誰もが一度は経験する気持ちが詰まった映画
人生の岐路に立った女の子は、自分の存在意義を求めている。
これは高校を卒業したての女の子の物語だ。主人公のイーニドはどこか冷めている。自分は周囲のくだらない人間たちとは違うのよ、といった具合だ。親友のレベッカと二人で、高校時代は周囲と壁を作りながら過ごしてきた。リア充な生徒は軽蔑し、ダサくて冴えない生徒には生ぬるい視線を送る。イーニドが何より軽蔑するのは、リア充な男たちだ。スポーツやギターが趣味で女をニヤニヤと眺めるような男。そんな連中にうんざりするのだった。映画の冒頭は、高校の卒業式の前夜、イーニドは部屋でお気に入りのインド音楽(昔の映画で使われたようなダンスミュージック)のミュージックビデオに合わせ踊り狂う。最新のヒット曲ではないところがイーニドらしい。この映画はサウンドトラックも大きな見どころのひとつだ。主人公イーニドが敬愛する音楽が映画の中で使われるため、観客はイーニドの部屋にいるような錯覚に陥るのだ。卒業式の日、卒業証書を手にイーニドとレベッカは学校へ向かって中指を立てる。イーニドに至っては、卒業式の帽子を床にたたきつけて踏みつける。イーニドの学生生活への冷めた気持ちが手に取るように分かるシーンだ。卒業証書を見たイーニドはギョッとする。夏休みの間、美術クラスに出席しないと卒業は認めないというメッセージがついていたからだ。レベッカは難なく卒業。レベッカも同じく冷めてはいるものの、卒なくこなせるタイプなのだ。
自分と周囲の隔たりを感じ、孤立していく主人公イーニド。
卒業後、イーニドとレベッカは大学へは行かず、何もせずに過ごす日々を送る。レベッカは自立し、イーニドと二人でダウンタウンのアパートへ引っ越す計画を着々と進めている。新聞で空き部屋の広告をチェックし、家賃のためにコーヒーショップでアルバイトを始める。そんな計画的なレベッカを、どこか冷めた目で見るイーニド。頑張り始めたレベッカに、違和感を覚え始めたのだ。そんな時、新聞の恋人募集広告が目に留まる。いかにももてなそうな男が載せた広告で、街中でぶつかった女性を探すものだった。レベッカが一言「電話してどんな男か見てやろうよ」イーニドはにやりと笑う。男の留守番電話に「金曜のお昼、レストランでランチしましょう」と吹き込むイーニド。とりあえず暇つぶしができる。金曜にレストランで張り込みをするイーニドとレベッカ。そこに冴えない男がやってくる。いかにももてないであろう外見の40歳くらいの男はきょろきょろと店内を見回し、ミルクシェイクを注文する。シェイクを飲み干す姿を退屈そうに眺める二人。期待外れだった。男はしびれを切らし、店を出ていく。イーニドは飽き飽きした様子で眺める。今日も大したことなかったな、と二人が店を出ると、車道から大きなクラクションと怒鳴り声。目をやるとさっきの男がブチ切れている。イーニドは目を輝かせ、「彼っていかれてるわ。あいつの家見てみたくない?」レベッカと男の家まで尾行するのだった。車から降りた男は冷静で、さっきの怒りが嘘のようだ。面白いやつ見っけ。そうイーニドは思った。後日また男の家に行ってみると、ガレージセール中。男はレコードを売っていた。イーニドは彼に親近感を覚え、レコードを一枚買うのだった。
特別な自分は幻想だった。現実に気付き始めるイーニド。
何をやりたいのか分からないイーニドは、周囲を軽蔑することで自分を優位に保とうとしていた。自分は他の人とは違う何かができるはず。けれど私は何をやりたいんだろう。考えても分からないから、イーニドはとげとげしているのだ。イーニドはノートを持ち歩き、街で見かけた人、感じた事を絵にして書き留めている。絵を描く事は、自分でもいい線いっていると思っていたが、美術クラスの教師からは評価されず、イライラが募っていく。特別な才能を持っているかもしれないという考えは崩れてしまう。自分は何も出来ない負け犬なんじゃないか・・・あんなに軽蔑していた連中と、自分の差は何も無いんじゃないか。親友のレベッカにさえ、劣等感を抱くようになり、距離を置くようになっていく。私が映画を見て感じたのは、「自分もこうだったな」ということ。イーニドは自意識過剰で、周囲の人間が自分を気にかけていて、意識されているものと思っている。その証拠に彼女は、しょっちゅう自分の外見を変えている。サングラスを複数個持ち歩き、髪の毛を突然グリーンに染めてみたりする。実際は、それぞれが自分の事で精いっぱいで、他人の事なんて気にしていない、という事実に若さゆえ気が付かない。誰も自分を気にかけていないと理解するのが怖いのだ。自分の存在する意味ってなんだろう。一人部屋でレコードを聴くイーニドの心が、どんよりと暗いのが分かる。かつての私もそうだったから。誰もがこの気持ちを経験するとは思わない。前向きなプラス思考の人や、目標意識が高い人には分からないだろう。この映画に共感すると思われるのは、明るい青春時代を送った人ではなく、どこか寂しい思いを抱えながら青春を過ごした人なのではないかと思う。一見するとイーニドは、現実と向き合おうとせずただ逃げている、口先だけの女の子かもしれない。けれど、内心は理想と現実との差に焦り、もがいているのだ。冷めた態度は自意識過剰の表れで、若さ特有のものかもしれない。- あなたも感想を書いてみませんか?
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