総員玉砕せよ!~水木しげる~
人気妖怪漫画家、水木しげる氏の実体験を元に戦場の悲惨さが描かれています。
日本帝国軍の一員として徴兵された水木青年が各地の戦場を転々とし、片腕を失う重傷を負いながらも帰還するまでの実話が描かれたものです。
水木氏が参加した太平洋戦争では、無謀な作戦や不合理な精神論のもとで多くの日本兵が犠牲になりましたが、この本では当時の日本軍がいかに組織として腐っていたか、上層部がどれほど無責任な体質であったかがありありと描かれています。当時の日本軍は味方兵でさえ虫ケラ同然の扱いをしていたのですから、現地人や捕虜に対する扱いも察して知るべし‥といえるでしょう(個人では立派な指揮官や兵士もいましたが)。
もっとも、今の日本社会を見渡しても当時の日本軍とあまり変わらないのかもしれません。非正規派遣社員等が不当な賃金で働かされていたり、会社を支える正社員も過剰な長時間労働を強いられ、果てはパワーハラスメントを受けていると報告されるケースが多くなっています。それに付随する過労死や訴訟等が巻き起こり始めています。組織の成長や維持のためであれば、末端構成員がどれほど犠牲になっても構わないという思想は現代の日本社会にも蔓延っており、旧日本軍と変わるところはありません。
人間は組織、社会の中で生きる動物ではありますが、自らが属するコミュニティが暴走を始めた場合、個人としてどのように抗うべきか、権力はどのように腐敗するかを改めて認識させてくれる一冊といえるでしょう。- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)