ドラマにもなったお仕事漫画
たった既刊4冊にも関わらず、知名度はバツグンな女性漫画
漫画『働きマン』の知名度は高い。菅野美穂主演でドラマ化されたことも大いに関係しているのだろうが、ウルトラマンのようなポージングを取る主人公・松方弘子の第一巻コミックカバーは、書店でも長い間平積みされていただけに、記憶している人は多いはずだ。
それだけ書店にとってこの『働きマン』は「売りたい本」であり、かつ「売れてる本」でもあるのだろう。おそらく、世の中の人々で『働きマン』の名前を聞いたことがない人は少ないのではないだろうか。
しかし、驚くべきことにその知名度とは裏腹に、『働きマン』の既刊はたったの4巻である。打ち切りではなく、2008年から休載しているのだ。2016年現在からさかのぼるに、休載期間はおよそ8年にもわたっている。
作者・安野モヨコは『働きマン』以降、ぽつぽつとコミックスを出しているものの、長期連載は少ない。おそらく体調不良が原因と思われ、再開のメドはたっていない様子だ。大変残念であるが、連載再開を待ちたい。
『働きマン』にみる「無常なる社会人の生きざま」
さて、『働きマン』のストーリーやキャラクターは、女性漫画によくありがちな偶像劇の短編アンソロジー形式だ。主人公の松方弘子だけでなく、出版社に働く人々(男性社員も含まれる)にスポットをあてられた話も多く存在する。
こういった形式の漫画は、さほど珍しいものではない。著名なレディースコミックの多くは短編アンソロジーの形式を取っているものが非常に多いのだ。おそらく、レディコミの読者層である20代~の女性がより感情移入しやすいように、様々な立場・職種の女性を置きたいという考え方に依るものかもしれない(ちなみに『働きマン』は『モーニング』での連載だが、安野モヨコの経歴と出版社の売り方を見るに、ターゲットは女性向けかな、と勝手に思う次第だ)。
ではなぜ、そのなかで『働きマン』がとりわけ世間の注目を集めるに至ったのか?
まず一つには、松方をはじめとした主人公たちが身を置く、雑誌編集という過酷な環境にあるだろう。
一般的な人々にとって、雑誌編集という仕事の大変さはなんとなく知ってはいても、実態を知っている人間は少ないだろう。
著名人のゴシップを集め、ニュースの真相を追い、街で広まる噂を徹底的に追跡するゴシップ誌業界。コンビニや書店などで必ず見かけ、テレビ番組でもネタ元にされることが多い。
『働きマン』はその内情に迫っている。雑誌としての紙面割りの問題、張り込み取材の過酷さ、連載小説のターゲット層の把握の難しさなど。読者層の広い週刊誌だからこそ扱うネタは手広く、それだけに編集者たちは苦労をしている。
いつも何気なく週刊誌を手に取っている我々は、「あぁ、こうやって作っているんだ」と(フィクションと知りながら)納得させられる。
「お仕事漫画」自体はそう珍しいものではないが、妙に説明的であったり「仕事観」を押し付けるものが多い。しかし、『働きマン』は編集者の個性と実生活を絡めることによって、「社会人のプライド」と「一人間の本音」の両者を上手く描いている。
この辺りが、『働きマン』の魅力であろうと筆者は考える。おそらく、女性漫画家である安野モヨコならではの切り口であろう。女性漫画にある「社会人の本音」と男性漫画にある「社会人のプライド」が、ほどよくミックスされているため、新鮮に感じるのだ。
また、松方は優秀な雑誌編集者であるが故に、上司や同僚から厳しい言葉を浴びせられることも多い。
残念ながら、社会において女性はいまだに閑職に置かれがちだが、よくも悪くも男性と同じ扱いを受ける松方の境遇に驚いた人も多いのではないだろうか。
しかし、松方は女々しくへこたれたり泣いたりしない。真性の「働きマン」であるが故に、言いにくいことを発言したり自ら現場に切り込んでいったりする。それが、女性読者の憧れを集めるのではないだろうか(実際、松方のように働ける女性は少数派だと思う)。
『働きマン』は硬派な「お仕事漫画」だと思う
筆者は『働きマン』を読むまで、ずっとこの漫画をレディースコミックだと思ってきた。おそらくドラマの影響や、コミックスカバーに影響された部分が多い。
だが、実際に読んでみると、この漫画は男性・女性読者問わずの「お仕事漫画」だということに気づかされる。理由は前項にも述べたとおりだ。
しかしながら、筆者と同じように「『働きマン』をレディコミ」と思っている人は少なくはないだろう。そのせいで、世の男性読者から手に取られにくいのは非常に残念である。
『働きマン』が休載されて久しい。だが、この漫画は「全ての社会人に贈るお仕事漫画」の看板を掲げていい作品だ。いち早く連載再開し、また新たな読者を開拓することを切に願っている。
そのときはまた『モーニング』か女性誌に移籍するべきか、本当に難しいところだけれども。
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