卒業シーズンにピッタリの一冊
無理なことを可能にする男、伊勢崎
人は頭のなかで無理だと思ったことをどれだけ実行できるのだろうと思いました。できないことの方が多いような気がします。不可能を可能にするそのためにだったら、今この一瞬一瞬を考え抜いて実行に移す。その男が伊勢崎。「俺達は日常を繰り返して繰り返して、その速度に慣れていく。だからたまには景色を変える。全力疾走もありって事で」最初の物語を読んだ瞬間、伊勢崎風にいうなら「なんか胸にズバンと入った!」まさしくこの表現がピッタリである。走れ、伊勢崎と心のなかで応援してしまいました。御鈴廊下をどうやって突破するのか、わからないまま友人を信じて走る彼の姿にも感動しましたが、一緒に怒られるであろう運命の倉田もかっこいいと思ってしまいました。常識で考えると、自転車で門まで走る。これしかなかったように思えます。しかし、彼は開かずの扉の無理だと言われる御鈴廊下を突破する方法を選びます。憧れのマドンナ、ナギセさんに会うために卒業式という最後のシーンに間に合わせるために必死です。テストをさぼれば簡単だったのに「テストさぼった奴が一緒に帰りたいって・・・出来ん!絶対だめだろ!」どこまでも爽やかな男である。この御鈴廊下の貼り紙が異様にいいのである。「男子禁制、勉学本業」はわかるのです。「御鈴廊下は江戸にあり」いやあ、笑いました!こんな細かい設定が好きです。いつか使おうと思っていたものを貯めていると、こんなところで宝箱を開けるように出てくるんですね。漫画のこういう細かい設定のみを拾い出して、再構築をして、自分なりの味つけをすると作品に再反映できるのかなとも思います。私だったら違うアプローチをするでもいいと思います。いろいろな可能性を考えさせられた漫画でした。
今日という日を大事に
「青春は若い奴らにはもったいない」ジョージ・バーナード・ショーの言葉をさりげなく入れてあるのがすごいです。この青春攻略本を見て、バーナード・ショーに出会えたので、是非こんな感じのことをちょくちょくやって頂きたいなぁと思います。青春攻略本を片手に調べ物をしました。調べ学習というと固くなりますが、自分の興味を持ったことを調べるのは楽しいです。
高校生ならお手軽にハンバーガーとか食べそうですが、そうではなくて、蕎麦を食べるシチュエーションもちょっとしたことが他の漫画と違っていていいです。このちょっとした読み飛ばしそうなところの設定を少し変えるだけで、違う漫画になるというのをはっきりと明確にあらわしています。青春漫画はたくさんあるけど、それらのものにどう差をつけるのか、どういった作品に仕上げるのか、腕の見せ所なのです。
熱くならない倉田が花火を見た瞬間に、あいつらと見たいと思い、走り出す。「いつか将来のどこかで、この夏のことを思い返したとして、その時の自分にもったいないとは言わせない」高校最後の夏、きっとこのメンバーで花火を見るのは最後かもしれない。大事な場面、彼はやっとで気がつく。ダメな思い出ほど、心に毎年突き刺さったまま、夏を迎える。そんな夏は嫌だといって走り出す。私達も振り返ってみると、もったいないと思うことがある。あの時、これをやっていれば、私の人生は変わった。確かにそう思いたくない。人は今の瞬間を大事にしながら、つなげていく毎日を送っている。明日が大事なんじゃない。今が大事なんだと伝えてくれています。ベンジャミン・フランクリンの言葉に「今日という一日は、明日という日の二日分の価値がある」「今日できることを明日に延ばすな」というふたつの名言があります。今日という日を大事に生きてきたフランクリンだからこそ、あの偉大なる業績を残せたのでしょう。今日という日は、二度とこない。大事に一瞬一瞬を生きていきたい。背筋をピンと張って、自分に嘘をつかないで毎日を生きていきたい。そう思えてきます。この漫画の全部に流れているテーマも今日という日を大事にということだろうなと思います。高校生活の最後の春から冬にかけて受験、卒業も含めて、寂しさとうれしさとそのごちゃごちゃに入り乱れた感情を上手に表現してあります。
泣けるような青い空
「俺達3年生は、今日がこの神山で仲間と過ごせる最後の1日になりました。バカみてえでも、大騒ぎできて、ぶつかったりしても嫌にならなくて、3年間の高校生活は、間違いもなく迷うこともなく、いつもまっすぐだったとは言えないけど、そうやって全力で過ごしてきた毎日全部が、この先の俺たちの指針になるのなら、こんな強い味方はねえなと思います」ラストの答辞の伊勢崎の言葉です。答辞役に伊勢崎が決まった瞬間、いや、そこは倉田だろうと思いました。倉田ならそつなく問題なく、終わりそうだったのですが、伊勢崎にあえてしたところが冒険だなと思いました。案の定、ラストのラストでやってくれました。走り出す伊勢崎を仲間たちががっちりサポートしてくれます。走り出したら、止まらない男なのをよく知っています。そうして、答辞に臨みます。それが爽やかでちゃんと伊勢崎らしさも出ている言葉でした。全力で過ごしているのか?と問われているようで、毎日毎日を適当に過ごしている身としては、今後、が、がんばりますとしか言えません。でも、何かに必死になるというのは、すごいエネルギーがいるけど毎日今日もやれたと言いながら眠れるんだなと思いました。目標の日があると、その日を目指して1日1日を過ごしてしまうようになってしまうけど、そうではなく、この1日が適当に流せる日々ではなく、大事な日なんだなと気づかされました。
あきづき空太さんの出ているコミックスは「赤髪の白雪姫」「ヴァーリアの花婿」ファンタジーの世界ですが、「青春攻略本」が現代のお話しです。出会ったのは、青春攻略本が先だったので、ファンタジーを描くんだと逆にびっくりしてしまいました。ファンタジーの世界も持っている熱さ、熱のようなものは伝わってきてあきづき先生流だなと感じました。是非、こんな青春攻略本のような現代もののお話をもっともっと描いてほしいです。空が本当に美しく描いてあり、青春の空にぴったりの内容でした。
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