少女漫画の枠を超えたラブストーリー
単なるBLではない!!
最近は本屋に行けばBL作品がたくさんあって見るのが恥ずかしくなるような表紙のBL漫画が多いけれど、私はこの「ニューヨークニューヨーク」はBL作品ではない!!!と言いたい。
少女漫画というジャンルの中でゲイの主人公の青年二人が様々な困難に立ち向かい愛を貫く姿を、少女漫画の読者達が読む事の出来るギリギリのラインで描いている。
なんせ私がこの作品に出会ったのは小学生の頃だ。当時は衝撃的だった。私を含め、セックスのことをよく知らない当時の小学生や中学生が、ゲイのセックス描写やゲイの抱える問題を読み何を感じ取ったのだろう。
私はこの作品を通して、ゲイという存在を知った。そういう人たちもいるのだということを理解した。いや、本質的なことは理解出来ていなくても、そういう人たちがいて、たくさんの問題を抱えて生きていることを知ることが出来た。
この作品に出会えたことは、当時の私にとって画期的だったのは事実なのだ。
最近ではLGBTとう言葉も広くメディアなどで使われるようになってきたが、それでも尚偏見を持っている人も少なからずいるのだ。
私はLGBTに関してのニュースや、彼らを題材にした作品を観たり読んだりすることを受け入れがたいと想うことはない。まだ未熟だった頃にこの作品に出会い、ゲイの問題に少し触れられたからだと思う。
あくまで少女漫画なので、難しい文学作品と同列に比べることは出来ないけれど、若い世代にとって読みやすい漫画というジャンルの中で、社会問題の一つを提示し、それを読者に伝え、また考えされてくれる素晴らしい作品であると思う。
ゲイの息子を持つ母親の葛藤と愛
ケインの母親は息子が異性愛者であることは信じて疑いはしなかった。ケインもまたずっと両親に対し後ろめたい気持ちでいるのだ。母親は初めて息子への偏見を持ち、その感情を見せる。
お嫁さんと楽しく会話しながらキッチンに立ち、孫の世話をする。そんなささやかな幸せ。母親が息子に抱いていた将来の夢や希望が崩れ落ちる。
当時、ケインやメルに少なからず感情移入していた私だけれど、月日が経ち母親になって感じる気持ちの変化。あぁ、母親になった今なら分かる、ケインの母親の心情が。
私はゲイに対する偏見は少ない方だ。いや、むしろ無いと言いたい。
息子が将来彼氏を連れて来たって仲良く出来るし、息子へ偏見など持たない。だけど、やはちストレートの人達が多く暮らしている世の中で、みんなに理解され生きて行くことは難しいのでないかと考えられずにはいられないのだ。そういう険しい道を進んで行く息子が心配になるのだ、母親だから。
ケインの母親も少しずつ理解を示し、二人に歩み寄り、協力者へとなっていく。その母親の愛の深さに今は涙してしまう。
この作品はゲイと関わる人たちの心の葛藤もまた私たちの心をぐっと引き寄せる。ゲイへの偏見を持つ昔の友人や同僚達。生々しく描かれるその姿もまた現実なのだろう。
ゲイを受け入れられない人が悪いのではない。理解を示す事の出来る人もいるし、その逆も然り。現在もそれは変わっていない。だからこそ読んで考えてみたいと思う。自分ならどうするのかと。
溢れる愛
二人は結婚式を挙げる。小さな教会で。ケインの上司のブライアン夫婦に見守られて。
このブライアン、すごく素敵な人物である。異性愛者だけれど、ケインを差別したりせず、ずっと変わらず接している一人なのだ。現実世界でもそうだが、理解者がいるということは素晴らしい事だ。様々な困難が描かれている作品の中で、ブライアンは読者をほっとさせてくれる存在感だ。
そして養子縁組を交わした二人は新しい家族を受け入れる。二人は養子を取り、一人の女の子を育てる。その子供への向き合い方が優しく、穏やかで、じんわりと心が温まる。日本は男の人が子育てに積極的に参加するお国柄ではないためか、ケインとメルが協力して子供を育てていく姿に強い憧れを抱いてしまった。
二人は娘の初潮にあたふたし、娘はそんな両親をきちんと理解している。成長した娘はだんだんと皮肉な言い回しがケインに似て来る。そういう姿が微笑ましく思えるのだ。
素晴らしい家族ではないか!!!
腎臓がんに冒されたメルが先に他界してしまう描写には涙が溢れる。そこから終わりまで涙が止まらない。あぁ、愛し合うはこういうことなのかと。
この作品は最初から最後まで、一環して二人がそれぞれを想う愛が詰まっている。愛ゆえに葛藤し、それでもまた愛し合う。その二人に寄り添う理解者達の愛もまた深い。
この作品がゲイやレズビアンの現実かと問われたらそれは否だろう。男女でも上手くいかないことの方が多いのかもしれない。けれど、やはり憧れてしまうのだ。想い想われる二人の姿に。
愛に溢れ、相手を想い、それを死ぬまで貫き通すのだ。なんという情熱!純愛!!
最後のシーンが心に残る。
「ジーザス、運命だ」
漫画はあくまで漫画であり、実在しないストーリーなのは百も承知だ。だけど、私は二人の姿を素敵だと思うのだ。
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