岩井俊二作品好きに新たな道を提示する - 市川崑物語の感想

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市川崑物語

4.004.00
映像
5.00
脚本
4.00
キャスト
2.00
音楽
4.50
演出
4.50
感想数
1
観た人
1

岩井俊二作品好きに新たな道を提示する

4.04.0
映像
5.0
脚本
4.0
キャスト
2.0
音楽
4.5
演出
4.5

目次

研ぎ澄まされた語り方

真黒な画に一行が映し出される。語りすぎない短文で語られていき、その間に挿入される写真や作品タイトルと作品そのもので、画がパッと動き出していく軽やかな語り方・見せ方である。よくある手工だが、縦文字にするか横文字にするかは絶妙に考え込まれているし、挿入される写真もカットインか上から、横からスクロールするのかよく練られていると思う。その為に飽きことなく観れる。カットの切り替えの速度もサクサクと早くめくられていくテンポの良さを出しつつも、しっかり語りかける部分はゆっくりと間を絶妙に使いこなしていると感じた。まるで人気の紙芝居師がバックで動かしているようで、伝記ものとは思えないほど楽しめるのである。なかでも間の取り具合には凄さを感じた。長すぎず、絶妙に観客を引き込ませる間。これまで名俳優の芝居を演出してきた岩井俊二監督だからこそ掴めた間なのではないだろうか。

音楽使いも素晴らしい。作品自体の音楽は作品挿入の際にパッと大音量で印象深く切り込んでくる。独自に入れている音楽は挿入する作品の音楽を味わい深く感じさせるように引き立て役をしかと務めていたし、全体の語りの雰囲気を昇華させるものであった。その為、音楽は全体を乱すことなく語りに色を与えていた。市川崑さんがトーキーのアニメーション出身だったのを受け、トーキーの手工を取り入れているのだと思うが、とても上手に「市川崑物語」は仕立てあげられていた。

この練り込まれた映像演出は90分間飽きることなく最後まで存分に楽しませてくれる。そして、最後の最後エンドロールまでも遊び心に満ち溢れているので最高である。岩井俊二監督が物語中で語っているように「犬神家の一族」のタイトルバックには意表を突かれたし、かっこいいと思ったと語っていただけに、エンドロールをそれにしたのは岩井俊二監督の市川崑さんへのリスペクトを大いに感じるものであった。岩井俊二監督が果敢に最後まで挑戦的にやり切ったことで、「市川崑物語」は研ぎ澄まされた物語になったのである。

市川崑物語というより市川崑と和田夏十の物語

市川崑と和田夏十のこの夫婦のエピソードが素敵だからこそ、二人の絆に関するエピソードに重きを置き、その色を余すことなく語っている「市川崑物語」は胸を打つものとなった。私が女性であり、語られている和田夏十さんの生き方への憧れによってその気持ちが増幅されているのかもしれないので、男性も同じように感じるかは分からないが、多くの女性は絶対にこの物語に胸を打たれるのではないだろうか。岩井俊二監督に市川崑さんが語った話の中で、一番奥さんの和田夏十さんには特別な思いがあったというのを岩井俊二監督はちゃんと受け止め、語りの主題に置いている。市川崑さんの作品一つ一つに対して岩井俊二監督自身の考え、リスペクトしている部分をもっと語っていきたい思いもあっただろうに、そこへの比重よりも二人のエピソードに比重を置いたのは効果的であった。なぜなら、私のように映画にあまり詳しくない人間にとって、「市川崑」自体あまり知らないので、作品に関する内容が多いと、疎外感を感じてしまったかもしれないからである。その点に関して「市川崑物語」は抵抗がない。むしろ、この「市川崑物語」のおかげで市川崑作品、和田夏十作品に興味が沸いた。そう考えると、岩井俊二監督の狙い通りなのかもしれない。本当に好きだからこそマニアックに語るのではなく、一般的な受けがいい路線で認知度や関心度を上げ、その後に繋げる道を選んだのではないだろうか。

ちなみに、タイトルを「市川崑物語」とするのではなく「市川崑と和田夏十の物語」にしたらいいのではないかという思いはないので注意したい。「市川崑物語」でいいのである。なぜなら、この物語で十分に市川崑という人物に和田夏十はなくてはならない存在であったことは自明であるからである。つまり、市川崑という人間の主成分は和田夏十が構成しているわけで、わざわざ「市川崑と和田夏十の物語」としなくていいのである。したらしたらで、興ざめな気持ちになっていただろう。

岩井俊二監督作品

私は岩井俊二監督作品の優しい、やわらかい映像表現にはまり、彼の作品の追っかけをする中で今回の「市川崑物語」に出会ったわけである。先ほども述べた通り、私は市川崑作品について知らなかった。これを見て「犬神家の一族」の監督が市川崑さんだったことを知ったぐらいである。そして、この「市川崑物語」を機に市川崑作品も辿っていきたい、辿っていかなければと感じた。なぜなら作中で岩井俊二監督が市川崑さんに直接会い、「オリジナルだ」と感じたわけであるからである。岩井俊二監督が市川崑さんに「君のは逆光だね」と言われたというエピソード。将に逆光表現が私の好きな優しい、柔らかい映像表現の要であるのだ。これまで見た岩井俊二監督作品「四月物語」、「Love Letter」、「スワロウテイル」でこの逆光表現の効果は人物の優しさを表現するだけでなく、人物の弱さや儚さを表現するものであると感じていた。この表現の原点であると称される市川崑作品、必見である。

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