日本家屋の縁側で宇宙を語る - プラネテスの感想

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プラネテス

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日本家屋の縁側で宇宙を語る

4.54.5
画力
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ストーリー
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キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.0

目次

手が届く宇宙

『宇宙、それは最後のフロンティア』 懐かしくも耳に心地よい、ご存知アメリカTVドラマ「スタートレック」の冒頭フレーズです。男女問わずこの作品が大好きで、影響を受けたクリエーターは多いはず。宇宙開拓をテーマにした漫画は少なくはないと思いますが、ごくごく身近で実現可能を感じさせ、なおかつ等身大の人物がじっくり描かれたヒューマンSFドラマがこの『プラネテス』です。スペースデブリとは、地球衛星軌道上を漂う人工物のごみのことと知られていますが、個人的にこの呼び名を一般に浸透させるに一役買った作品だと思っています。

ほぼ同時期に連載の始まった太田垣康男氏の『MOONLIGHT MILE』も宇宙開発ものですが、時代設定は2000年代で、現実世界は作品連載時の時代を越えてしまいました。まだまだ宇宙は一部の優秀なエキスパートのもので、鍛え抜かれた二人の青年を主人公にしたストーリーはいかにも男臭く、緊張感に満ちた国際間情勢を背景に、権謀術数飛び交うキナ臭くもハードな内容でしたね。先攻して発表され、評価を得ていたプラネテスを意識した作品ではないかというのは勘ぐり過ぎでしょうか。

さらに先発の2作品より数年後に発表されたのが小山宙哉氏の『宇宙兄弟』。時代設定が現実よりほぼ10年先の未来ながら、3作品の中ではテクノロジーレベルが現代に一番近く、親近感の湧く絵柄と低年齢層にも理解しやすい演出は、宇宙開発入門書ともいえるでしょう。ただしこちらはまず月到達を目標に置き、実際の宇宙飛行士選抜試験をベースに主人公がコツコツと成長する物語です。一般人が特別な訓練を必要とせず、海外旅行に行くような感覚で月まで行ける時代に到達したのは、現実世界より半世紀以上経ったプラネテス時代に至ってようやくなのです。

あまり男性作家さんの漫画を再読することはしないのですが、骨太ながらとても情感にあふれているこの作品は別格なのですよ。主人公=星野八郎太の弟・九太郎は小柄な少年でしたが、漫画表現ならではの一瞬の時間経過で、彼が大きく成長した時の実写映像的表現には息を呑みました。

人類の生活圏となった月

当初この作品は長期連載の予定ではなかったのか、読み切り形態で不定期に掲載されていました。八郎太=ハチも主人公というより主要人物の一人といった扱いで、後になってどんどん性格や背景が固まってきた感じでしたね。しかし連載の経過で画力が格段に上がった作家さんです。初期からメカや背景はしっかり描かれていたのですが、登場人物は胸のあるなしで男女を見分けていたのは内緒です(^_^;) 

軌道上の設備を損壊させるスペースデブリ問題は、現代でも度々メディアに取り上げられることですが、ハチの仕事はそれを回収する通称「デブリ屋」。まずこの設定が面白い。そしてプラネテスの世界背景2070年代では、月にはごく普通に人々が居住しており、月で生まれ育った「ルナリアン」も僅かながら存在します。そしてデブリ屋も特殊技能職ではありますが、ハチはエリートではなくごく普通の青年で、たまに地球に帰省もします。実はハチの父親のゴローさん、腕利き宇宙船エンジニアなので結構な豪邸を構えているかと思いきや、その実家というのが本当に普通の中流家庭の日本家屋なんですよね。

ハチ以外のデブリ屋仲間も非常に個性的です。家庭持ちで、専業主夫の夫とトンガった息子を持つフィーは大好きな姐御です。後から新人として入ってくるタナベは、言動が空回り気味の不思議ちゃんでしたが、彼女の生い立ちが描かれてからは印象が変わりました。そして最初はちょっとつかみどころのなかったユーリの、亡き妻のエピソードは感動的でした。彼の妻の形見はハチの実家来訪時に、九太郎のお手製ロケットに乗せられて空にぶっ放されたのですが、よりにもよってユーリ達の乗った飛行機とニアミス起こしましたよ、危ねーっ! しかし探し物を高速で飛来するデブリから拾い上げるなんて可能なのかしら(・_・;)

そして木星へ

月に到達してしまった人類の目は火星と木星に向いており、後にハチマキも自分の夢を叶えるべく木星往還船のクルーを目指すことになります。ハチの夢は小さいながら自分の宇宙船を持つこと。宇宙船乗組員を「ふなのり」と呼ぶ時代なので、本当に現代における船乗りの感覚なのかも知れませんね。お母さんのハルコさんも、そんな旦那と息子にすっかり慣れっこであるようです。しかしながら星野一家のゴローさん、著名な宇宙科学者からオファーがかかるほどの航宙機関士で、後にハチも一緒の船で木星へ行くことになります。弟の九太郎は若干それに反発し、実家を度々破壊しながらロケット技術者を目指してるのですが、結構な宇宙家族じゃありませんか。この時代には普通のことなのかも知れませんが、ハルコさんも普通にバイリンガルでしたよね。

そして木星往還船のクルーとなるべくデブリ屋を退職したハチは、選抜試験をこなしながらますますトンガっていくのですが、信頼していた人物からの裏切り行為に遭った時はタナベに、晴れて正式な船外活動員として模擬訓練の最中、自我を失いかけた時は同僚のサリーにと、なにげに女性に救われてますね。自分の船で自由気ままに宇宙を飛ぶ夢もいつか変質し、真に求めていたものをタナベの中に見つけとことを機に彼女に求婚し、木星帰還後はデブリ屋に戻ることを決心したようです。

結局、ハチは自分を繋ぎとめるものを探し求めていたのでしょうね。それこそ宇宙を飛び回るスチャラカなゴローさんに不満を持ちながらも、妻のハルコさんは男共の好物のトンカツを揚げて、彼らの帰宅を待ってるんですよ。この作品の女性たちは本当に人間が出来ています。

ハチの帰還

物語はハチと父親のゴローさんを乗せた往還船が、木星に到達したところでひとまず終了しますが、十分続編が期待できる締めでした。プラネテス第一部完結から十数年………現在作者の幸村誠氏は、宇宙から一転、古代ヴァイキング時代をベースにした作品を長期連載中です………。ハチそっくりのトンガった顔つきで、毛の色を脱色させたような小柄な青年が、波乱万丈の末にどうやら安住の地を開拓する物語になりそうです………。フィーを彷彿させるパワフルドメスティックな姉ちゃんもいたりします………。ええ、プラネテスに劣らず、もしかしたらそれ以上に力の入ったとても完成度の高い作品です……。 

いつまでもいつまでもプラネテス再開をまってますよ。

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