CLAMPの生み出したスーパーヒロイン
女の子たちに夢を与えたヒロイン
『X』『ツバサ』『魔法騎士レイアース』など、第一線で活躍するクリエイター集団CLAMP。
CLAMP作品にはハズレがなく、手がけた漫画はいずれもヒットを飛ばしアニメ化している。出版社の枠にとらわれず、集英社や講談社など、様々な会社と接点があることからも、いかにCLAMPが評価・信頼されているかが透けてみえるというものだ。
元が同人作家だけあってか、CLAMPは読者の好みの的を射るのに非常に長けている。そのCLAMPが、『なかよし』誌上に送り出したニューヒロイン。それが『カードキャプターさくら』だ。
町中に散ってしまったクロウカードを封印するために、カードキャプターとして使命を果たす小学生の木之本桜。親友の大道寺知世が作った衣装を身に纏い、封印の杖を手に日々奔走する姿を描く。
ヒロインの木之本桜(以降、さくらと表記する)は活発で一生懸命な性格から、家族や友人など周囲にとても愛されている。困難な事態に遭遇しても、「ぜったいに大丈夫だよ」という”さくらの魔法”で乗り越えていく。変身ヒロインのテンプレート設定もありながら、CLAMPの描くデザインの可愛さと軽妙なストーリー展開で人気を博し、多くの少女たちが虜になった。コミックスの表紙デザインも、コミックスに添付されているクロウカードも、CLAMPの最強の武器であるデザインセンスが光り、読者を喜ばせた。
『セーラームーン』『おジャ魔女ドレミ』に並ぶ新時代のヒロインとして、『カードキャプターさくら』は歓迎されたのである。
メインヒロインの個性づけは見事の一言
世代、性別問わず人気を博した『カードキャプターさくら』。その人気の秘訣はどこにあるのだろうか。
まず、先にも述べたようにヒロイン・さくらがとても可愛いことにある。カードキャプターとして頑張っているときもさることながら、プライベートのさくらの姿もとても魅力的だ。母親を亡くしていながら、父と兄と三人でしっかりと家庭を守っている日々の生活風景、友達に囲まれた学校生活も、物語に色を添えている。ヒロインの”静”と”動”をしっかりとかき分けられているのも、ベテランの実力だろう。
また、クロウカードのバランスや個性付けが実に見事なことも大きな魅力である。最初、さくらが手にしたのは風の属性を持つ”ウィンディ”、以降、さくらに翼をあたえる”ウィング”飛翔の能力を持つ”ジャンプ”と続いていく。
風と翼、飛翔という”空を舞う主人公”としての個性をまず確立し、変身して空を舞い、街をかけるという少女たちの憧れを演出した。
空を飛ぶ行為への憧れは、多くの幼児たちの潜在意識のなかに刷り込まれているものだ。ピーターパンしかり、アメコミのヒーローたちしかり、(特に幼少期の)人間にとって、空を飛ぶという行為は特別な意味を成す。『カードキャプターさくら』もその前例に倣い、少女たちの憧れをしっかりと体現している。
また、クロウカードを捕まえる際、さくらがどのように工夫を凝らすかも見どころの一つだ。
例えば強力な力をもつ四大元素のなかで、水の属性を持つ「ウォーティ」。まだカードの揃わない序盤に出会ってしまい、苦戦を強いられるさくらだが、冷凍室に誘導することによって凍らせ、捕獲に成功する。
他にも同級生にとりついた「ソード」や正体のわからない「ミラー」など、各カードの出現や能力がよく練られていて、読者は次にどんなカードが出るのかわくわくできる。
主人公の個性づけ、メインパートとなるクロウカード捕獲にもこれだけ構成センスを見せたCLAMPは、流石ベテランということだろう。
CLAMPに死角なし。サブストーリー構成も盤石
すでにCLAMPの技量は証明されているが、サブストーリーにもセンスが光っていることを忘れてはいけない。
たとえば、さくらの兄である桃矢と、さくらの想い人である雪兎のエピソード。もともと親友関係であった二人だが、雪兎が月としての力を失っていくのをきっかけに、関係性が変化する。強い霊力を持つ桃矢が雪兎へ霊力を譲渡し、消滅を免れるというくだりだ。
ここで、雪兎が好きなのは桃矢だったとさくらが気づくことになる。また、桃矢も雪兎が好きであることが明らかになっている。二人の関係性の変化(しかし、表向きは何も変わっていない)が、後のさくらの恋愛にも影響を及ぼす。
さくらに「さくらちゃんとは違う意味で」好意を向ける知世といい、先生と付き合っているさくらのクラスメイト・利佳といい、『カードキャプターさくら』は漫画にしては珍しく”禁断”の愛に踏み込んでいる。
さすがは元同人作家というべきだが、下手をすれば嫌悪されがちな禁断の愛に堂々と踏み込んでいくのには「すごい」の一言だ。こういうフロンティアスピリットというか、堂々とわが道を行く姿勢も読者に熱烈に支持される理由だろう。
月の正体を観月と錯覚させるミエミエの読者だましは少々興を削がれるが、少女読者には好ましかったかもしれない。
『カードキャプターさくら』が完結して長いが、いまだにさくらを好きだという人は多い。大人女性向けのスマホカバーや化粧ポーチで『カードキャプターさくら』グッズが販売されるようになったのも、その人気が証明していることだ。
当時夢中になって読んだ読者たちに、ヒロイン・さくらの名は、永遠に刻まれていくのである。
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