情とは少し違った絆を描いているのが、この作品の特徴のような気がします。親友ではないし、ライバル関係なのに、それぞれお互いを認め合っている関係性が非常にカッコ良く感じます。力石徹と矢吹丈のような関係性って、他のアニメ作品や映画・漫画作品を見通してもなかなかないように思います。それがこの作品を唯一無二の魅力的な存在にしているような気がしますね。
ようやくボクシング作品らしい展開に
ここまでの展開が非常に長かったように思います。原作者はこの作品を最初からボクシング漫画にする気があったのでしょうか、と疑ってしまうほどにここまで長く感じました。それだけ丁寧に、主要な登場人物の背景やキャラクターを印象付ける為の布石だったのでしょうか。それとも毎週の週刊誌連載の締め切りに追われて展開は、その時その時で考えられていたのでしょうか。結果として、こういったかたちにまとまったのでしょうか。
力石徹VS矢吹丈の試合はレジェンド
なにが意外な展開だったか、それは主人公の矢吹丈が試合の勝敗に負けたことです。そして力石徹というキャラクターが死んでしまったことです。少年誌の王道的な展開を良い意味で裏切ったことが凄いことだと思います。試合前の場面で、すでにお互いの背負っているものや試合に懸けるものの違いが描かれていますので、矢吹丈の負けはすでに決まっていたことなのでしょう。これは原作者が確信犯で仕掛けたことだと理解できます。
それまでは主人公の矢吹丈は力石徹と闘うことがボクシングをやっていた大きな理由だっとように思います。しかし試合を通して、力石徹が死んでしまったことで、心に大きな傷を背負うことになります。
しかし、同時に力石徹という存在が矢吹丈をプロボクサーにしたのではないでしょうか。
力石徹を失ったことで、矢吹丈はボクシングを逆に辞められなくなったと思うし、ボクシングにより真剣に向き合うようになった気がするんですよね。
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