紅に続く蒼の物語
紅に続く王道路線 蒼のテーマは亡国の王女
スクウェア・エニックス時代から、ハイレベルな作画と安定したファンタジー路線で定評のある東まゆみ。
原作つきの作品を担当することの多い東まゆみの、オリジナルの代表作が『EREMENTAR GERAD』である。空賊の少年・クーと七煌宝樹の少女・レンの冒険譚であるこの物語は、 全18巻に及ぶ連載の末エンディングを迎えた。
その外伝でありもう一つの物語が『EREMENTAR GERAD 蒼空の戦旗(以下、蒼)』である。単行本のカバーが青を基調としていることから『蒼』と呼ばれ、対してクーたちの物語は単行本のカバーが赤であるため『紅』と呼ばれる(主人公のテーマカラーがそれぞれクーの赤、アシェアとジィンの青であることにも由来するかもしれないが、詳細は不明)。
『紅』がボーイ・ミーツ・ガールの王道展開だったことと同じくして、『蒼』も亡国の王女という王道路線を貫いている。
東まゆみは良くも悪くもケレン味がなく、ストーリーもキャラクターもどこかで見たことのあるものが多いが、それでも読ませてくれるところにこの作者の力量が見えるというものであろう。
東まゆみの”魅せる”技術は一体どこにあるのか
では、なぜ東まゆみ作品は「見たことのある」ストーリーばかりなのに、こうまで飽きないのか。
一つは、やはりキャラクターデザインであろう。
東まゆみの画力は他の女性漫画家の追随を許さないと筆者は度々述べているが、その真価はキャラクターにある。
アシェアやジィンを始めとする女性キャラクターも、ヴォルクスやアートといった男性キャラクターも、目を引くデザインでどこまでも飽きさせない。繊細な書き込みやきっちりとキャラに決まったファッションをした彼らが、画面全体を使った派手なアクションをしてのける様は、見る者をどこまでも引き付けるであろう。
こういったキャラクターは、ゲームには多く存在するが、漫画には意外と少ない。おそらく、作画が凄まじく大変だからだろうと思われる。世にあるファンタジー作品のキャラクターたちの服装は意外とシンプルで、ベタ一色やシンプルなトーンのコートなどを着ていることが多いものだ。
だが、東まゆみは手を抜かない。武器や服の模様、皴にいたるまで、一切手を抜かず、作画崩壊することもない。そのプロ意識というべきものが、東まゆみが支持される理由なのではないだろうか。
もう一つには、王道に沿ったサブストーリーの存在である。
何度も言うが、アシェアとジィンの物語は、非常にありがちなものだ。国を奪われた少女と、それを支える忠臣であり武器である女性の物語。彼女たちを支える協力者と、立ちはだかる敵たち。トラブルを幾重にも乗り越え、物語は進んでいく。
だが、そのメインストーリーの間に挿入される、小さなストーリーのかけらが実に良い味を出している。
例えば、ヴァペル=ビジの女王ハルとエディルレイド・ミディイルの物語。一見するとアシェアの好意的な協力者に過ぎない物語の端役である彼女たちには、深い絆があった。年齢が変わらないエディルレイドのミディイルは、ハルが幼少期の頃(まだ女王として即位する以前)からの親友であった。
しかし、アシェアによる太陽の儀式が失敗し、ヴァペル=ビジが崩壊。ミディイルも亡くなってしまう。アシェアの前では威厳ある女王だったハルが、親友の死に涙する……という悲しい物語でヴァペル=ビジのエピソードは閉じられる。
このヴァペル=ビジ編は、太陽の儀式を進めつつ、終盤でアシェアの闇が見えるというメインのエピソードであるが、こういったサブキャラクターの話を丹念に描くことによって、先のカシー=アイル編と被らせない構成となっている。
魅力的なキャラクターがいるからこそ為しえる技なのだろうが、彼らの人生を丹念に描いてこそ、東まゆみ作品はベタを超えて読み応えのある作品に転化しているのであろう。
惜しむべくは、連載の遅さ
しかし、『蒼』は連載開始から12年が経っているのにも関わらず、現在は既刊8巻と遅々として進まない。一年前に始まった『紅』が2010年に完結しているのにも関わらず、この遅さは一体どういったことだろうか。
その原因は、一重に掲載誌の不安定さにあるだろう。『蒼』は『コミックブレイドMASAMUNE』→『月刊コミックブレイドアヴァルス』と、何度も掲載誌の移籍を繰り返している。
『コミックブレイドMASAMUNE』は月刊から年に四回の季刊、隔月刊誌へと移行し、のちに廃刊するなど、とんでもなく脆い足場なのだ。こんな状況で連載をしていては、完結しないのも仕方がない話である。
マッグガーデンのこうした不安定さは一体どういったことに起因するのか不明であるが、読者としては非常に困りものだ。廃刊と創刊を繰り返し、そのまま消えていった良作のなんと多いことか……。
出版業界が不況であることは承知しているが、もう少し後先考えた雑誌作りを目指してほしいものである。
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