どこか懐かしくみずみずしい青春を過ごす男子高校生たち
青春ってなんだろう、その答えがここにある
あきづき空太さんの繊細で明るい画風で描かれる物語は、少女漫画のレーベルでは珍しく、メインキャラクターは全て男子高校生です。全二巻という短い構成でありながら、LaLa本誌では不定期連載だったということもあり、季節の移り変わりとともに一話一話が進み、全体としてよくまとまっているオムニバス形式の物語です。
主人公とその友人、合わせて四人の男子高校生たちが、それぞれのストーリーごとにメインとなって物語を動かしていきます。隣の女子高の先輩に「卒業おめでとう」と言いたくて奔走する話では、主人公の無謀ともいえる計画を助けるために、普段は冷静でふざけることに興味なさそうな友人が手を貸してくれたり、「男の子っていいなあ」と思えるようなやりとりが満載で、学生時代の馬鹿らしい自分をふと思い出してしまうような、そんな懐かしさがあります。
メインの男子高校生四人それぞれのストーリーは、主人公のようなほんのりとした恋心の話であったり、友人に対して素直になれない情の話であったり、卒業を目前にして進路に戸惑う将来の話であったりと様々で、どれも胸に突き刺さる何かがあります。
春、夏、秋、冬と季節が廻るにつれて、ひとりひとりのストーリーと同時に夏祭り、文化祭、受験などのイベントの話も入ってくるので、まさに青春そのものを凝縮したような物語となっています。あるある!と思わず前のめりになってしまうようなことや、「男の子だなあ、」とにやけてしまうことなどが盛りだくさんで、読んでいて癒されます。
ストーリーもさることながら、絵が美しい
「赤髪の白雪姫」で一世を風靡した原作のあきづき空太さんですが、この方の書かれる物語はどれも美しくてどこか儚い魅力が溢れています。それに加えて、線の細い繊細なタッチの絵が特徴的です。
少女漫画によくあるのが、女性を極端にかわいく(体つきを細く小さく、眼を大きく、など)、男性を極端にたくましく(体つきを大きく厚みのある、眼を細く、など)描くことですが、この方の絵柄ではそういった極端な性差は感じられず、むしろ男性キャラも女性キャラも爽やかな印象で描かれていて性をあまり感じさせません。この独特なすっきりとした絵柄もまた、ストーリーによりのめりこむための要素の一つだと思います。
それに加えて、光や水の透明感の表現が素晴らしいです。紙一枚の上のものだというのに、プールの水は冷たくて気持ちよさそうですし、花火の灯りは夜空に映えて綺麗ですし、ラムネの瓶ひとつにすら光の差し込み具合のこだわりが感じられて、とても丁寧な作画だと感じられます。
「赤髪」では中世ヨーロッパ風の世界観だったので、装飾品などひとつひとつにこだわりを感じられる絵だったのですが、「青春攻略本」では現代の高校が舞台なので、学校机や黒板の落書きなどの設備や小道具に細かい書き込みがなされていて、読み返すたびに新たに発見しては吹きだしてしまいます。小さな笑いを仕込むのを忘れない、それでいて物語が崩れない。絶妙なバランスで支えられているストーリーだと思います。
忘れかけていた心を思い出させてくれる
弓道部所属の主人公・伊勢崎と、同じ部活で人付き合いが苦手な友人・倉田の関係は、友情が発展するさまを近くで観察しているような気分になります。倉田の袴姿に心惹かれて同じ部活に入り、共に道場で練習したり、放課後にピアノを弾く倉田の傍にいたりと、傍から見れば「仲良いね」と言いたくなるようなことをしているのに、本人たちは一話の伊勢崎の「計画」に関わるまでは至って普通の、知り合いよりも親しい、くらいの認識だったのが驚きです。
男子の距離感はとても独特で、女子にはさっぱり理解できない関係性があるように思っていたのですが、少なくともこの「青春攻略本」の世界では、男子は至って単純に考えすぎているだけで、だから基本誰に対してもフラットな付き合いをしているだけなのだと感じます。
倉田はその弓道の才能を生かして、伊勢崎の計画の手助けをします。そのやりとりから彼らはほんとうの意味で「友人」になり、やがて他の二人、上村・野上ともつるむようになります。一話またぐと季節も一緒に跨ぐので、なんだか一足飛びに関係性が変化しているような気もしますが、幕間のやりとりを想像するのもまた一興です。
最終話で、卒業式の答辞を読むことになった伊勢崎に対する倉田や上村・野上の対応が、さっぱりしているんだかあたたかいんだか分からない温度のやりとりで、お調子者の伊勢崎が普段どんなふうに扱われているのか垣間見える気もしますが、最終的に背中を押すのはやはり彼ら友人たちでした。
伊勢崎たちの卒業と同時に終わってしまう物語ですが、読了後もまだ彼らを追いかけていたいと思ってしまいます。それと同時に、ここで綺麗に終わってしまってすっきりとした気分にもなります。
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