描かれていない部分を想像して楽しむ作品
こんな高校生活送ってみたい
クラスの友達とは仲が良く、誰とでも話せる。クラス全体の雰囲気も良い。授業もさほど苦にはならず、成績もそこそこ取れている。授業が終わると、放課後は部活。まずはティーティム。ちょっと演奏して、再びティータイム。ちょっと演奏して、少し疲れたらダベって、最後にティータイムで下校……。基本的にそんな毎日の繰り返し。
いつ練習しているんだ、という声をよそに新入生歓迎会や文化祭ではすごい演奏を披露して高校中を楽しませる。夏は合宿、部員の一人の家が所有する別荘に出かけられる。設備が整った中、存分に練習できる。が、ここでも練習はそこそこに海水浴や花火を楽しむ。そして卒業旅行にも行く。しかも海外に、である。結構な旅費がかかるはずなのに、両親は特に渋るわけでもなく即座に許可が出る。
主人公たちがものすごく充実した楽しい表情を浮かべる。それを見るたびに、「うらやましすぎる」、「こんな高校生活なら送ってみたかった」、と思う人も多いのではないだろうか?
絶対に練習しているはず
しかし、よくよく考えてほしい。あんなことをずっとしていて、新歓や文化祭であんな演奏ができるのか、ということを。できるわけがない。もちろん、プロ並み、という演奏ではない。だが、ある程度は形になっている。そのレベルに達するのは一朝一夕にはいかない。このことは「けいおん!」のライブで声優さんたちが生演奏をするのに何か月もかけて必死に練習したというエピソードからも想像に難くない。
つまり、“放課後ティータイム”も絶対にまじめに練習をしている時間がある、ということだ。確かに、合宿の時に少しだけまじめに練習をしているエピソードがある。また、主人公の妹曰く、「お姉ちゃんはやればできる子」だそうで、実際に合宿でも一人練習をしていたし、顧問の先生の特訓をうけて短時間でレベルアップしていた。もっとも、あの時は声を枯らしてしまったが、逆に言えば、それだけ集中力を持って練習できる、ということにもなる。
まじめな練習風景は作品の中のエピソードとしてはほとんど出てこない。やっても面白味がないからだ。まじめに練習して、発表会でそれなりの演奏を披露する。実に当たり前ではないか。当たり前のことをやっても面白くない。もしそういうストーリーだったら「けいおん!」という作品はここまで人気になっていないだろう。
「普段はティータイムばっかり、いったいいつ練習しているんだ?」と思わせておきながら、本番では会場のみんなを魅了する演奏をやってのける、というところに、この作品の一番の面白さがあるのだ。
でも、実際はきちんとした練習を相応の時間やっているはずだ。そうでなければあれほどの演奏は無理だ。
どんな練習をしているのか想像してみる
それではどんな練習をしているのか?それを考える、というのもこの作品の見方の一つだろう。わずかに描写のある練習風景やセリフなどが考える材料になる。
とりあえず1曲演奏してみる。演奏が終わると、澪と律はドラムの走りすぎについて言い合っている。ムギは間違えずに弾けたことを「よしっ」と一人で称賛。唯はうまく弾けなかったところについて梓の指導を受けている……。
また別の曲を演奏する。今度はうまく弾けた唯。梓に褒められて照れている。律のドラムもいい感じだったようで褒める澪。褒められるのに慣れていない律はこそばゆくなって「褒めるのやめろ」と身体じゅうを掻いている。ムギは相変わらず一人で反省中。今度はそこにフォローを入れる律「そこ以外はちゃんと弾けてたよん」。にっこり喜んでいるムギ……。
これが筆者が想像する“まじめな”練習風景の一幕である。まじめな時はティータイムは挟まず、時間がたつのを忘れて演奏練習を繰り返している気がする。
描写がほとんどないことで自由な想像ができる。あなたはどんな練習風景を想像するだろうか。
練習以外でも想像して楽しむ
この「けいおん!」第1シリーズは高校に入学してから高2の文化祭までの約1年半を12話で描いている。第2シリーズが高3の1年間を24話で描いていることから考えても、どれだけ駆け足なのかが分かる。描ききれなかった行事もあるわけで、そういう行事で、主人公たちがどういう行動をとるのか、というのも想像してみるのも面白い。
例えば、女の子のお祭り“ひな祭り”。作品中は全く語られなかったが、放課後ティータイムが絡むとどうなるのか。学校にひな飾りを持ってきてティータイムなのか、それぞれの自宅へひな飾りを見て回るのか。いずれにしてもムギの家のひな飾りはとんでもなく豪華だろうなというのは容易に想像できる。
ひな祭りに限らず、その他のイベントなども、個性的な面々がそろっている作品だけに面白い想像ができるはずだ。
というように、作品で描かれていない部分を補完したり想像したりして楽しめる作品になっている。これも「けいおん!」の魅力と言えよう。
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